タビナカ予約「クルック(Klook)」の共同創業者兼CEO(最高経営責任者)のイーサン・リン氏(写真)が2023年2月に来日し、急回復する訪日インバウンド市場の現状と課題について話した。
クルックが取り扱う訪日インバウンド旅行需要は、2022年10月以降、急回復している。日本が入国規制を緩和してからわずか2カ月後の昨年12月時点で、日本はデスティネーション別で同社取扱の1位(インバウンド売上ベース)。日本より数カ月早く海外客の受け入れを再開したタイ(2位)やシンガポール(3位)を上回った。
「日本には四季があり、スキーなど季節ごとに様々なアクティビティが楽しめること、都市からリゾートまで幅広い訪問先があることが、他のアジアのデスティネーションと比較した場合の強み」とリン氏。またクルック利用客は全体の7割が45歳未満で、ミレニアムやZ世代が多いことも、ポスト・パンデミック期の需要回復が早い一因になっている。国別では、韓国、東南アジア、台湾が目下、訪日インバウンド市場回復の牽引役になっているが、今後は香港や中国本土からの旅客増も見込んでいる。
日本国内の都市別では、東京と札幌の2都市で2022年の予約規模が2019年レベルを突破。特に東京は2022年比26%増となり、展望施設「SHIBUYA SKY(渋谷スカイ)」など最新スポットへの関心が高いという。一方、大阪は同15%減、福岡は同40%減。沖縄は、外客受け入れの本格化が秋以降だったという季節要因に加え、島内の移動に欠かせないレンタカー不足などがボトルネックになり、コロナ以前の半分以下にとどまった。
リン氏は、パンデミック下での制約がようやく解除されつつある段階の日本国内では、受け入れ体制がまだ完全に戻っていないと指摘。これに対し、海外から訪れる旅行者側は「久しぶりの日本なので、平均滞在日数はコロナ前の4~5日から7~10日と長くなり、広域を周遊できるJRパスの需要が増え、都市だけでなく郊外や地方への関心もある。またグループやファミリー層が増え、利用レンタカーの車種ではSUVへの要望が目立つ」(同氏)。こうした需給間のギャップを解消し、訪日インバウンド市場の活性化につなげることに意欲を示した。
リン氏は、現状の問題点として「人手不足」「オーバーツーリズム」「時代遅れの非動的なコンテンツ」の3点を挙げ、その解決策としてクルックのソリューションやツールを日本市場向けに訴求していく考え。
オーバーツーリズム対策では、商品の多様化を狙い、昨年秋からデジタル観光周遊パス「Klookパス」を提供開始している。現在は東京、大阪、沖縄の3都市で、それぞれ十数カ所の観光スポットを取り上げている。
同社の日本法人、クルックトラベルテクノロジーの増田航ゼネラルマネジャーは「すでに有名な観光地だけでなく、知名度が上がりつつあるところも加えた。まだ知られていない観光スポットの提案や、訪問先の分散化につなげたい」と話し、対象地域の拡大や、「温泉」「スキー」などテーマ別の企画も検討していく考えを示した。
コンテンツ提供については、「今や、SNSでの動画活用が欠かせない」と指摘。クルックでは、自社メディアだけでなく、各国で提携している1000人以上のKOL(キー・オピニオンリーダー)やインフルエンサー経由で新しい日本滞在の楽しみ方を発信しており、各地の最新情報アップデートなどに貢献できると話した。