世界的ブームのスマホゲーム「ポケモンGO」。現状で全制覇となる145匹のポケモンをゲットした米ニューヨーク在住のニック・ジョンソン氏が来日し、記者会見を行なった。
ジョンソン氏は1988年生まれの28歳。米国の“ポケモン世代”で、子供の頃からのファンだ。過去のゲームでもポケモンを全て集めてきたことが、ポケモンGO全コンプリートのモチベーションになった。一方でニューヨークのスタートアップ企業アプリコ(Applico)のプラットフォーム部門の長として、「ゲームのメカニズムを理解することで業務に活用でき、会社の利益にも繋がると思った」という、もう一つの動機もあった。
米国でのリリース後、わずか2週間強で米国に出現する142匹をゲット。エクスペディアのサポートのもと、地域限定のポケモン獲得のために世界旅行に出かけ、その最後の地として日本を訪れた。現状での全コンプリートを終えたジョンソン氏は、ポケモンGOの経験や世界旅行をどのように感じたのか。エクスペディア・ジャパン・マーケティング・ディレクターの木村奈津子氏との対談や、メディアとのQ&Aをまとめた。
いつもと違う体験
今回の世界旅行は7月31日にパリで欧州限定の「バリヤード」、8月3日に香港でアジア限定の「カモネギ」、8月5日に豪州でオセアニア限定の「ガルーラ」を獲得し、ポケモン発祥地・日本で締めくくる1週間4か国の旅。子供の頃から国内外の家族旅行を経験し、現在も2年に1度は長期休暇をとって海外旅行を楽しむジョンソン氏でも、「一言でいうとアメージング。信じられないくらい楽しい経験になった」と話す。
初めての観光地はもちろん、普通の旅行では行かないような場所を訪れることもあり、過去に訪れたことのある場所でも、「例えばパリのエッフェル塔では広場の芝生に寝転び、下から見上げてポケモンをゲットした」。そのほか、テレビで見たことのあったというシドニーのオペラハウスや日本の皇居周辺でも、ポケモンをゲット。「クールな場所に連れて行ってくれた」とポケモンGOでの体験を表現する。
さらにジョンソン氏が、いつもの旅行との違いを最も強調したのは人との出会い。知らない場所に行って人と出会うのは旅行の醍醐味だが、ポケモンGOの場合、世界各地にコミュニティがあり、「そこに行けば、初めての場所でも1人じゃないという帰属意識がある。現地で出会った愛好者にゲーム攻略を助けてもらい、世界中に友達を作ることができた」。現地のコミュニティは、フェイスブックやスナップチャットなどのSNSで調べて見つけ出し、現在もSNS上で友人として繋がっているという。
日本の魅力の一役に
今回、ジョンソン氏が最後の訪問地を日本にしたのは、ポケモンの発祥地である日本で旅を締めくくりたかったから。週末2日間の滞在だったが、皇居周辺やみなとみらいのイベント「ピカチュウ大発生チュウ」などでポケモン探しを行なった。このなかで印象的だったのは、日本では幅広い年代の人がゲームに参加していたことだったという。
家族が一緒にポケモンを探していたり、健康増進を兼ねてゲームをしているようなシニアも見たといい、「ポケモンを愛する人が多く、愛着の深さを感じた。そういう姿を見るのはとても楽しい経験だった」と話す。
ジョンソン氏は12歳の時、家族旅行で日本を訪れたことがあるという。2度目の訪日だが、ポケモンハントでの印象や以前とは大きく変わった東京の街歩き体験を踏まえ、「近いうちに地方にも行ってみたい」と、次の旅行意欲が喚起されたようだ。
新たな旅行のきっかけ
ジョンソン氏は約2週間強で、米国で現在獲得できるポケモン全コンプリートを達成。その間、通常通り出社し、アフター5と週末にガールフレンドと一緒にポケモンを探索した。1日平均6~8時間を費やし、歩き回って8ポンド(約3.6キロ)のダイエットもできたという。
ポケモンハントは居住地のブルックリンをはじめニューヨーク周辺が中心で、遠出でもニュージャージーに行く程度。その他は、知人の結婚式に参加するために出かけたカリフォルニアで採集したのみ。実はポケモンGOのために旅行に出かけたのは、今回の世界旅行だけだ。
とはいえジョンソン氏は、「ポケモンGOは確実に旅行を誘発する可能性を秘めている」と断言する。例えば、普段は休日に外出をしない人がポケモン採集に出かけ、ゲーム参加者が立ち寄ることの多い“ポケストップ”などで人と交流すれば、「たとえ近場でも旅行の魅力を体験できている。すでにポケモンGOが旅行のスタイルを変えていると思う」からだ。
また、結婚式の参列や帰省などの旅行目的ではない遠出でも、「その訪問先でポケモン採集をして、普段は行かない場所に足を延ばす人が増えているのでは」とも語る。ジョンソン氏は今回の旅行を含む全コンプリートに至る体験から、旅行とポケモンGOの親和性の強さを実感したのだ。もちろん、旅行・観光の専門家としての見解ではないが、旅行を決める主役はジョンソン氏のような旅行者である。
旅行のスタイルを変えているという点については、エクスペディア・ジャパンの木村氏も「自発的に行こうと思わなかったような、想定していなかった場所に足を踏み入れるという、新しい旅のスタイルが確立されつつある」という見方を披露。木村氏は近年の傾向として、FITの増加と「暮らすような旅」や「マラソン大会などの趣味の旅」などニーズの多様化をあげ、「ポケモンGOを目的とする移動もそのひとつになる」と見ている。
いずれにしても、ポケモンGOから何かが始まるきっかけに十分になりえる。ゲームをする人の気持ち次第だが、“移動をしてもスマホの画面だけを見て終わる”ことはなさそうだ。しかもジョンソン氏のように、ビジネスの可能性を探してポケモンGOに興じている人も多いはず。そこからより旅行・観光に近づけるアイデアが生まれるかもしれない。
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取材:山田紀子(旅行ジャーナリスト)