世界2大OTA「プライスライン」副社長に聞く、ブッキング・ドットコムの戦略 ー 民泊からタビナカ事業まで

プライスライン・グループから、このほどグローバルコミュニケーション担当副社長レスリー・カファティー氏が来日。世界2大OTAのプライスライン・グループで、今や最大の事業となった宿泊オンライン予約サイト、ブッキング・ドットコム(booking.com)のPR責任者も兼任するカファティー氏に、ブッキング・ドットコムの今後の戦略について聞いた。


プライスライン・グループ収益に占める比率は9割

ブッキング・ドットコムは、もともと1996年にオランダで創業したホテル予約サイト。2005年、欧州市場進出を目指す米プライスライン傘下に入ったが、プライスライン・グループ全体の収益の9割近くを稼ぎ出す。取扱高は今年も2桁増で推移しており、従業員数は過去2年で4000人から1万1000人に拡大した。

日本市場については「目下、インバウンド需要が絶好調」(カファティー氏)で、今年11月初めには、東京、大阪、福岡、札幌に続く5つ目の営業所を沖縄・那覇に開設した。同社によると、今年1~6月、ブッキング・ドットコムを利用した沖縄の宿泊予約件数は、昨年同期比で約2倍という。

プライスライン・グループ全体では、6つの旅行系予約サイトを展開している。そのため、アジア市場では社内競合も発生する。たとえば、グループ傘下にある東南アジア系の宿泊予約サイト「アゴダ・ドットコム」とブッキング・ドットコムもそうだ。

こうした社内競合について尋ねると、カファティー氏は「いずれのブランドについても、まだ拡大の余地は大きいのが現状だと認識している。成熟しきった市場であれば、また考え方は違うと思うが、旅行業が現状の大きなペースで成長を続けている今、どちらもまだしばらく成長が続くとみている」という。


民泊やバケーションレンタルはライバルになるのかーー?

ブッキング・ドットコムが扱う宿泊施設は、世界221か国・地域の80万軒以上。対応する言語は42か国語にのぼる。扱う宿泊施設のタイプも多彩で、ホテルタイプのほか、長期滞在用のアパートメント、ヴィラ、B&B、バケーションレンタル、農場ステイ、ツリーハウスなど30種類ほど。長期滞在型宿泊施設の軒数は前年比66%増、利用者数が2860万人を記録、その他タイプ(船上ホテル、旅館、ベッド&ブレックファーストなど)では前年比32%増、利用者数が1億3700万人に至っている。

「旅行者はますますユニークな経験を求めるようになり、特定のホテルブランドを好む人もいれば、他とは違うサービスを求める人も。多彩な選択肢の提供が必要だ」というのが同社の考え方だという。

民泊、バケーションレンタルの「Airbnb」や「HomeAway」と同様に、ブッキング・ドットコムでも滞在型アパートメントなどを扱い、ネットで予約手配できる点も同じ。カファティー副社長は「大きな違いは、予約確定が即、できるかどうかだ。Airbnbでは、個人の自宅や部屋を扱うため、予約の確定までに時間と手間がかかる。まずユーザーとホストをつなぎ、次にホストにメールし、日程が利用可能か、などのやりとりが必要。また、Airbnbなどでは宿泊料金プラス手数料が必要だか、当社なら宿泊料金のみで大丈夫」と違いを強調する。


ビジネス需要が多様化、出張予約でBTMにも注力へ

様々なタイプの宿泊施設を求める傾向は、レジャーに限らず、ビジネス客にも顕著になっている。例えば米国の場合、出張予約の3分の1は、ホテル以外の宿泊施設タイプを利用するという。こうしたなか、ブッキング・ドットコムでは今春から出張需要の取り込みにも着手。法人向けの宿泊予約プラットフォーム「ブッキング・ドットコム・フォー・ビジネス」を4月から提供開始した。

booking.comの法人向けサイト

一般ユーザーがサイトを訪れた際、ホテル検索の場面では「出張(ビジネス)」または「レジャー(休暇)」の選択ボタンが出現する。そこで、「出張」を選ぶと、無料Wi-Fiサービスや朝食付きホテルなどが優先的に表示される。一方、「フォー・ビジネス」に登録した法人ユーザーには、料金の10%優待や、出張費のレポート機能など、管理業務に役立つ機能を提供するという違いだ。

手ごたえは力強く、今後、ビジネス市場でビジネス・トラベル・マネージメント(BTM)分野に、さらに力を入れていく方針。現在、レジャー用・ビジネス用をあわせた予約の5件に1件がビジネス利用であるといい、今後は全体のボリュームを伸ばしていく考えだ。


宿泊施設の経営向け、BtoBデジタルマーケティング支援も

一方、ブッキング・ドットコムのパートナーである宿泊施設を対象としたBtoBサービスでは、独立系ホテルや個人経営の宿泊施設を想定した新サービス「ブッキング・スイート(Suite)」を提供している。ウェブサイトの作成や予約・収益管理など、様々なデジタル・プロダクトが一通り揃ったパッケージを提供するという構想だ。日本市場でも今夏から担当者が決まり、動き出した。

カファティー副社長は「独立系の宿泊施設の多くは、顧客をもてなし、喜ばせるなど、ソフトの部分は卓越しているのだが、インターネットを活用してのマーケティングなど、ハード面にはあまり強くない場合が多い。その部分を、グローバル市場に精通したテクノロジー会社である当社がサポートしたい」と話した。


プライスライン・グループとして、タビナカの質を向上へ

今やOTAのリーダー各として宿泊予約を増加させているブッキング・ドットコム。これからは、どこを目指すのかーー?

カファティー副社長は、2014年にプラスライン・グループ傘下に入ったレストラン予約サイト「オープンテーブル(OpenTable)」を一例に挙げ、「宿泊の予約を代行しておしまい、ではなく、より充実した滞在になるようなサービスの拡充を目指している。その一例が、例えば旅の重要な要素である食に関すること。それを実行しているのがオープンテーブル」と語る。

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ブッキング・ドットコムでは、一部の都市で宿泊施設の情報に加え、現地で役立つアドバイスやおすすめレストラン情報などをサイト上に掲載している。タビナカでの旅行者の動きにあわせたサービスも重要という考え方のひとつだ。

そして、最も重視する要素は自社スタッフによるインハウス主義のカスタマーサービスだという。「カスタマーサービスを、単なるコールセンターのように捉えている企業もあるが、当社は違う」という。ブッキング・ドットコムでは、世界各地でユーザーからの問合わせに応じるカスタマーサービスに自社の社員を配置。外注はしていない。

同氏は「現地ホテルで問題が発生した時の対応は、当社のブランドを左右する非常に重要な部分。例えばオーバーブッキングの際、当該ホテルにできることは限られているが、当社スタッフなら、電話で日本語対応もできるし、代わりのホテルを探すこともできる。それが利用客のリピートにつながってきた」と強調する。

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ブッキング・ドットコムでは、現在、従業員の半分弱に当たる約5000人がカスタマーサービスに従事。英語は必須で、他に数カ国語を話す人も多い。日本のカスタマーセンターは100人ほどのスタッフを抱え、全員バイリンガル。英語が多いが、韓国語、中国語、タイ語などにも対応できるという。

こうしたスタイルは、「ブッキング・ドットコムがオランダ生まれの会社という独特のDNAにも由来している」とカファティー副社長は指摘する。「オランダは、周囲を色々な国に囲まれた地理的環境があるので、どこの国の旅行者にも対応できるサービスをと考えるのが自然な成り行きだった。異なる言語への翻訳機能も当たり前。これは米国生まれの会社にはありえない感覚だが、ブッキング・ドットコムでは、最初の一歩から、多言語対応は日常だった。こうしたグローバル感覚が今の急成長を促したと思う」。

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取材・記事 トラベルライター 谷山明子

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