全米旅行産業協会は2017年3月2日(NY現地時間)、トランプ大統領が先に発令した入国規制政策が米国観光産業全体を直撃している現象(「トランプ・スランプ」といわれる)を懸念する声明を発表した。
AP通信によれば、ホワイトハウス側は「国際統計の正式取りまとめには数カ月かかるため、否定的な結論付けはまだ時期尚早だ」と否定しているものの、同協会は「米国への国際旅行需要低下の明らかな兆候がある」と説明。セキュリティが米国旅行産業にとって最優先事項であるとしたうえで、「米国が正当な旅行者を評価し、歓迎している」ことを大統領令として明確に表明するよう求めているという。
この状況は、トランプ大統領が2017年1月に、イランやイラク、リビア、ソマリア、スーダン、シリア、イエメンの7か国に対して発令した入国規制を発端とするもの。連邦裁判所の命令により差し止めとなったが、執行令の改正を間もなく予定。世界的に「米国は国外からのビジネス旅行者やレジャー客も歓迎していない」との解釈が広まり、その結果として"米国への海外旅行控え"に動く流れを見せているとするものだ。
また、旅行関連メディアFrommers.comを運営するアーサー・フロマー氏は先月、「トランプ・スランプ」という言葉を使ってこの問題に言及。外国人観光客の減少により、米国内雇用や観光収入が悪化する状況を示していた。その現象として、例えば以下のようなものが挙げられている。
ニューヨーク市観光局(NYC&Company)は、すでに2017年の同市へのインバウンド旅行者数を「前年比30万人減」にまで下方修正。2008年以来、最低の数字となる見通しを示した。
また、フィラデルフィア・コンベンション&ビジターズ・ビューローは、参加者3000人レベルの大規模国際会議の誘致に失敗。代わりにカナダやメキシコに決定する流れとなったとしている。カナダの新聞トロント・スター紙では1月30日、カナダ国民に向けに、トランプ氏が大統領でなくなるまで「アメリカでの休暇ボイコット」を奨励した。
旅行業界に特化した調査会社フォワード・キーズ(ForwardKeys)が調査した旅行予約状況では、2017年2月の米国への渡航予約数は前年比6.5%減になったとレポートしている。
一方で、国際航空運送協会(IATA)のアレクサンドル・ド・ジュニャック会長は、米国への航空便数が「2017年はいまも増加傾向がみられる」と指摘し、景気後退の懸念はないとの見方を示している。
こうした米国への海外旅行を控える動きは、米ドルの高騰を理由とする流れだとする意見もあり、今後も様々な議論と影響を与えそうだ。米商務省は、昨年、2017年に米国に訪れる旅行者が7860万人に達すると予測を発表しているが、例年5月に更新される新たな予測値に注目が集まる。