このほど東京で開催されたアジア太平洋航空会社協会(Association of Asia Pacific Airlines: AAPA)の社長会では、AAPAのアンドリュー・ハードマン事務局長と国際航空運送協会(IATA) のトニー・タイラー事務総長兼CEOが基調講演を行った。そこでは、両氏ともに国際航空の現状と未来に触れながら、果たすべき役割や解決すべき課題について言及、示唆に富んだ議論を展開。そこで語られた内容をまとめた。
▼航空は経済的、社会的の持続可能な成長に貢献
アジア太平洋航空会社協会事務局長、アンドリュー・ハードマン氏
「新しい航空機の登場によって、国際航空市場は変化しているーー」。ハードマン氏はそう切り出し、講演を進めた。世界の航空旅客は成長を続けており、現在年間30億人、1日900万人が利用。輸出入についても、全体の約35%を航空が担っているデータを紹介し、「これまで以上に社会的、経済的な利益をもたらし、持続可能な成長に貢献している」と強調した。
また、安全運航についても言及。マレーシア航空事故など予測不能の事故は起こりうるも、アジア太平洋地域航空会社の航空事故は、世界平均同様に減少しており、10年前の大事故は100万フライトにつき1回だったものが、現在では300万フライトに1回までに減っている。このことから、ハードマン氏は、「旅客の航空旅行に対する信頼は高まっている」と指摘。しかし一方で、航空業界は安全運航改善に継続的に取り組んでいく必要があると付け加えた。
アジア太平洋市場については、世界人口の約55%に当たる40億人を抱え、世界のGDPの31%を生み出し、中間所得層が増大していることから世界経済を牽引。そのなかで、「航空は経済的、社会的発展において重要な役割を果たしていく」との認識を示す。2013年のデータでは、アジア太平洋の航空会社は、内際線あわせて10億1200万人を輸送し、合計1兆6300万米ドルの収益を稼ぎだしており、世界におけるマーケットシェアは、旅客で31%、貨物で38%に及んでいる。
【進化するフルサービスキャリア(FSC)とLCC、選ぶのは消費者】
また、ハードマン氏は「アジア太平洋の航空会社の戦略も進化している」と指摘。世界で最も混雑する路線トップ10のうち7路線はアジアにあり、全路線のうち75%は3社で運航されており、5社で運航されている路線も27%あると紹介したうえで、「フルサービス、LCC、その中間の航空会社がそれぞれ進化。アジア太平洋の航空ビジネスモデルやサービスはダイナミックに成長している」と評価した。
フルサービスキャリアはプレミアサービスに力を入れる一方、LCC子会社や関連会社を立ち上げるなどの動きを見せている。また、LCCは国内短距離路線から国際長距離路線への進出し、コードシェアや乗り継ぎなどのサービスを拡大している。ハードマン氏は「今後、両者のハイブリッド・パートナシップや新しいベンチャーの登場が見込まれる」としたうえで、「選ぶのは消費者」との見解を示した。
【規制緩和で世界共通ルールの構築を】
航空会社の財務状況を世界的に見れば、収益性は改善しているものの、引き続き利益率は低い。地域別では、構造改革が進む米国の航空会社の収益性は向上している一方で、アジア太平洋を含む他の地域では、米国の伸びには追い付いていないのが現状だ。
ハードマン氏は、この状況を打破するためには、需要拡大に合わせた空港などインフラの整備、航空会社の生産性向上に向けた構造改革、各国政府による長期的な投資と計画などが求められると指摘。さらに、安全運航、税制などの規制の緩和に対して、「世界共通のルール作りに向けて、アジア太平洋の航空会社は共同歩調を取るべき」と主張した。また、航空旅行をさらに容易にするために、出入国管理やビザ発給の簡素化も必要との考えも示した。
このほか、喫緊の課題としてエボラ出血熱にも言及。「旅客減の心配がある」とし、「航空会社は、水際対策で積極的に協力していく必要があるが、過剰な対策は控えるべき」と話し、すでに旅行制限などを行っている国に対して懸念を示した。
▼羽田国際線拡大、観光立国政策を高く評価
国際航空運送協会(IATA) トニー・タイラー氏
1914年にフロリダのセント・ピーターズバーグからタンパへ飛んだのが世界初の商業航空運航。今年はそれからちょうど100周年に当たる。トニー・タイラー氏は講演で「現在では、航空による交流が世界経済を支えている」と話し、まず航空とそれにともなう観光の重要性を強調した。
現在、世界の航空業界と観光業界は5800万人の雇用を創出し、2.4兆米ドルの経済活動を行っているとし、そのうち日本では77万4000人の雇用があり、GDPは全体の1.0%を占めると紹介した。日本市場については、羽田空港の国際線発着枠拡大を高く評価。2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでに訪日外国人2000万人を目指す国の政策についても言及し、「大きな経済効果を生み出すだろう」と期待感を示した。
【成長を確実にする3つのカギ】
アジア太平洋の未来については、「世界の航空業界をリードしていく」と予想。IATAの今後20年間の航空需要予測によると、アジア太平洋の旅客数は2034年までに年間61億人まで拡大、世界の全旅客のうち約半分が、乗り継ぎも含むアジア太平洋を発着する路線を利用すると見込んでいる。
「航空は非常に大きなポテンシャルがある産業」という認識のもと、タイラー氏は、その成長を確実にしていくためのカギとして「安全運航」「インフラ整備」「環境対策」の3つを挙げた。
まず安全運航については、「トッププライオリティー」と強調。マレーシア航空の2つの事故について触れつつも、「この2つは例外的な案件。安全は確実に管理され、毎日改善されている」と話した。そのうえで、IATAの運航安全監査(IOSA)の重要性に触れ、2015年にはすべてのIATA加盟航空会社が最新のIOSAに移行することを明らかにした。また、安全リスクを回避するためには、運航データを収集し分析することが必要と指摘。AAPA航空会社にも協力を呼びかけた。また、安全運航のためにJALとANAがフライトデータ共有を試験的に始めたことを紹介し、アジア太平洋地域でも、この取り組みが広がることに期待を示した。
【空港管理で公的ルールも、東京・首都圏上空の空域を最大限に】
インフラ整備については、まず航空管制の改善を求めた。
特に成長著しい中国について、より柔軟に空域の拡大に取り組むことを期待。また、日本については、羽田の発着能力に言及した。「最新の航空機は以前と比べると70%も静かになった」とし、首都圏上空の空域拡大を最大限化する必要性を主張。「そうでなければ、2020年の訪日外国人2,000万人の達成は難しくなるだろう」との見解を示した。
さらに空港整備については、アジア太平洋の各主要空港で容量の拡大が進んでいるものの、「その管理システムについて心配している」。そして、民間による空港運営が増えているが、「それは万能薬ではない」と指摘し、消費者が求めるサービスや質を確保する公的な枠組みやルールも必要だと主張した。
環境対策については、「航空は気候変動対策でリーダーになるべき」と主張。2050年までに純排出量を2005年比で半分にまで減らす目標を明らかにした。この目標を達成させるためには、技術革新、効率的な運航、最新インフラの整備に加えて、各航空会社の取り組みが重要になってくるとの認識を示した。
IATAは2013年の年次総会で、各国政府に対して世界的なカーボン・オフセットの仕組みを構築することを求める決議を採択。今後も、IATA内でも議論を深めていくとともに、各航空会社が置かれた状況は異なるものの、航空の共通の価値としてIATA加盟航空会社に対して議論の加速を求めていく考えを示した。
- 取材・記事:トラベルジャーナリスト 山田友樹