ツーリズムEXPOジャパン2016のツーリズム・プロフェッショナル・セミナーで、観光地域づくりシンポジウムが行われた。テーマは「DMOが担う観光地マーケティング」。観光庁による日本版DMOの候補法人は現在101件で、同庁では2020年までに世界水準のDMOをあと100件作りたい意向だ。しかし、DMOの必要性や現存DMOの運営はどのレベルまで進んでいるのだろうか。
地域観光を担う関係者にとって関心の高い同シンポジウム。特にデジタルマーケティングの強化が急務であり、デジタルを味方につけられるかどうかが地域活性の分かれ道となっている。シンポジウムで語られたDMOの現状とグーグルの提言をまとめた。
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デジタルマーケティングの重要性を再確認、世界のトレンドは「動画」
まずは、グーグルの陣内氏がデジタルマーケティングの重要性について解説した。全世界のインターネット人口は2014年の30億人(全体の42%)から2020年には100%になる見込みだ。これは、今後、パソコンやモバイルだけでなく、車、ゲーム、テレビ、ウォッチなど電源を使うものすべてがネットにつながるIoT(モノのインターネット)時代を迎えることを指す。旅行情報の検索では、パソコンよりスマホやタブレットを使う人が上回っており、こうした端末を使う人々に向けて情報を発信していく必要がある。
観光庁では、2017年の予算要求にICTを活用したプロモーションを明記しており、そのなかで映像の力の活用やネットのアクセス解析などを謳っている。
一方で、今年4~6月の観光庁による調査で訪日前の情報収集はデジタルが63%という結果が出ていても、「日本の観光施策におけるデジタル投資はわずか5%ほどでは」というのが陣内氏の見立てだ。対話によるクチコミや紙媒体を否定はしないものの、旅行者がどう行動し、どこにいくらお金を落とすかという費用対効果の可視化ができているかどうかは疑問視される。
「世界のマーケティングの潮流は今、デジタルをいかに使うか」と陣内氏。なかでもトレンドは、「世界の人の心を動かすには動画である」と言い切る。米国のプロモーションを行う組織「ブランドUSA」を例に挙げると、2015年は45%だったオンラインへの投資が2016年は63%に。なかでも動画への投資が前年比で256%もアップしたという。さらに、タビマエ、タビナカ、タビアトの旅の一連のサイクルでオンラインや実測による調査を行い、何月にどんな情報を発信したらいくら稼ぐことができるかというKPIの設定をきめ細かく行っている。
旅行者の季節波動が課題、宿泊と雇用の平準化を
シンポジウムに登壇した2つのDMOが語った現状は以下だ。
富良野市:年間雇用と宿泊の平準化が課題
グーグルで「富良野」を画像検索すると、一面花畑の画像が並ぶ。富良野のブランディングが出来上がっていると捉えられる一方、他の季節が写っていない、人が写っていないことで、「平準化や旅行者の経験・感動を創出できていないといった課題が分かる」と松木氏。旅行者のイメージと地域の想いにギャップがあり、これを埋めていくのがDMOの役割であるとしている。
富良野市商工観光課では2011年から満足度調査を、2013年からは消費額調査を実施。旅行者の多様性に対してはペルソナマーケティングを導入し、より狭いターゲットに向けて、ストーリー仕立てのマーケティングも行っている。
またわずか1カ月の花の季節に旅行者数が偏る傾向については、「平準化が大きな課題」(松木氏)。その解決にはインバウンドの需要が不可欠で、国ごとに異なる旅行のピークを閑散期に当てはめ、通年の地域雇用と宿泊の平準化を図っているという。
沖縄県:受け入れ施設との連動を強化
沖縄もまた、夏のイメージが強く平準化が課題に。そこで、春や夏には家族旅行や学生旅行、秋は女子旅、冬は大人旅というように季節とターゲットをマッチングさせることでオールシーズン楽しめる沖縄を訴求したという。
またライフスタイルに合わせた旬な楽しみ方として、歴史、カメラ、食などの切り口で情報を提供。そうした効果もあり、国内需要の平準化率は1975年の15%からじわじわと狭まり、2015年は8.4%にまでなったという。
しかし、DMOの取り組みを進める中で、「受け入れ側にこうした動きが浸透していないことに気付いた」と翁長氏。このギャップを埋めるプロジェクトを立ち上げ、受け入れ側とビューローの連携を強化した。例えば2013年に三世代旅行をターゲットにした春のキャンペーンを行うと、74軒の宿泊施設が参画し、沖縄県が三世代にやさしい県であることをアピール。翌年は82施設に加え、飲食の45施設も加わって、より充実した情報発信ができるようになったという。
時代の変化に対応できる人材育成がカギ
デジタルマーケティングの重要性については理解が高まっているものの、問題はデジタル化に対応し、かつインバウンドにまで目が届く人材をどう育成するかという点だ。富良野市、沖縄県でも実情はこうした専門家が不足している。となれば、外部から人材を呼び、人材を育成してもらうのが近道だろう。
しかし、「これからはデータを科学的にアプローチするデータサイエンティストも求められる」(陣内氏)。東京が雨で沖縄が晴れている時、世界に向けて何をどう見せると観光産業に効果的かというように、文字通りデータを科学していく手法だ。まさに「変化の先取りは待ったなし」(陣内氏)の状況で、一刻も早いデジタルマーケティングの強化、およびその先を見通す力が求められているといえるだろう。
取材・記事 竹内加恵