中国人旅行客の国内旅行、海外旅行を中心に事業を展開するシートリップ(Ctrip)は1999年設立の中国最大手のオンライン旅行会社(OTA)だ。2014年5月には「Ctrip Japan」を設立し、日本にオフィスを構えた。日本を訪れる中国人旅行客が爆発的に増えるなか、同社サイト上での日本のホテル予約も急速に拡大している。
そのサイトで中国人旅行客が好むホテルとは何か。送客サイド、受け入れサイドの課題とは――? Ctrip Japan ホテル事業部の責任者に話を聞いてきた。
※写真はCtrip Japan ホテル事業部統括の林一周氏(左)
訪日市場の急拡大で厳しい仕入れ環境、人気エリアは新宿と池袋
日本政府観光局(JNTO)によると、2014年の訪日中国人は前年比83.3%増の240万9158人で台湾、韓国に次いで第3位。マーケットシェアは約18%にまで拡大した。2015年上半期においては、前年比から倍増し、首位の座となっている。
Ctripを利用する中国人旅行者に人気のエリアは新宿と池袋。「両エリアは中国での露出が多く、宿泊だけでなく、ショッピングやお食事などを楽しむ目的で訪れる方も多い」とCtrip Japanホテル事業部マーケットマネージャーの張ウェンウェン氏はその理由を話す。
「中国は見栄の世界。人気の場所や良い商品を、せっかくの旅行の機会に誰もが楽しみたいという心理から特定の場所に集中しがち」というのはホテル事業部統括の林一周氏の見解だ。必然的にCtripと契約しているホテルも、両エリアに多くなることになる。
しかし、最近では訪日市場が急拡大し、国内旅行との競合もあるなか、ホテルの仕入れは以前よりも厳しくなってきている。「お付き合いの長いホテルは大丈夫だが、今後は客室の買取りも対策の1つとして考えていかなければならないだろう」と張氏は話す。
需要の高まりを受け、宿泊エリアの分散化も課題だが、「優先順位からすると、まず人気エリアのホテルを契約し、中国人のお客様のニーズに答えていくことが大切」(林氏)だという。「訪日中国人観光客の滞在日数には限りがある。東京で平均2、3泊だが、定番エリア以外での宿泊はなかなか増えない」のが現状のようだ。
日本の観光施策は、外国人観光客を地方に分散させることが叫ばれているが、こうした中国人観光客のニーズも知る必要がある。
日本は、中国人観光客の海外旅行市場において2.4%のシェア。まだまだ伸びる余地があり、持続的成長の可能性も大きい。中国人旅行者の増加の勢いは今年に入っても止まらない。これは、「日本ブーム」といえるのだろうか?
林氏は、その答えとしてCtripで人気ナンバーワンデスティネーションとなっているタイを例に挙げた。人気の理由はタイを舞台にした映画が中国でヒットしたこと。2年以上も経つが、いまだに人気は落ちていないという。「親戚や友人が行ったから、私も行きたいという傾向が強い。また、ビザの緩和も功を奏し、人口が多い分、それが長いブームとして続くのだろう」と分析する。
2014年の中国の海外旅行者は年間9800万人という莫大な数。そのうち、日本への旅行者は240万人ほどの2.4%ほどに留まっている。Ctripでは、中国の中間層が増加するにつれて、この分母はますます拡大し、同時に分子である日本への旅行者も増加すると見ている。
マーケットの拡大に合わせて、ホテル仕入れ環境がさらに厳しくなることが予想されることから、Ctripとしては「ニーズに応えることが優先」としながらも、ビジネス拡大のためには需要分散化の必要性も認識している。
「中国でのシェアナンバーワンサイトとして、新たなエリアのホテルの仕入れを増やしながら、様々な日本の良さを中国の方に知っていただく努力もしていきたい」と林氏。現在はサイト上で温泉やディズニーランドなどの特集ページを展開しているが、今後さらにテーマにそった旅の提案にも力を入れていきたいとする。
Wi-Fi環境に課題も、日本的おもてなしが高評価
中国のスマートフォン携帯率の高さは世界有数。このことから、Ctripでもアプリからの予約がかなり増えており、中国国内旅行も含めた全体でのスマートフォン経由の予約は約60%にもおよぶ(張氏)という。
旅行先でもスマートフォンの利用は高く、最新の情報を得るために欠かせないツールとなっている。こうしたことから、「日本を旅行する中国の方にとって最大の懸念はWi-Fi環境」と林氏は明かす。
無料Wi-Fiを提供するホテルが増え、地下鉄などでもスポットが増えるなど、数年前に比べれば環境改善は進んでいるものの、依然として同社にスポットの少なさと有料に対する意見が多く寄せられているという。
「中国人旅行者は、WeChat(中国版のTwitter)などを使って、撮った写真をすぐにアップしてシェアしたいというニーズが強いため無料Wi-Fiへの関心は高い」と林氏は説明する。
Ctripでは日本のホテルについて、販売促進を目的に「中国人に優しい」レベルを表す「華」マークをつけている。基準は、無料Wi-Fi、中華レストラン、中国語チャンネル、中国語スタッフ、UnionPay(銀聯)カード、電気ポットの6項目。東京には5つ、6つの項目を満たすホテルは多いが、地方ではまだ少ないという。
ただ、これはあくまで中国人旅行者への情報であって、ホテルのグレードやサービスの品質を示すものではない。「中国語ができないからと拒否反応を示すのではなく、日本のお客様と同じサービスを提供することが大事。そうすることによって、中国のお客様の満足度は十分に高くなる」と林氏。
張氏も「中国人観光客にフレンドリーかどうかが重要」と話す。Wi-Fiや6つのサービスは付加価値であって、基本は日本的なおもてなしが中国人観光客にも評価されるポイントのようだ。
段階ごとに事業を拡大、日本のアウトバウンド市場にも期待
Ctripは、段階的にビジネスの拡大を計画している。第1段階は中国人の国内旅行において予約サイトが使用されること。この分野ではすでに中国最大手のOTAとしての強みを持っている。
第2段階は中国から海外へのアウトバウンドを強化すること。第3段階は海外から中国へのインバウンドに働きかけていく。すでに日本人旅行者向けの日本語サイトを立ち上げているが、事業の本格化にはもう少し時間がかかるようだ。さらには、第4段階では中国人の第三国間の移動も視野に入っている。
こうした方針から、Ctrip Japanでは、事業拡大を見越してスタッフの拡充を計画。安定した成長が見込まれる日本へのインバウンド事業に加えて、日本から中国へのアウトバウンド事業を本格展開しようと考える同社の今後の動きに注目したい。
聞き手:トラベルボイス編集部:山岡薫
記事:トラベルジャーナリスト 山田友樹