ホテルを「宿泊として売らない」、「非対面・非接触」で満足度向上、テクノロジーで生み出す宿泊施設の新しい価値をSQUEEZEトップに聞いた

テクノロジーの力で、「無駄」のない「価値の詰まった」社会を創造するを企業理念として、宿泊施設の効率的な運営ソリューションを提供するSQUEEZE (スクィーズ)。展開するのはプラットフォーム事業とスマートホテル事業。SQUEEZEが宿泊施設で創り出す価値は、ウィズコロナの現在、そしてアフターコロナの未来に向けて示唆に富んだものだ。2014年創業のスタートアップが目指す価値とは。コロナ禍を生き抜く知恵とは。同社CEOの舘林真一氏に聞いてみた。

民泊から学んだことからビジネスを立ち上げ

SQUEEZEは、民泊のトータルサポートサービスから事業を始めた。舘林氏がこのビジネスを立ち上げたきっかけは、実家の賃貸経営物件をエアビーアンドビーに掲載したことだ。「それまで空室で悩んでいたが、掲載した途端にタイや台湾から予約が入り、賃貸収入の3倍くらいの稼ぎになった」と当時を振り返る。

その経験から、2つのことを学んだという。

ひとつは、貸す先を選べば不動産の価値は変わり、収益が上がること。もうひとつは、当時赴任先のシンガポールからリモートで運営をしていたことから、テクノロジーの力でホテルのMC(運営委託)のようなビジネスも可能になるということ。

シンガポールのトリップアドバイザーでマーケティングなどに従事していた舘林氏は、IT×トラベルの領域に関心が高かったこともあり、民泊新法施行前で民泊の立ち位置がまだ曖昧な頃から、民泊の代行サービスを始めた。サービスの特徴としてシェアリングエコノミーやテクノロジーを活用。清掃スタッフは主婦の登録制にし、空き時間に仕事にしてもらうシェアリングエコノミー的な仕組みを作り、外国人カスタマーサポートでは、海外在住日本人のネットワークを作った。

「民泊の運営をただ代行するだけでなく、各サービスをソーシングして、それをプラットフォーム型にして、事業を回した」と舘林氏。その蓄積したノウハウをもとに構築したのが宿泊運営SaaS「suitebook」。清掃管理、スマートロック機能。在庫管理、集客・マーケティング、業務報告、コンシェルジュ機能などを集約したプラットフォームで、民泊をはじめ宿泊施設の業務を改善し、効率的な運営をサポートする。これまでに2000以上の施設への導入実績があるという。

インタビューに応える舘林CEO

効率化と体験を重視する宿泊施設運営

SQUEEZEのビジネスの肝は、テクノロジーによる宿泊施設の運営効率の向上だ。5年前から取り入れている非対面・非接触のカスタマー対応も固定費を抑制するための発想。そのアイデアは、コロナ禍中のニューノーマルで、感染防止という別の需要で求められている。

「民泊運営代行での効率化のノウハウは、ホテル運営でも適用できるのではないか」。その考えを具現化させたのが、自社ブランドのアパートメントホテル「Minn」。2017年9月オープンの大阪・十三を皮切りに、今年5月には蒲田にも広げ、8月には上野で開業した。また、京王グループから、蒲田と笹塚で長期滞在社向け宿泊施設「Kario」の運営も受託し、スマートホテル事業の幅を広げている。

Minnでは非対面チェックインやスマートキーなどテクノロジーの力で効率化加えて、同社が力を入れているのが、宿泊×エンターテイメントの「Theatel(シアテル)」だ。客室にはプロジェクターを設置し、大画面で映画などを楽しめる空間を演出。ネットフリックスを見放題にしている。また、共有スペースではeスポーツや企業研修などのイベントスペースとしての活用も視野に入れる。今年7月にオープンした札幌の「シアテル札幌すすきの」では、コロナの影響で無観客試合となった日本ハムファイターズの試合を観戦するパブリックビューイングも開催した。

「Theatelは、宿泊ではなく、体験として売っていく。宿泊として売らないことを大事にしている」と舘林氏。単純な宿泊では、ホステルやカプセルホテルと差別化できず、価格競争になってしまう。需給バランスで価格を変動させるダイナミックプライシングも、宿泊がコモディティ化した結果だとし、装置産業としての空間の利活用に注力することで、「宿泊だけでない収益源を作っていく」考えだ。

「シアテル札幌すすきの」のラウンジフロアには巨大なスクリーンを設置

スマートホテル事業の収益は9割ほどを占め、同社の屋台骨となっている。その実績から、最近では施設運営のコンサルティング業務も増えており、昨年比では3倍の伸びになっている。舘林氏によると、このコロナ禍で大企業は「通常のコストカットではなく、劇的なコストカットを考えている」という。

オペレーションを効率化すれば、販管費は抑えられ、価格も下がるが、一方で顧客満足度を落としては元も子もない。SQUEEZEが運営する施設でも、「非対面・非接触」によってコストは抑えられるが、当初はその対応を表示してなかったことから、施設の評価は低かったという。しかし、「非対面・非接触」をあえて表示するようになってから、顧客満足度は向上。非対面と分かったうえでのサービスに対して期待値は上がった。「期待値をどこに設定するか。そして、それをいかに超えていくかが重要」とコンサルの一端を明かした。

注目するのはステイケーション、新しい価値を創造

SQUEEZEは、4月の緊急事態宣言発出前に資金調達を実施した。舘林氏は「その資金でやることはシンプル」と話す。まずは販管費を削減し、新規採用も一時ストップ。借り上げ案件は、収支を見ながら撤退も考えるなどより筋肉質なコスト構造にしていく。そのうえで、改めて「宿泊や空間だけでは売らない。体験を売っていく」と強調し、そのひとつの取り組みとして「休暇を近場で過ごすステイケーション需要の開拓に力を入れていく」方針を示す。

今年5月にオープンした「Minn蒲田」の稼働率はコロナ禍でも5月50%、6月68.4%と伸ばし、7月も順調に予約が入ったという。その需要の多くがステイケーション。「ホテルのようなサービスはないが、サービスアパートメント以上のアメニティは用意してある。自宅とは違った空間で日常から少しだけ開放される人たちに好まれている」という。

利用者の属性で多いのは20代や30代のカップルや家族。Minnのホームページのページビューもこの3ヶ月で2倍に増えているという。ステイケーションは海外では、自宅があるのにわさわざ近くのホテルに泊まることから、ちょっと贅沢な旅のスタイルとして認知されている。日本ではまだ認知度は高くなく、需要も多くはないが、「1泊1万円前後で楽しんでもらえるものを提供していきたい」と意欲を示す。

新型コロナの影響はSQUEEZEにとっても大きい。インバウンドは完全にストップ。帰国者の自主隔離需要はあったが、4月と5月は前年比で3~4割の収入減で「完全に赤字」の状況だ。舘林氏は、今後の旅行市場の需要回復について、「楽観的な見方よりも半期ほど遅れると予測している」と話す。今年12月まで需要低迷は続き、来年1年をかけて国内旅行需要が回復。2022年にインバウンドが回復期に入ったあと、2023年に完全回復すると見ている。

その見通しのもと、今年8月にオープンした「Minn上野」では、国内旅行市場向けにオペレーションも販売方法も変えていく。

コロナ禍以前から続く新しい旅のカタチの模索は、ニューノーマルの時代に加速している。

「これまで宿泊施設は万民向けに整備されてきたが、これからは一定の層に刺さるものが必要とされるだろう」。

SQUEEZEは、旅のカタチの変化に合わせて、宿泊施設の新しい価値を創造している。

聞き手:トラベルボイス編集部 山岡薫

記事:トラベルジャーナリスト 山田友樹

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