消費者のオンライン予約が進むなか、ますます競争が激化するオンライン旅行(OTA)業界。そのなかで、世界2大OTAのエクスペディア社が昨年に世界で投入した技術開発費は8億ドル(約800億円)超、マーケティング費は30億ドル(約3000億円)以上。事業基盤の拡大を図った。訪日外国人旅行者の急増によって、同社における日本のプレゼンスもさらに高まっている。
「日本は世界でトップデスティネーションになっている」と話す同社シニア・バイス・プレジデントのグレッグ・シュワルツ氏にWIT Japan2016で日本市場の「現在地」を聞いてみた。
急成長の世界からの日本の予約、旅館も体験として販売
インバウンド市場の拡大に合わせて、エクスペディアは日本市場でのビジネス規模を拡大させている。2015年実績では、世界での日本の宿泊施設の予約は前年比70%増、アジアだけを見ると同100%増と急成長した。「想像していたよりも早いスピードで成長している。それも東京や大阪だけでなく、全国に広がっている」とシュワルツ氏は話す。
今年5月下旬には、同社の上級幹部40名が一堂に来日して日本市場を視察。同社CEOのダラ・コスロシャヒ氏も「アジア太平洋地域の中でも、特に日本が重要なマーケット」と話すなど日本市場重視の姿勢を示した。日本の営業所は6ヶ所(東京、大阪、名古屋、福岡、那覇、札幌)に拡大。各営業所では仕入れスタッフを増員し、特に地方の宿泊施設の仕入れに力を入れているところだ。
最近では訪日外国人旅行者のあいだで旅館の需要も高まっている。この点について、シャワルツ氏は「日本の宿泊施設はユニークで特別。単に部屋を売るのではなく、体験を売る形態なので、外国人旅行者にはそのスタイルに対する理解を深める努力していく必要がある」と話す。
さまざまな料金体系やオプションを提案してくほか、動画や写真を使いコンテンツをリッチにし、旅館だけでなくその土地の文化なども含めたトータルな体験を紹介していく。単なる予約サイトではなく、「旅行者をインスパイヤーさせる」役割も担っていく考えだ。
多様化する日本人海外旅行者、オンライン予約も増加中
一方、長い低迷期を抜けつつある日本人のアウトバウンド(海外旅行)市場に関してはどうなのだろうか。シュワルツ氏は、日本は成熟した市場で日本人旅行者の知識欲も大きいとしたうえで、「これまでよりも、マイナーなデスティネーションや冒険心を満たすようなデスティネーションへの旅行者が増えており、多様化が進んでいる」と話す。
また、オンライン予約が確実に増えてきていると指摘。「現在3人に1人の日本人がオンラインで旅行を予約すると言われているが、ほかの主要国と比べると、まだその率は低い。今後さらに増えていくだろう」と話し、エクスペディアとしても、その変化に応えられるように価値のあるプロダクトを提供していくとした。
グループ各社とシナジー効果、民泊新法でHomeAwayにも期待大
日本市場では、Expedia.co.jpにくわえて、ホテル予約のHotels.com、メタサーチのtrivago、ホームシェアリングのHomeAwayがエクスペディア・グループとして日本語サイトを運営している。シュワルツ氏は「競合相手になることもあるが、それぞれ独立して事業を展開しており、日本への投資もそれぞれの判断で行っている」と説明。なかでも、trivagoはTVCMを通じて日本市場へのペネトレーションを強めている。
昨年買収したHomeAwayについては、「ホームシェアリングはすでに世界で1,000億ドルの市場になっており、今後も成長していくだろう」と期待は大きい。
日本市場については、民泊新法に向けた動きが続いているが、「日本を訪れる外国人旅行者はさまざまなタイプの宿泊を求めている。ホームアウェイは、エクスペディアのなかでひとつのオプションになる」との認識。HomeAwayでホームシェアリングを予約する旅行者がエクスペディアで航空券やレンタカーを予約することも考えられることから、「統合せずともシナジー効果が期待できる」との考えを示した。
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ローカライゼーションではなくローカルビシネス
シンガポールをベースとするシュワルツ氏は、アジア太平洋地域でのビジネス展開についても言及。単一市場ではなく、多様な文化のほか、言語や消費者の期待にも違いがあるため、「エクスペディアはグローバル企業だが、米国発のビジネスを元にしたローカライゼーションではなく、現地のスタッフがつくり上げるローカルビジネスを大切にしている」と強調。グローバルプラットフォームを持っている一方で、それぞれのローカルサイトを構築している点が強みだとした。
日本市場でも、日本国内OTAとの競争が激しい。同氏はそのなかで、エクスペディアの利点は「そのスケール」と話す。「我々は、スケールを利用したテストを日夜行い、消費者の予約行動を分析している。スケールが大きければ、それだけその結果も早く出る。ビックデータを用いて、小さな変化でもビジネスに反映させてきた」と自信を示す。
また、日本市場ではB2Bにも力を入れていく方針で、「400以上の航空会社、30万軒以上のホテル、月4億5,000万以上のビジター数。こうした実績は、消費者だけでなく、オフラインの旅行会社にとっても有益だと思う」と話す。
アプリのアップグレードにも注力、SNSとの連携も
今後の展開については、世界で急速に予約数が伸びているモバイルへの対応を強化していく。なかでも「アプリは非常に興味深い」とし、利用率やリピート率が高く、予約も早いことから、特にモバイル人口が急増している新興市場での普及に注力していきたい考え。エクスペディアだけでなく、Hotels.comやtrivagoも同じ方向性だ。
また、次のステップとしてWeChatやFacebookといったSNSプラットフォームとの連携も視野に入れていることを明かし、「アプリの進化はさらに早くなるだろう」との見方を示した。
取材・記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹