なぜパイロット不足が起きたのか? LCC大量欠航で浮き彫りになった世界のパイロット事情と未来予測

ピーチ・アビエーション(MM)は、今夏大量の欠航便を余儀なくされた。原因はパイロット不足だ。リスク・マネージメントの甘さを指摘されても仕方がないところだが、実はピーチに限ったことではなく、また、LCCだけの課題だけでもなく、航空業界全体においてこの問題の本質は根深い。ピーチの大量欠航は、その問題をあらためて顕在化させたとも言える。運航乗務員を取り巻く現状、それに対する国土交通省や航空会社の認識、そして求められる対策について探ってみた。

▼年初から新卒パイロットの確保に懸念を示していたピーチ

LCCが採用を絞らざるおえない航空大学校の仕組み

ピーチ・アビエーション(MM)によると、病欠パイロットが要員計画の想定を上回り、予定していた新規パイロットの確保が当初見通しを下回ったため、機材の増加を見込んで計画していた夏期スケジュールの運航が不可能になったという。欠航するのは最大で2088便。LCCのなかでも順調にビジネスを拡大してきたピーチにとっては足元をすくわれた形だ。

ただ、同社もこうした事態を全く予測していなかったわけではない。2014年1月29日に行われた第2回乗員政策等検討小委員会のヒアリングでは、他社を早期退職したベテラン機長を多く採用するなかで、若手機長の育成が課題と報告したうえで、国に対して、パイロット需要の拡大に際し、新卒者確保の要望を示した。

なかでも、航空大学校について、高い技量を持つパイロットを安定的に供給しているものの、その仕組について課題があると指摘。航空会社、特にコストを切り詰めるLCCは、卒業生の採用数に応じて運営費を負担する仕組みのなかでは、採用数を絞らざるをえず、そのためピーチは運営費の費用負担の適正化、国による補助比率の適正化を求めた。


▼圧倒的に少ない日本のパイロット人数

世界的なパイロット不足で「2030年問題」に

国交省は、第1回乗員政策等検討合同小委員会(2013年12月24日)で、パイロットの現状について、2030年ごろには、パイロットの高齢化が進み大量退職時期が来ることから、計画的なパイロットの確保とともに加齢乗員などの現役パイロットの有効活用が必要になるとの認識を示している。

国交省「乗員政策等に係る検討について」資料より

また、航空局の資料によると、日本のパイロット総数は約6800人と、主要国と比べると圧倒的に少ない。たとえば、人口が日本の半分ほどのフランスでは約1万5000人、イギリスでは約1万8000人。アメリカにいたっては、約27万人にのぼり、人口に占めるパイロットの割合は0.087%で、日本の0.0053%とは比較にならないほど大きい。

航空需要の拡大にともなうパイロット不足は世界的な課題だ。航空局では、日本の場合、2022年には約6700〜7300人のパイロットが必要と予測し、その需要を満たすためには年間で約200〜300人の新規採用が必要との見解を示す。さらに、深刻なのは、いわゆる「パイロットの2030年問題」。2030年ごろになると大量退職者が発生することから、年間400人規模で新規パイロットの採用が求められる事態になると危機感を強めている。

しかし、パイロットは高度な技術が必要なうえ、安全運航の観点から国際条約上でも国内法上でも厳しい資格要件が求められるため、若いパイロットの新規採用は簡単なことではない。現在、日本の最大のパイロット供給源は航空大学校で全体の約40%。次に多いのが自社養成で約34%だが、LCCをはじめとする新規航空会社にとってハードルは高い。安定的な新卒パイロット供給の観点からすると航空大学校の存在はやはり大きい。

国交省「乗員政策等に係る検討について」資料より

▼訪日外国人が増えれば航空旅客需要も増加

パイロット育成の課題解決と供給源の拡大が急務

ここで問題になるのが、ピーチ・アビエーション(MM)も指摘している負担の適正化だ。国交省の資料によると、航空大学校の一人あたりの訓練コストは約3700万円。そのうち、国からの運営費交付金が約2700万円で、受益者負担として学生に約256万円(訓練費)、航空会社に約750万円が課せられる。

国交省は、独立行政法人整理合理化計画および独立行政法人の事務・事業の見直しの基本方針にしたがって、2011年度から受益者の負担を拡大。2015年度までに直接訓練に必要となる経費の3分の1まで引き上げることを決めた。それに基づくと、国費は2014年度の20億円から2015年度は18億9000万円まで圧縮される一方、受益者負担は2014年度の7億6000万円から8億円に増加、そのうち航空会社の負担は5億8000万円に増えるとされている。厳しいコスト競争に直面している航空会社にとって、パイロット確保は大きな費用負担になる。

このほか、私立大学による養成、退職した自衛隊パイロットの採用、MPL(Multi-Crew Pilot License)の活用によるライセンス取得の短期化、乗員ライセンスにためのBASA (Bilateral Aviation Safety Agreement)締結による外国人パイロットの確保など、パイロット供給源の拡大方法はあるものの、不安定さの課題は残る。

さらに、国交省では、現役乗員の有効活用として、パイロットの身体検査基準を見直すとともに、60歳以上の付加検査を廃止。60歳以上2名による乗務を認める基準の改正も行った。しかし、ピーチが今回大量欠航に追い込まれたのは病欠の問題。病欠者の年齢は明らかにされていないものの、一般的に加齢による健康不安のリスクは高まる。また、加齢パイロットの活用は現状維持の意味合いが大きく、供給源拡大の根本的な対策にはなっていない。

今後、訪日外国人旅行者を含めた航空旅客需要の拡大が見込まれるなか、パイロットの養成・確保の方向性を指し示すことは急務。国としても、新たな養成方法、現役パイロットの有効活用、受益者負担のあり方を含めた航空大学校の改革などとともに、さらなる規制見直しの検討も進めていく考えだ。

  • トラベル・ジャーナリスト 山田友樹

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