富士山を眺める新たな観光列車デビュー、富士急行が目指す地域の価値向上を取材してきた

富士急行は2016年4月23日から、大月/河口湖駅間で新観光列車「富士山ビュー特急」の運行を開始する。特徴は、“富士山に一番近い鉄道”ならではの雄大な富士山の景観と、人気の観光列車を手掛ける水戸岡鋭治氏の車両デザイン。デビュー前に行われた旅行関係者の試乗会で新特急に乗り、富士五湖エリアの観光スポットをめぐってみた。(富士山ビュー特急などの画像は下段へ)



訪日客増加で高まる運輸事業の存在感、生活路線バスにも観光効果が普及

富士急行の地盤のマーケットは、富士吉田市(人口約5万人)、河口湖町(約2.5万人)など大都市圏ではない。そのため、営業部次長・西山尚孝氏は、「域外からの集客が重要」と、観光の重要性を指摘する。そして、富士急行グループの主力事業は「レジャー・サービス事業」であるものの、2年程前から路線バス等を含む「運輸事業」の存在感が増しているという。

その理由はインバウンドの増加によるところが大きい。グループ全体の訪日客の取扱いは「10数パーセント」に留まるが、個人旅行が急伸。自ら調べて富士山と周辺地域、御殿場のアウトレットなどを訪れる訪日客が、生活路線を利用する姿が目立ってきた。平日には、路線バスの日本人乗客より訪日客の方が多いことも珍しくなく、「人の流れが変わってきていることを感じている」という。

こうした背景の中で、投入された新特急の狙いは移動目的でなく乗車目的の集客。いわゆる観光列車として投入することで、エリアの魅力向上の一環とするものだ。

週末には特性スイーツを提供、MICEやイベントも視野に

「富士山ビュー特急」は、富士急行が運行する観光列車「富士登山鉄道」と同じ路線を走り、デザインのコンセプトも共通だが、座席やサービスなどは異なる。3両中の1両を全席指定の特別車両とし、ホテルのような空間でウェルカムドリンクを提供。週末には特製スイーツを提供する専用車両としても運行する。富士急行が車内で飲食を提供するのはこれが初めてのことだ。

予約は好調で、ゴールデンウィーク明けまで週末は満席だという。今のところ、外国語での情報発信をしていないため予約はほぼ日本人。今後は、富士急行の台湾・上海の海外拠点での営業活動を行なっていく考えだ。また、団体臨時列車など貸切り運行も可能で、MICEやイベントなどでの活用も視野に入っている。

以下に試乗会で取材した列車の内部を紹介する。

▼富士山ビュー特急は、JR東海が小田急線に乗り入れて沼津/新宿間で運行していた「特急あさぎり」の371系車両を改装。「富士山の表側を走っていた列車が北側で運行されている」ということで、鉄道ファンにも話題に

L-7

▼特別車両(1号車)。水戸岡氏のデザインは天然木を多用した寛ぎ感のあるデザインが特徴。左が4人ボックス席、右は2人のボックス席

L-19

▼前方には6人掛けの半円テーブルもある。車窓の景色が楽しめるよう窓が大きくとられており、河口湖駅から出発の場合、富士山が見えるのは、最初は進行方向左側。スイッチバック後に右側。出発から20分後が一番大きく富士山が見えるスポットだが、今回は残念ながら雲に隠れて見えず

L-13

▼最大26名の1号車にはサービススタッフが3名乗車。サービスカウンターにて。両側には山梨県などの地域の名産や伝統工芸などを展示するショーケースがある

L-15

▼特製スイーツは「ハイランドリゾートホテル&スパ」シェフパティシエの橋本道郎氏がプロデュース。高級漆器で提供。内容は季節によって異なり、今回は「季節のマカロン(マンゴー)」、「パティシエ特製フルーツサンド」「富士山麓卵のなめらかプリン」、カシスなどベリーを入れた「旬果デザート(ガトーアンサンブル)」。

L-11

▼2号車、3号車は自由席。座席のデザインがところどころ異なる。青が基調色の車両も。なお、乗車前の駅では乗車時間約50分でも楽しめるよう、小さめの駅弁を販売することも決定している

L-22

【富士五湖エリアの観光スポット】

富士急行では以前から、域外からの需要獲得のために列車やエリアの価値を高めることを突き詰めてきた。この時期開催される「富士芝桜まつり」は、7年目となる2015年には入場者数が52万人を数える一大イベントとなった。このうち訪日客は入場者の2割に高まってきている。

今回取材した4月20日も、平日ながら河口湖駅からの直通バス「芝桜ライナー」に行列ができていた。特に目立ったのは、外国人旅行者の姿だ。付加価値を作り出すことで域内の移動を促し、運輸事業へ需要の循環に繋がっている好事例といえる。

▼富士芝桜まつりの会場。訪れた4月20日はまだ3分咲き。80万株の花が地面を埋め尽くす一番の見頃はゴールデンウィーク明け頃

L-1

▼山中湖で運行する水陸両用の観光バス「KABA BUS」。3月に4か国対応の自動音声ガイドシステムを導入した。ちなみに、このバスの車体も水戸岡氏のデザイン

L-2

▼富士急ハイランドに隣接する「リサとガスパールタウン」内に昨夏オープンしたティーサロン「レ・レーヴ・サロン・ドテ」。店内はパリの劇場のような豪華なしつらえ。席は前面のガラス窓に向かって配置され、富士山を正面に眺めながら午後のひと時を過ごせる。提供するスイーツは「富士山ビュー特急」のスイーツプランをプロデュースする、橋本シェフパティシエによるスイーツ

L-4

みんなのVOICEこの記事を読んで思った意見や感想を書いてください。

観光産業ニュース「トラベルボイス」編集部から届く

一歩先の未来がみえるメルマガ「今日のヘッドライン」 、もうご登録済みですよね?

もし未だ登録していないなら…