21世紀の新たな経済活動として注目を集めるシェアリングエコノミー。AirbnbやUberの台頭でその存在感は日に日に大きくなっている。民泊解禁が見込まれる今年は、日本でもさらに注目を集めることになるだろう。
昨年末、日本で初めて開催された「シェア経済サミット」では、ニューヨーク大学経営大学院教授で「シェアリングエコノミー」の著者でもあるアルン・スンドララジャン氏が「シェアリングエコノミーの未来〜クラウドベース資本主義はわたしたちの未来をどう変えるのか?」をテーマに講演を行った。
「次世代、誰もがどこかのプラットフォームに属して仕事をするのが当たり前になるかもしれない」。そう話すスンドララジャン教授が見据える未来とはーー?
シェアは20世紀の経営型資本主義に置き換わる
「世界でシェアリングエコノミーのプレゼンスが高まっている。現在はその基礎を作り上げている段階。日本でも過渡期に入っている」——スンドララジャン教授は現状をそう分析する。この変化を支えているのが新しいテクノロジーが生み出したクラウドペースの新本主義。クラウドとはcrowd、大衆という意味だ。
スンドララジャン教授はYouTubeを例に挙げた。YouTubeは、グーグルという大企業が所有しているものの、コンテンツは個人が制作しており、これまでのテレビとはまったく違う世界が広がっている。「私の娘はテレビをほとんど見ないで、YouTubeばかり見ている」と話し、クラウドベース資本主義が拡大している現状を説明する。
スタートアップの資金調達は個人ベースのクラウドファンディング、AirbnbやUberのように個人が遊休資産を活用し、食では生産者と個人がプラットフォームでつながる。
近い将来には、太陽光発電と蓄電技術の発達によって、エネルギーの個人間取引も生まれるだろうとスンドララジャン教授。「クラウドベースのシェアリングエコノミーは、20世紀の経営型資本主義に置き換えられる形で発展していくだろう」と未来図を描く。
そのうえで、「市場と企業、プロフェショナルとパーソナル、パートタイムとフルタイムなど、さまざまな領域で境界線が曖昧になってくる」と付け加える。
新しい信頼インフラが構築、デジタルが人と人を近づける
既存の資本主義では、市場、企業、製品などがブランディングなどによって信頼を醸成し、消費者がそれを信じることによって経済は回っている。では、個人対個人のシェアリングエコノミーでの信頼はどのように担保されうるのだろうか。スンドララジャン教授は、フランスのライドシェア「ブラブラカー」を例に、「イノベーションによって、知らない個人同士を信頼するインフラが構築されている」と説明する。
ブラブラカーは都市間の移動で空いている車の座席をシェアするもので、現在利用者はユーロスターの5倍にものぼるという。
そのブラブラカーユーザーを対象にした調査では、信頼できる対象のトップはファミリーで94%、次いで友人が92%。ブラブラカーは88%で3位になり、「驚くべき結果」(スンドララジャン教授)となった。その要因として、スンドララジャン教授は、プラットフォーム上でプロフィールが完全に公開され、フェイスブックなどデジタルIDによっても担保されていることが新しい信頼のネットワークを構築しているとし、「クラウドベース資本主義には、この新しい信頼が欠かせない」と発言した。
では、なぜドライバーはブラブラカーに登録するのか、なぜ赤の他人に空席を貸すのか。そのモチベーションはどこから生まれるのだろうか。
スンドララジャン教授は、「経済的価値よりも社会的価値への意識のほうが高いのかもしれない」と分析。また、デジタルテクノロジーは実世界での人と人との距離を広げていると言われているが、むしろ、デジタルインターアクションで人とコミュニケーションをとる機会が増えており、「孤独な時代において、デジタル化は人の基本的な欲求を満たしている」と社会批評の点からシェアライドを説明した。
また日本における信頼の構築についても言及。「日本同士の信頼関係は非常に強い。その意味では、シェアリングの信頼醸成では大きなアドバンテージがある」と話し、外国人への信頼感は積み重ねていくことで上がっていくと付け加えた。
政府がすべてを規制すべきではない
このほか、スンドララジャン教授はシェアリングエコノミーに対する規制についても言及。「政府がすべてを規制する必要はない」とした。プラットフォームは規制すべき相手ではなく、パートナーシップを築く相手という立場だ。「規制のパートナーとしてのプラットフォームという考え方をとるべき。だからこそ、プラットフォームが担う役割も大きくなっている」とした。
シェアリングエコノミーによって、マイクロアントレプレナーが増え、個人のルールも変化してきている。「次世代では、どこかに雇われるのではなく、どこかのプラットフォームに属して仕事をすることが当たり前になる」と予言。将来的にこの流れはさらに加速していくとの見方を示した。
取材・記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹