オリックスホテルズの拡大戦略をトップに聞いてきた、大型旅館の大規模改修の裏側から、1万室規模への成長まで

世界的な好況が続く観光産業のなかでも、ダイナミックな動きをみせている宿泊業。日本でも国内での異業種参入や外資ブランドの進出は著しく、既存の宿泊事業者も競争力強化に余念がない。

全国25のホテル・旅館を展開するオリックスグループも、新たなフェーズへと舵を切った。先ごろ終了した同社の旗艦施設「別府温泉 杉乃井ホテル」における大規模リニューアルは、それを象徴するプロジェクトの一つだ。

今後、同グループの宿泊事業は、従来の所有運営、運営委託のみならず、自社ブランドでの運営受託にも乗り出す。同グループのホテル運営会社である、オリックス・ホテルマネジメント取締役社長の似内隆晃氏に話を聞いた。

事業を見直し、アクセルを加速

オリックスグループが宿泊事業に参入したのは2002年、オリックス不動産が杉乃井ホテルを民事再生で取得した時だ。以降、経営不振の宿泊施設の取得や自社ブランドの立ち上げによる新規開業などで施設数を増やし、現在は直営と運営委託をあわせて全国25施設・約6000室になった。

ここまで順調に規模を拡大している同グループだが、2017年~18年頃に既存の宿泊事業の事業性を再検討した時期もあったという。

当時の日本の宿泊市場といえば、国内観光の復調傾向に加え、訪日インバウンドの急伸が続き「ホテルマーケットは好況。各プロパティも一定の成果を出していた」(似内氏)。実際、約700室(当時)の大型旅館である杉乃井ホテルも、稼働率は100%に近い推移を続けていた。

「その代わり、(当時の杉乃井ホテルの)単価は1人1泊1万円程度。その値段で温泉があり、食事はビュッフェで食べ放題だから人気があった」と、似内氏は振り返る。

老朽化や耐震補強などへの対応が必要なプロパティもあった。「今後、CAPEX(修繕だけでない、価値創出をするための投資)で、どれほどのことができるのか。投資採算性などの目線でアセットを整理した。2018年は我々にとって大きな決断をした年だった」(似内氏)。

所有施設を見直し、手元に残すものは質を高める方向で手を入れる。開発・所有と運営を分離し、2020年に運営会社(オリックス・ホテルマネジメント)を設立することも決めた。以前は、オリックス不動産が施設ごとに開発からオペレーションまで、1つのラインで見ていたが、所有と運営がそれぞれの立場で意見を出しあうことで、より良い事業展開ができると判断した。「一定の結論を出した後は、アクセルを踏んだ。その本気の塊が、杉乃井ホテルのリニューアルだ」(似内氏)。

2019年、杉乃井ホテルの5年に及ぶ大リニューアルプロジェクトに着手。その後、世界を一変したコロナ禍でも、計画の変更はなかった。

「観光は日本の大きな成長産業の1つ。コロナ禍で収入が減って赤字になったが、工事はしっかり進めた。グループの財務基盤があり、他のセグメントが利益を出していたほか、宿泊事業のある不動産セグメントとしても投資開発部門が頑張って赤字を出していない。全体として補いながらパイを広げていくのが当グループの方針。(コロナ禍の間、)ホテル運営部門は打つ手がなかったが、そういう関係性で支えてくれたのは大きい」と、似内氏は説明する。

オリックス・ホテルマネジメント取締役社長の似内隆晃氏

客室数をさらに拡大、単価もアップ

杉乃井ホテルを改めて見ると、その規模に驚く。5年に及ぶ今回の大規模リニューアルでは、3つの客室棟を新築または建て替えですべて一新。大浴場や温泉プール、ボーリング場などのエンターテイメント施設といった各種共用施設の改修にも及んだ。旅行のスタイルが団体旅行から個人旅行へ移行し、宿泊施設がその対応を求められている中、同社は同ホテルを直営施設として維持した。

これについて、似内氏は「80年も前に開業し、九州エリアでは誰もが知っていて、三世代で利用した思い出のある人も多い。こんなに支持されているのだからやるべきと判断した」と説明する。

杉乃井ホテル全景(報道資料より)

ただし「やりたいのは、以前の杉乃井ホテルではない」と似内氏。具体的には、1人1万円で満足されるのではなく、5000円~1万円程度上げたところで勝負する。そのため、客室も食事のグレードも上げ、その他施設もリニューアルした。

客室は杉乃井ホテルを利用している各客層に訴求するよう、3つの客室棟を女性グループ客向けのカジュアルな「虹館」、フラッグシップとなるラグジュアリーな「宙館」、上質な和モダンな「星館」とし、それぞれ多様なタイプの客室を用意。レストランでは、厳選した食材を目の前で仕上げるライブキッチンはもちろん、夕食はアルコールを含むフリードリンクで提供する。

ビュッフェ会場でシェフが調理を実演する、オリックスホテルズの自慢の「ライブキッチン」。迫力ある寒鰆の藁焼き

さらに注力しているのは、地域との共創だ。2021年、地域の魅力を発掘・発信する「地域共創プロジェクト」を開始し、各施設に専任の「地域共創担当者」を配置。地域と施設の魅力を、それぞれの価値向上に生かす取り組みを始めた。杉乃井ホテルでも、別府の伝統工芸「竹細工」の認知拡大を目的にしたハロウィン時期のイルミネーションイベントや、鉄輪地域での観光を付けた宿泊プランの企画なども取り組んでいる。

鉄輪温泉での散策では、昔ながらの湯治宿・貸間で温泉の蒸気を利用した「地獄蒸し」体験も。温泉が日常の地域の暮らしに触れる

客室棟は2021年7月に「虹館」、2023年1月に「宙館」、そして2025年1月に「星館」がオープン。リニューアルにより、総客室数は以前の647室から791室へと2割と増えたが、稼働率は全体的に85%~90%で推移しており、似内氏は「滑り出し好調」と手ごたえを感じてる。

「当初は値付けに対する反応が心配だったが、今はほっとしている。お客様は変わってくると思うが、値段が上がっても『やっぱりいい』と評価し、変わらず来てくださるお客様もいる。値段に見合った価値を出すことを重視している」と話す。

自社ブランドの運営受託を強化、地域に支持されるホテルに

現在、オリックスグループでは温泉旅館の「佳ら久」「はなをり」、シティホテルの「クロスホテル」など「ORIX HOTELS & RESORTS」として5ブランド14の旅館・ホテルを運営。そのほかの直営施設、および「ヒルトン沖縄北谷リゾート」「ハイアット セントリック銀座東京」など運営委託している施設を含めると、日本国内で25施設・約6000室を展開している。

今後、同社が見据えるのは施設の拡充。自社ブランドの施設を増やし、1万室規模への成長だ。そのため「今後は、運営受託をしていきたい。従来、当グループでは自社開発が主体だったが、建築費が高騰しており、従来と同じスピード感での展開は難しい。今後は、第三者のオーナー様に声をかけていただけるよう、展開したい」と意気込む。

そのためにも、自社ブランドの価値と品質にはこだわりを持って展開していく方針だ。杉乃井ホテルのプロジェクトと同様に、旅館ブランドであれば大浴場や食事にこだわる。大浴場のないホテルの場合でも、朝食に力を入れている。オリジナルブランドの拡充については明言を避けたが、「今言えるのは、エコノミーのラインは(拡充)しない」(似内氏)という。

そして、似内氏は「宿泊したお客様から『オリックスはやっぱりいい』と思われるような施設を展開していく。地域に支持される施設となることも重要。地域の特性を“彩り”としてホテルの魅力として集客し、地域に還元をしていく。お客様、オーナー、そして地域にも喜ばれるホテル運営をしていきたいと思っている」と力を込めた。

聞き手:トラベルボイス編集長 山岡薫

記事:山田紀子

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