たこ焼きやシュークリームに長い行列ができる。日本酒に駅弁の“いかめし”に“マルコメみそ”もーー。官民が協力して日本の文化を紹介し、アメリカからの訪日旅行需要を喚起する「ジャパンウィーク」での一コマだ(最下段に写真ギャラリーあり)。
観光庁と日本政府観光局(JNTO)が主催する訪日旅行促進イベント「ジャパンウィーク」は、今年で4回目。ニューヨークでも和食の人気が高まっていることから、今回は外国人旅行者に人気のデパ地下を再現。ニューヨーカーに日本独特の試食文化で和食をアピールした。
そんなイベントで際立ったのは、“日本”への関心の高さ。会場では、日本への旅行が当たるアンケートを実施、回答者は5000人を超えたという。海外で巻き起こる日本ブームの一端といえ、強い訪日旅行需要を背景にイベントには3日間で40万人が来場した。訪日外国人の増加に一翼を担う、海外訪日プロモーションの最前線を取材した。
▼日本全国の食が集まるデパ地下
庶民の和食で訪日のきっかけづくり
ニューヨークのミッドタウン、グランド・セントラル駅の構内に威勢のいいたこ焼き屋の声が響き、その匂いに誘われて人が集まる。鉄板のうえでリズミカルにたこ焼きを回し焼く様子を凝視する地元の人たち。行列が行列を呼ぶ光景はニューヨークでも変わらないようだ。「和食をきっかけに、日本に興味を持ってもらえれば」。日本政府観光局(JNTO)事務所長の田中由紀氏はそう話す。
「デパ地下」には、北海道の“いかめし”、山形県・米沢の“牛肉どまん中”、愛媛県の“一六(いちろく)タルト”、道頓堀くくるの“たこ焼き”、ビアードパパの“シュークリーク”など、駅弁からデパ地下で馴染みのスイーツや和菓子までさまざまな日本の食が集まった。田中氏は「デパ地下は日本全国の食が集まるところ。地方を紹介するうえでも最適な場所」と、訪日プロモーション戦略の一端を明かす。
「SAKE BAR」も人だかり。ニューヨークでもSAKE(日本酒)の認知度はすでに高く、日本酒造会館が主催するこのバーには、異なる酒蔵のSAKEの試飲を楽しむニューヨーカーがカウンターにひしめき合っていた。
「これはどこのSAKE?」
「ちょっとスィートだね」
「違うSAKEも試してみたいんだけど」。
舌の肥えたニューヨーカーの興味は尽きない。小さなバーでSAKEを巡る日本の旅。これが現実に日本の酒造めぐりにつながる可能性は小さくない。
会場となったグランド・セントラル駅のヴァンダービルトホールは、メインコンコースと42ndストリートを結ぶ一画。人通りが多く、ジャパンウィークを目当てに訪れた人だけでなく、ウォークインで立ち寄った人も多い。ある女性のニューヨーカーは、たこ焼きの前に立ち止まり、「いったい、これは何?」と驚きの顔で尋ねる場面も。店員が「This is octopus dumpling 」と答えると、「Oh!」と分かったような、分かっていないような反応。こうしたやりとりも日本文化のアピールになるのだろう。
▼米国からの旅行者は富裕層と西海岸が安定
中間層やトランジット客の取り込みへ
2014年のアメリカからの訪日旅行者は前年比11.6%増の89万1600人と過去最高を記録した。そのうち60%ほどが観光目的の来日で、初めて日本を訪れる旅行者が大部分を占めたという。地域的には、日本への直行便が飛んでいるニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコなど大都市圏からが多いようだ。
田中氏は「富裕層に加えて、西海岸からのアジア系マーケットが安定している」とアメリカ市場の特性を話す。アジア系旅行者については、里帰りの際に日本に立ち寄る需要が多く、リピーターも多いことから、「大きな市場」との認識だ。
従来の安定層に加えて、2015年度はマーケットの裾野を広げるために、中間層やトランジット客の取り込みも強化していく方針。また、現在旅行先がゴールデンルートに集中していることから、地方のプロモーションも強化していきたい考えだ。「特に、今年3月には北陸新幹線が開通するので、自治体や企業などと共同で北陸のPRを強めていきたい」と田中氏は意気込みを見せる。
新幹線も日本通の外国人の中では“Shinkansen”として認知度は高いが、「まだまだ一般的には知られていない」とJR東日本ニューヨーク事務所次長の佐山江美子氏。「北陸という地域も分からず、金沢のことを話すと『え?カナダ?』と聞き返されることもある」という。
こうしたことから、「このジャパンウィークがいい機会になれば」と、このイベントの意義に触れるとともに、「JNTOとも協力して、北陸だけでなく日本を盛り上げていきたい」と今後への期待を示した。
▼訪日旅行に強い需要も3大障壁も
求められる他国との差別化
日本を訪れるアメリカ人の多くが、日本の歴史や伝統文化に関心が高いという。年齢的には40代後半が主流だが、最近ではファッションやデザインに興味を持つ20代や30代のいわゆるヤングエグゼクティブの訪日需要も増えてきているようだ。
田中氏によると、「JNTOに寄せられるフィードバックでも総じて満足度は高い」ようだが、課題もまだ多い。そのひとつとして「日本は物価の高い国という固定観念の払拭」をあげる。また、日本滞在中の3大障壁として挙げられる「英語表示」「WiFiの普及」「ATMの利用」の課題は依然として大きい。「言葉の問題はまったくない。おもてなしの心で十分通じる」(田中氏)だけに、障壁の解決が待たれるところだ。
アメリカの最大のアウトバウンド市場は中国。次に香港。日本はタイと並んで、3番目のマーケットに位置づけられている。「いろいろなアジアの国に行ったが、日本ははじめてというアメリカ人旅行者も多い。他のアジアとの差別化を打ち出して、旅行先として日本を選んでもらえるようにしていく必要がある」と田中氏。訪日プロモーションの主軸が2015年度からJNTOに移ることから、今後の取り組みに注目が集まる。
また、「ジャパンウィーク」に出展したエイチ・アイ・エス北米アウトバウンド統括支店長の田山哲雄氏は、同社が扱う顧客の特長として、「FIT(個人旅行)がほとんどで、エアやホテルはオンラインで予約し、現地でのツアーやJRパスなどを扱うケースが多い」と明かす。
一方で「(エイチ・アイ・エスで)航空券、ホテル、アクティビティーなどのオンライン・ブッキングのシステムを構築したが、まだ利用しているのは現地在住の日本人が多い」と課題にも言及した。今後は、オンライン利用が多いアメリカ人旅行者に向けて、「予約だけでなく、興味を惹くような情報の提供もしていきたい」と抱負を話す。
▼ジャパン・クオリティーをアピールする日本企業
日本路線重視のデルタ航空がオフィシャルエアラインに
「ジャパンウィーク」には、デパ地下以外にもさまざまな企業が出展した。セイコーや鎌倉シャツはジャパン・クオリティー(日本の品質)をアピール。NHKワールドは日本人デザイナー舘鼻則孝がレディ・ガガのために製作したシューズ、ワタベ・ウェデイングは白無垢と羽織袴を展示し、新旧の日本文化を紹介した。
ジャパンウィークのオフィシャルエアラインとして協賛しているデルタ航空(DL)も出展。会場に駆けつけたニューヨーク担当副社長のゲイル・グリメット氏は「デルタ航空にとって日本は非常に重要なマーケット。成田/JFK線は日米双方のビジネスマンや観光のお客様にご愛用いただいている。ジャパンウィークはニューヨーカーに日本路線をアピールする絶好の機会」と話す。同社は、4年連続でジャパンウィークに協賛。日本市場への強いコミットメントを示してきた。
ブースでは、成田路線で使用されているB777の「ビジネスエリート」のサービスを特設ブースにて再現。フルフラットベッドシートとウェスティンホテルがDLのために開発した「ヘブンリー」ブランドの枕とコンフォーター、TUMI製のアメニティキットなどを展示した。以下に会場の様子を掲載する。会場内で行われたイベントでは、食をフックとして日本の様々な文化が紹介された。
- 取材協力:デルタ航空
- 取材・記事:トラベルライター 山田友樹