中国市場でユーザー数3億人、グローバル市場(中国以外)でのユーザー数も1億人を超えるTrip.comグループ(トリップドットコム/旧Ctripグループ)。中国最大手OTAとして知られてきた同社は、グローバル展開を加速することでさらなる拡大を目指している。その核となるマーケティング戦略の総責任者であるTrip.comグループCMOの孫波(ソン・ハ)氏に、同グループのマーケティング方針から日本での展開まで聞いてきた。
-Trip.comグループのマーケティング部門の位置づけ、重要性、組織体制は?
孫氏 マーケティングはグループ全体のビジネス活動において、最も重要な機能である。
最大の目的はユーザーとトラフィックの獲得だ。我々は、多くの旅行サービスのなかから、ユーザーが最も関心を持つ商品を最適なシナリオで提供することに注力しており、そのためにユーザーとの継続的なコミュニケーションを重視している。加えて、市場調査も重要だ。ユーザーと市場ニーズを理解することが、当社のプロダクトとサービスにイノベーションを起こし、ビジネスを成長させる原動力になると思っている。
マーケティングチームは全世界で数百人に及び、大きく中国市場とグローバル市場の2つに分けている。そのうち、グローバル市場は本部が約50人、現地拠点のローカルマーケティングチームが約40人で、日本は約8人と最大規模だ。現在はアジア太平洋地域を中心に9か国地域にチームがあり、最近では豪州やロシア、英国でも活動を開始している。
昨秋の社名変更は、当社のグローバル展開に対する決意を示している。マーケティングではグローバル市場への投資を増やし、「Trip.com」の世界的な認知向上を強化していく方針だ。
-中国市場とグローバル市場での戦略の違いとその理由は?
孫氏 マーケティングではグローバルとローカルの視点を組み合わせて取り組んでいる。ただし、我々は全世界でマルチブランド戦略を展開しており、それぞれの市場でブランド開発や成長段階が異なることから、市場別にマーケティング戦略を変えている。
中国市場で展開するCtripはアクティブユーザー数が1日1000万以上を数え、すでに成熟したブランドとなっている。一方、グローバル市場のTrip.comブランドは参入の初期段階にあり、ブランドの認知向上とユーザーの信頼獲得が必要。この段階では、Trip.comのポジショニングと特徴を、ブランドコミュニケーションを通じて伝える活動が中心となる。
グローバル市場では、まだまだ成長段階にあり、各市場ではマーケティングの方法はもちろん、位置付けも変わってくる。その差をグローバルとローカルの視点で調整し、それぞれの国や地域にあわせて新しいマーケティングの方法も考えていく。マーケティングは一つの経験だけでは不十分であり、様々な取り組みでより多くのイノベーションを生み出していきたい。
-デジタルとオフラインでは、どのような使い分けがあるか?
孫氏 我々は、デジタルマーケティングに多くの投資を行なっている。ユーザーのカスタマージャーニーのほとんどが、オンラインで行なわれているためだ。オンラインではユーザーをターゲットグループに細分化してデータを取得し、ユーザー像の想定や効果測定もしやすい。
一方、オフラインのマーケティングは、ブランディングに効果的。テレビ広告など従来型のチャネルは、特にアジア市場で大きな影響力があり、幅広いユーザーに速くリーチできる。テレビ広告は、ブランドストーリーを伝えるのにも適しており、市場参入の初期段階ではオフラインチャネルを活用している。
-日本市場での方針は?
孫氏 日本は最も重要なマーケットの一つ。今後もより多くのリソースと人員を投入して注力していく。中国からの訪日旅行はまだまだ増えるはずで、その需要に応えたい。そして、日本人ユーザーのアウトバウンドにも大きなチャンスがある。この先も成長が続く市場との認識で、今後はブランディングをあわせた統合型のマーケティングを展開していく方針だ。
これに向け、日本の市場調査やテストを行なっており、日本でのブランディングでは安心感と信頼感が非常に重要になると判断した。それにあわせて、商品やサービスは品質を高め、一定水準以上に維持する必要がある。これは、社名変更時に当社共同設立者兼会長の梁建章(ジェームス・リャン)が掲げたグループ全体戦略の一つ「グレートクオリティ」にも合致している。
-成熟市場となった中国市場での具体的なマーケティング手法は?
孫氏 中国市場では、旅行者のほとんどが当社のアプリを利用するようになった。サービス開始後の数年間はアプリのダウンロードに注力していたが、現在はトランザクションの拡大に最も力を入れている。
その手法として重視しているのが、パーソナライズ化(個人への情報の最適化)だ。例えば、ウィンタースポーツ旅行の販売では、スキー関連の情報を見ているユーザーに冬スポーツ商品をリーチさせていく。その際は、当社アプリ内だけではなく、他のニュース系アプリにもユーザーの嗜好やオンライン上の行動に応じたターゲティング広告を出稿する。今の中国では完全にパーソナライズ化したマーケティングが可能になっている。
こうした活動は、これまでのマーケティングで培った影響力が基盤になっている。オンラインとオフライン、オフラインのなかには7000を超える店舗もあり、これらチャネルのすべてをあわせ、より多くのユーザーにリーチさせることができるようになった。特にオンライン上の広告プロモーションでは、億単位以上の人にリーチし、かつ、高い転換率を実現している。
-これまでのマーケティング活動の中で、印象深い事例は?
孫氏 2018年からグローバル市場での露出を増やし始めたが、その時に韓国で初めて行なったブランド広告がある。英国女優ティルダ・スウィントンさんを起用したもので、その結果、約半年でTrip.comのブランド認知度が2.4倍になった。2019年には韓国の消費者が選ぶ旅行ウェブサイトの年間最優秀ブランドにも選ばれた。
スウィントンさんは、米映画「ドクター・ストレンジ」と、韓国人の映画監督がメガホンをとった韓・米・仏合作の「スノーピアサー」に出演しており、韓国でも一定の認知がある。広告では、「ドクター・ストレンジ」で演じた役柄の知恵と権威のイメージを活用してTrip.comのブランドコンセプトを伝えた。この試みは、韓流スターが広く使用されている韓国市場で際立ち、それが成功したのだと思う。
また、2019年にはグーグル(Google)が優れたデザインを表彰する「マテリアルデザインアワード」で、「ユニバーサリティ」部門を受賞した。これは、Trip.comブランドが世界から良い体験だと認められた象徴だと思っている。
-東京オリンピックに向けての取り組みは?
孫氏 東京オリンピック・パラリンピックは好機として大いに期待しており、世界の観戦客が東京に来てから満足してもらえるような準備をしている。その内容は、具体的な施策が整い次第、発表する予定だ。2020年はマーケティング活動にとって、大きな年になると思っている。
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このインタビュー後、Trip.comでは、2月に日本でもプロモーションを開始した。テレビCMを打つなど、日本での認知向上やブランディングを一気に進める考えだ。
取材協力:Trip.comグループ