世界的なPCメーカーのレノボ社は、2022年3月中旬から4月中旬にかけて、チリのロビンソン・クルーソー島で、「究極のテレワーク×ボランティア活動」をテーマとした「Work For Humankind」プロジェクトを実施した。参加者は世界各国から公募。2回目のグループには日本からフリーランスクリエーターの山口智さんが参加した。
このプロジェクトは、旅先でテレワークによる本業を行いながら、週20時間のボランテイア活動を行い、現地の課題解決に取り組むもの。世界的な自然保護団体「アイランド・コンサベーション(Island Conservation)」がサポートした。レノボ広報によると、候補地には日本の奥多摩を含めて5カ所ほどが挙がっていたが、「課題の深刻さからロビンソン・クルーソー島に決まった」という。
人口約900人のロビンソン・クルーソー島
山口さんは、Facebookでこのプロジェクトのことを知り、「大自然の中でリモートワークをしながら、ボランティアで島に貢献できることに魅力を感じた」ことから、応募した。
ロビンソン・クルーソー島は人口約900人。「出産に備えて、電気を確保するために、島全体で節電するようなところ」(山口さん)だという。また、島の97%が自然保護区に指定され、特有の生態系が形成されている。世界的な釣りのメッカで、コロナ前は本格的な海釣りを求めて、日本からも旅行者が訪れていた。
あらゆる人にテクノロジーの恩恵を届けることを目指しているレノボは、このプロジェクトのために島に「テクノロジー・ハブ」を構築。高速インターネットなどを備えたワークスペースを用意した。プロジェクト終了後は、このハブはデジタルツールを備えた図書館に移行し、島の課題のひとつである教育を支援していくという。
自由にワークバランスを設定
ロビンソン・クルーソー島には孤島ゆえの課題も多い。たとえば、果物や野菜など生鮮食料品はほぼすべて本土からの輸送に頼っているため、配送が不定期で、輸送中に腐ってしまうこともあるという。この課題を解決するために、山口さんをはじめグループメンバーは、現地のプロジェクトマネージャーや地元住民の意見を取り入れて、グリーンハウス(ビニールハウス)を建て、パクチーやハーブの栽培を始めた。プロジェクト終了後も「レガシー」として現地住民が引き継ぐ。
山口さん自身は、観光再開を見据えて、地元の食文化を伝えるショートフィルムを制作。地元レストランのシェフたちと繋がることができたことから、帰国後もSNSなどで食の魅力を発信していく考えだ。
日本と13時間の時差があるロビンソン・クルーソー島。山口さんは、日本時間に合わせてワークバランスを設定した。朝4時に起床し、8時くらいまで仕事。朝食を挟んで、午前中はテレワークを行い、午後の2時間はボランティア活動。自由時間は、ハイキング、シュノーケリング、カヤックなどで島の大自然を満喫した。
7カ国から集まった11人は、獣医師、インフルエンサー、海洋生物学者、ウェブデザイナー、エンジニア、ライターなどそれぞれ専門知識やスキルを持った人たち。彼らもそれぞれ自国の時間に合わせてワークバランスを考えた。「週2日はずっと仕事をすると決めていた参加者もいた」(山口さん)。
「コミュニティの大切に改めて気づいた」
これまでいろいろな旅をしてきた山口さん。しかし、「これほど現地の人たちと深く関係を持つことはこれまでなかった。これからも、こういう旅を続けていきたい」と話す。
また、ボランツーリズム(ボランティア・ツーリズム)についても考えることが多かったようだ。「ボランティアを通じて、現地の人たちと繋がることで、コミュニティの大切に改めて気づいた。信頼関係が深まるほど、幸福度も高くなってくる」。いわゆる、ソーシャルキャピタル。人々の協調行動が活発になることで社会の効率性が高まることを実感したという。
「単に現地にお金を落とすだけでなく、自分のスキルを還元するような旅は、自分の可能性を広げると思う」と山口さん。国内では、リアルな関係を求める若い世代を中心に、ボランツーリズムの機運は高まっているが、「海外でもその需要はあるのでは」と付け加えた。
山口さんは、2018年にカナダの大学を卒業し、これまで主にフリーランスで仕事をしてきたが、「このプロジェクトはこれからの働き方の方向性を決めるきっかけになった」と話す。プロジェクト終了後は企業への就職も考えていたが、参加者の自由な働き方に触発されて、考え方が変わったという。今後も「自分の時間を自分で決められ、いろいろなところで働ける」フリーランスで仕事を続けていく考えだ。
トラベルジャーナリスト 山田友樹