米司法省は2020年10月20日に11州とともにグーグルを反トラスト法(日本の独占禁止法)違反で提訴した。嫌疑は、グーグルは、ネット検索において「独裁的な力」を行使し、反競争的で排他的な流通を推し進めているというもの。
重要なのは、訴訟には旅行やエクスペディアやブッキングドットコムなどの旅行会社についてあまり言及されていないが、グーグルフライトやグーグルホテルなどに対する旅行業界の懸念にも取り組む動きが出てきそうなことだ。
今回の提訴は、反トラスト法違反についてだけでなく、グーグルフライトやグーグルホテル、あるいは最近力を入れているバケーションレンタル、ツアー/アクティビティに関して、公平な競争環境を求める旅行会社にとっても重要になってくる。
グーグルは、一般的な検索を独占することで、インターネットへの玄関口として特別な力を発揮してきた。グーグルには、数ある選択肢の中からユーザーに最良の答えを提供し、第三者のウェブサイトへと導いていく「自動改札機」としての自負がある。しかし、何年にもわたって、グーグルはオーガニックなリンク先をページの下の方に追いやり、代わって広告や自社のバーティカルあるいは専門的な検索を優先してきた。
今回の訴状の中では、グーグルが広告検索を独占していることで、グーグルに対抗するスタートアップへの投資が集まりにくくなると指摘している。
ワシントンDCの裁判所に提出された64ページにもわたる訴状は、今後の巨大IT企業に対する米政府の姿勢を表すものと言えるだろう。米司法省、米連邦取引委員会、米議会、各州はグーグルだけでなく、フェイスブック、アマゾン、アップルにも目を光らせている。
グーグルの反応は?
今回の提訴について、グーグルは「重大な欠陥があり、嫌疑が不透明だ」と主張している。同社グローバルアフェア担当上級副社長のケント・ウォーカー氏は「グーグル検索は、世界の情報を何十億人の人たちの手に渡すものだ。技術者たちは、最高のサーチエンジンを開発し、それを常に改善している。人々がグーグルを使うのは、グーグルに代わるものが他になく、人々がグーグルを選んでいるからだ。決して我々が利用を強要しているわけではない。今回の提訴は消費者のためにならない。反対に、質の悪い検索エンジンが現れ、検索サービス全体を劣化させ、通信料の高騰にもつながる」と主張している。
グーグルは、アップル、マイクロソフト、アンドロイドなどの端末メーカーの関係には言及しているが、旅行業界や他の業界との問題には触れていない。
旅行業界にとってはいいことか?
米司法省によると、検索の市場規模は年間500億ドル(約5兆2300億円)。グーグルがそれをほぼ独占しているなかで、今回の提訴は、旅行関連広告主にとって朗報となる可能性がある。エクスペディア・グループやブッキング・ホールディングスなどは、グーグル上での広告費として年間数十億ドルを費やしているが、それは自社の広告だけでなく、世界中の旅行関連会社の広告塔の役目も果たしている。
訴状では、「グーグルの排他的な契約による反競争的な効果は、市場のどのような反競争的な利益よりも大きい」と訴えている。米連邦政府に加えて、アーカンソー州、フロリダ州、ジョージア州、インディアナ州、ケンタッキー州、ルイジアナ州、ミシシッピー州、ミズーリー州、モンタナ州、サウスカロライナ州、テキサス州も今回の提訴に追従している。いずれの州も2016年の大統領選でドナルド・トランプ大統領が勝利したところだ。
訴状では、グーグルの反競争的な活動を排除し、市場の競争原理を回復させる一時的あるいは恒久的な措置を求めてはいるものの、一般的な検索、検索広告、テキスト広告の改善の可能性については曖昧なままだ。
トリップアドバイザー相談役のセス・カルバート氏は、「グーグルは現在、消費者や競合相手を保護する『守衛』という立場をとっているが、今回の提訴は、その役割を弱めるための壁を築くことになる」と歓迎している。
また、カルバート氏は「問題ははっきりしている。グーグルは一般の検索を支配し、競争をせずに、無知な消費者を自社の他のビジネスに誘導することだ。この提訴は消費者の勝利になるだろう。トリップアドバイザーは、透明性、大量の知識、活力ある競争など、高い品質の商品やサービスを生み出すうえでインターネットに必要なことを守っていくためにアメリカの当局に協力していく」と続ける。
グーグルの影響を受けてきたOTA
グーグルは、自社サービスとしてグーグルフライトやグーグルホテルへの検索でもその独占力を行使し、最近では、バケーションレンタルやツアー/アクティビティでもその影響力を強めている。旅行業界は長年にわたって、そうしたグーグルの独占的な行為を非難してきた。
OTAに加えて、トリップアドバイザーやカヤックなどのメタサーチ(旅行比較サイト)も、オーガニックなリンクをページの下位に表示し、広告をページのトップに置き、自社旅行ページを優遇するなどグーグルの戦術に大きな影響を受けてきた。
米連邦取引委員会は、2011年と2012年にも反トラスト法違反でグーグルを調査した。同委員会は、グーグルがトリップアドバイザーやYelpのユーザーレビューを奪い取っているととして訴訟を考えたものの、実現はしなかった。
欧州委員会(EU)は、ネットショッピングおけるグーグルの反競争的行為に対して、2017年と2018年に約80億ドル(約8360億円)の罰金を課したが、旅行ビジネスでの行為にも今後何らかの措置が取られることも考えられる。
トランプ政権が偏向報道があるとグーグルの攻撃を始めたのは2018年のこと。時を同じくして、司法省も検索結果の意図的な操作について調査を強めた。
トリップアドバイザーとエクスペディアは、2019年第3四半期に、グーグルの戦術によって業績に悪影響が出たと公に認めた。エクスペディアは今回の提訴について今のところ何のコメントも出していない。
※ドル円換算は1ドル104円でトラベルボイス編集部が算出
※この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
オリジナル記事:U.S. Antitrust Lawsuit Faults Google for Abusing Monopoly Power — What It Could Mean in Travel
著者: デニス・シャール(Dennis Schaal)、Skift