アメリカの国立公園で訪問者急増、オーバーツーリズム対策に着手、人流分散に必要なのはテクノロジーとキャンペーン【外電】

アメリカで、パンデミックに端を発するアウトドア観光でのオーバーツーリズムが問題視されている。昨夏には、米国内の国立公園とその玄関口となる地域に、過去最高記録を上回る数の人々が押し寄せ、しかも大部分の人は、これまで国内でのアウトドア体験がない初心者だった。

もちろん訪問客の増加や、アウトドア体験ブーム自体が問題なのではない。いま急務となっているのは、人気の国立公園の状況を把握し、現時点だけでなく、5~10年先まで見通した上での来訪者マネジメント戦略を策定することだ。ただし、この問題を解決するにあたり「どんなサイズにもぴったり」の万能策は存在しない―。

以上は、2021年7月下旬に開催された米上院のエネルギー&自然資源分科会で、参加者の意見が一致した要旨だ。同分科会には、国立公園サービス局(NPS)の監督官など政府当局側と、観光業界の代表が出席。国立公園についてヒアリングを行い、訪問客増による混雑悪化の影響や現地の実態、長期的な解決策案などを検討した。

「多くのアメリカ人が、国立公園を以前より楽しむようになったことは喜ばしい」とメイン州選出のアンガス・キング上院議員。「だが一方で、そもそも保護が必要だから国立公園に指定されているエリアなので、混雑悪化は、自然資源や野生の生態系に有害という認識が不可欠だ。故意ではなく、自然を愛するからこその行動であったとしても、結果として破壊につながることもある」。

国立公園保護協会の政府担当上級副社長、クリステン・ブレンゲル氏によると、国立公園への訪問客数は、2019年は3億2700万人。2021年はこれを上回る過去最高記録に達する見込みで、イエローストーン国立公園では、4月時点ですでに40%増となった。ザイオン国立公園では、トレイルの起点に入るまで4時間待ちになる時もあるという。

NPSと民間事業者は、人気の高まりによる経済効果を取り込みつつ、国立公園に隣接する地域を守り、旅行者の体験についても期待外れにならないようにするという難題に直面しており、すでに複数の解決策やアイデアが動き出している。例えば、時間予約制のチケット発行システム、車の混雑緩和に向けた国立公園内シャトル・サービルの運行増などを、試験的に導入する動きもある。混雑が激しいホットスポットを見つけ出し、情報提供するためのデジタルツール活用も必要だ。

スタッフ数と訪問者数の推移(2000~2016年)

混雑により生じている問題は、他にも色々ある。まず、分科会で話し合われたことが、国立公園のスタッフ不足。ここ数年、訪問客数は増え続けているのに対し、スタッフ数は増加の兆しが見えない。また、多様化する家族像に即した公平なサービス提供や、保護地域に隣接する地元コミュニティが被る弊害などの問題もある。

解決への道程は長く、一筋縄ではいかない。それでも官民挙げての議論がスタートしたことは、アウトドア体験を扱う旅行業界が抱える大きな課題がひとつ、解決に向けて動き出したことを示す、明るい兆候だ。

人混みと車の流れを変える

米国には計423の国立公園があるが、訪問客の半分は、このうち23カ所に集中。なかでも特に混雑がひどいところは12~15カ所と、国立公園サービス局(NPS)の地区ディレクター、マイケル・レイノルズ氏は説明する。同氏の管轄地区は、テキサス、オクラホマ、ニューメキシコ、コロラド、ユタ、ワイオミング、アリゾナ、そしてモンタナ州の一部で計85カ所。年間の訪問者数は計5700万人にのぼる。

レイノルズ氏によると、様々なオーバーツーリズム問題への取り組みが、数カ所の国立公園で始まっている。地元や地域の観光関係者が共同で持続可能な旅行をプロモーションしたり、車の渋滞緩和にシャトルバスを運行したり、自転車と歩行者の共用道路を設置している。

「入場時間を管理するシステムを導入した国立公園も複数ある。アーカディア国立公園では、車両予約システムを開始。グレイシャー、ロッキー、ヨセミテの各国立公園では、それぞれの問題に対応しながら、時間指定の入場チケット制を試験的に実施している。

同様に、ロッキーマウンテン国立公園では園内すべての駐車場で、時間指定の入場システムを試験導入中。訪問者の分散に加え、駐車場待ち行列や渋滞を減らすことが狙いだ。

アーカディア国立公園の監督官、ケヴィン・シュナイダー氏によると、同公園内にあるキャデラック・マウンテンの駐車場で、新しい予約システムを導入したところ、訪問客から非常に喜ばれるようになったという。

「利用者からオンラインでレビューをもらっており、そこから評価が分かる。キャデラック・マウンテンの駐車場には150台しか停められないので、同時に何台も登ってくると、大変だった。予約制にする前は、500台の車が押し寄せることも珍しくなかった」。

人流分散にはテクノロジーとキャンペーンが必須

今回の分科会で、上院議員からの関心が高かったのは、国立公園サービス局(NPS)による長期的な混雑解消策に、テクノロジーを活用することや、知名度が低い国立公園や観光地を知ってもらう方法についてだった。もちろん、多言語での情報提供になる。

レイノルズ氏も、テクノロジー活用は、パズルを完成させる上で、非常に重要なピースの一つとの考えで、NPSのモバイルアプリを使い、様々なソリューションを提供することも一案と話す。

「我々の組織における悩みは、国立公園には詳しいものの、プログラマー人材は決して多くないこと。とはいえ、支援者やステークホルダーは多く、助けてもらっている。同じような課題に取り組んできた経験者の協力を仰ぎながら、解決策を探っている」。

需要分散の手法の一つが、デジタルニュースレターとキャンペーンだ。

「訪問者数が少ない国立公園の監督官には、教育活動と情報発信を大幅に強化するのをはじめ、地域観光局に取り上げてもらったり、新規の訪問客誘致につながる特別イベントや教育プログラムを実施するよう求めている」とレイノルズ氏。

アメリカ国内に向けた情報発信については、NPSができることがまだ沢山あるはず、とレイノルズ氏は話す。

「国立公園がある地域に到着した旅行者は、新しいモバイルアプリ『レクリエーション.gov』を使って、様々な観光地について調べられる。最新のモバイル技術を駆使することで、ブルートゥースを利用した車両のトラッキングなどが可能になる。西部地域では、ネットワークの帯域も接続環境も万全だが、さらにハイウェイを管理するパートナーにも協力をお願いして、もっと積極的に発信すると言う方法もある。

一方、グレイシャー国立公園への玄関口、ホワイトフィッシュの商工会議所でエグゼキュティブ・ディレクターを務めるケビン・ガートランド氏からは、新しいチケット発行システムによって起きた問題についての指摘があった。原因は、導入の決定が遅れたことだ。夏のピークシーズンまで60日を切っていたことや、訪問客や関係者への事前の通知が足りておらず、かえって混乱を招いた。

「来年の夏も、同じやり方にするかどうか、数か月以内に決めなくてはいけない」とガートランド氏は話す。「多くの人は、訪問する時期の1~2年前と、かなり早い段階から予約を入れ始めるため、入場システムの変更を知らないままだった」。

ガートランド氏は、大々的なキャンペーンを実施し、情報を広めるべきだったと振り返る。国立公園のスタッフらがどんなに尽力しても、新しいシステムの運用には不確定要素がどうしてもあり、イライラや不満が起きるからだ。

まずは国内で旅行者の啓蒙を

NPSと民間事業者のリーダーたちは、問題解決のカギになるのは、訪問客の教育であるとの見解で意見が一致した。具体的な手法には、マーケティングキャンペーンや多言語の表示、さらに詳しい社会調査の実施などが挙った。

国立公園保護協会のブレンゲル氏によると、今、各地で深刻な問題となっているのが、トレイル以外の場所に入り、生態系に害を与えたり、先住民族による岩の壁画を傷つけたりするケースが増えていることだ。増え続ける落書きやゴミ、さらには不適切な場所での人間の排泄にも対処しなければならない。

「こうした不快かつ有害な行動から推測されるのは、きちんと準備しないまま、国立公園へレクリエーション目的でやってくる旅行者たち。パークレンジャーがこうした人々にもっと関わり、教育を行う必要がある」。

レイノルズ氏は、NPSのキャンペーン「Plan like a park ranger(パークレンジャー流の旅支度)」を例に挙げ、「万一に備えた計画や、事前予約が必要な場所についてアドバイスしたり、知らなかった国立公園を紹介すること」が、訪問客サポートになると話す。

現地に到着する前の段階で、旅行者に情報を届けることも重要なポイントだ。また、訪問者の行動パターンについて、どこから来て、次にどこへ向かうのかなど、詳しく把握するためには、調査を実施することも必要だ。

「とにかく旅行者が出発する前に、メッセージを届け、現地の実情について知ってもらうこと。これが、いま我々が試行錯誤しながら取り組んでいる課題だ」(レイノルズ氏)。

公平性と多様性を再確認しよう

また国立公園保護協会のブレンゲル氏が問題提起したのが、国立公園の運営や来訪者サービスにおける公平性と多様性の実現だ。米国の国立公園やアウトドア体験が、あらゆる人に対して開かれた場へと変わるために、まず取り組まなくてはならない最重要トピックだ。

「国立公園サービスに求められていることは、黒人や先住民族、有色人種の人々にとって快適で楽しい場所になっているか、自らに厳しい目を向けてチェックすることだと確信している。こうした観点から、安全性を確認する必要がある」とブレンゲル氏。

さらに同氏は、言語やコミュニケーションで、英語以外の言葉にも対応できること、入場料の値上げは、混雑対策としては機能せず、むしろ低所得者が訪れにくくなると指摘した。

例えばヨセミテ国立公園では、昨年から予約システムを導入したものの、ラティーノ・デイの日に訪れたラテン系の人々には、英語表記のみの入場方法が伝わらず、混乱が生じた。予約システムの存在自体を知らない人もいた。

社会科学的なデータも不足している。低所得者層のファミリー客が国立公園を訪れない阻害要因は何か? 週単位のパスや一日パスを利用しないのはなぜなのか?

「公平性とインクルージョン(多様な価値観を受け容れること)を全面的に取り入れる覚悟がある。訪問客層の多様性こそ、アメリカらしさだ」と話すNPSのレイノルズ氏だが、多言語化の実現が、決して簡単ではないことも承知している。

緊密な協力体制作りに不可欠なローカルコミュニティの参画

マイク・リー上院議員(共和党・ユタ州選出)は、イーストザイオン国立公園における官民共同での取り組みについて、訪問者が少ないエリアへ、人々を分散するのに成功した事例として紹介。レイノルズ氏は、様々なステークホルダーが参画する仕組み作りが、目標達成につながったと評価した。

「ザイオンでの自然保護活動は、他の国立公園にも奨励したいモデルケースと言える。すべての人が議論に参加することで、問題発生を防ぐことができる」(レイノルズ氏)。

ホワイトフィッシュ商工会議所のガートランド氏は、グレイシャー国立公園の新チケット制度を巡るトラブルを例に出しつつ、訪問客マネジメントにおいて重要なポイントは、隣接する地域の住民にとって、国立公園が身近な存在であるかどうかだと指摘する。

「地元の人々は、蚊帳の外に追いやられていると感じていないだろうか。実際に現地で暮らし、働き、国立公園の入場パスも持っているのに、いざ出かけようと思ったら、他の地域から押し寄せる300万人もの訪問客と、限られた数の入場枠を巡って競争しなければならない」(ガートランド氏)。地元住民の生活クオリティーを維持することも、商工会議所の大切な役割だと付け加えた。

「地元住民にも国立公園を楽しんでもらえるように、工夫する必要がある。誰を、どのように優先するべきか、検討課題は山積みで、難しい判断も求められる。それでも、やらなければいけない」。

※編集部注:この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:U.S. National Parks Boom Is Great But Overtourism Solutions Needed Urgently, Say Senators

著者:Lebawit Lily Girma氏、Skift

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