宿泊業・飲食サービス業の従事者に占める女性の割合は61.7%だが、管理職に限ると20%に低下する(※1)。また、入職者数は主要産業の中で最多だが、離職率も30%と最も高い(※2)。女性がライフステージに応じながらホテル業界で働き続けるための課題は想像に難くないが、この業界を選んで活躍する女性ホテリエールは、どのようにいまのキャリアを築いたのか?
※1:男女共同参画白書・平成29年(内閣府)、※2:労働力調査・平成29年(厚生労働省)
「輝くホテリエールの創出」をミッションに、高い自己実現意欲と後進人材の育成に情熱をもつホスピタリティ業界の女性有志が発足した団体「AXIA-Ladies in Hospitality(AXIA)」は、先ごろ、女性ホテリエや学生を対象にした初の「AXIA FORUM 2019」を開催。ホスピタリティ業界で活躍する現職の女性ホテリエなど約10名が、自らの経験をもとに家庭との両立からキャリア形成まで語りあった。立場や職種も様々な登壇者だったが、彼女たちが語った経験や思考には、共通点が多く見られた。
転職レジェンドのパラダイムシフト
基調講演では、転職エージェントで転職レジェンドと言われるmorichi代表取締役・森本千賀子氏が、AXIA代表理事の浅生亜也氏(SAVVY Collective 代表取締役CEO)との対談形式で登壇。多くの人々の転職に関わってきた森本氏だが、2017年に独立するまでは新卒入社の会社(リクルート)に勤め、結婚・出産を含む家庭生活と両立してきた。
転機は第2子出産後の職場復帰の時。ご主人が単身赴任となり、ワンオペ育児で仕事との両立に迫られたことで、復職後の業務を自己完結で仕事のできる転職コンサルタントに変更。自身が置かれた状況に応じてキャリアを変えた。以前の業務にやりがいを感じていたという森本氏は悔しい思いもあったというが、「自己管理の中で仕事ができるようになったので、外に目を向ける機会にもなりました。そうしたら、ことのほか面白くなって、今のライフワークに繋がりました」と説明する。
同時に、家庭ではシッターや家事代行サービスなど、積極的にアウトソースを活用。「1人目の時は(ほかの力を借りるのは)母親としてどうかという“呪縛”がありましたが、それを取り払ってパラダイムシフトすることができました。私がすべきことは、子どもに背中を見せて世の中が楽しいものだと伝えること。仕事は自分が楽しめるツールだと伝えることだと思います」。
そんな森本氏が来場者に対して呼び掛けたことが、「マネジメント(管理職)に挑戦してほしい」ということ。これに浅生氏も、「自分の人生に対してコントロールがとれると仕事が楽しくなるし、好循環になる」と同意した。
さらに森本氏は、今の時代は転職は当たり前で、仕事だけではなく、雇用形態や勤務地などの働き方も選ぶことができるとし、「人生の正解を見つけるのは自分自身。自分の手で正解にしてほしい」と呼びかけた。
好きな業務に就き、仕事を長く続けるために
また、「キャリアブレイクスルー」をテーマにしたパネルディスカッションでは、登壇者全員が“やりたいことを口に出して周囲に発していた”という結果に。
パレスホテル東京セールス&マーケティング部マーケティング室長の柳原芙美氏は、勤務先では通常、入社5年くらいの経験者に話のある海外営業職の打診を、2、3年目での早い時期に受けた際、「チャンスと思って食らいつきました」と、実現に向けて努力をしたことを説明。同時に「実はもう一人の候補だった人が『自分は興味がないが、柳原なら興味がある』とも話していたそうです」とも述べ、関心のある分野を周囲に話していたことで、「チャンスが回ってきたのかな」との考えを述べた。
さらに登壇者は全般的に、海外勤務や海外生活の経験者が多かった。「海外では日本人の頑張りが評価されないこともある。外国人上司の働き方を学べば、日本での働き方が変わると思います」(ザ・ロイヤルパークキャンパス銀座8総支配人・関寛子氏)と話すように、文化や商習慣、価値観のなかで働いた経験が視野を広げ、自身の仕事観や働き方などその後のキャリアに大きな影響を与えたようだ。
このほか、「ホスピタリティ業界での様々な働き方・関わり方」のパネルディスカッションでは、ホテル運営の直接的な仕事ではないが、ホテルに関わる事業者や、独立採算形式の社内制度を利用して遠隔地でマネージャー職を務める働き方を実践するパネリストが登壇。幅広い視点でホスピタリティ業界に関わる職種が多様にあることや、ライフステージに応じた就業の機会があることも共有された。
AXIA代表理事の浅生亜也氏は冒頭の挨拶で、「男性主導で語られてきた女性の活躍の課題を、女性の視点から捉えて業界に提言したい」とも話した。クロージングではHRM Inc.代表の高木瑞枝氏が会を振り返り、「働き方はいろいろなやり方がある。時間や場所にとらわれず、やりたいことにチャレンジしたり、状況に応じて働き方を変えてみるのも学びだったと思います」と総括した。
記事:山田紀子