経営破綻した「てるみくらぶ」が粉飾決算を繰り返していた可能性が高まっている。決算書は観光庁や銀行など提出先によって目的別に複数、作成されていたという報道もある。これは事実なのか?このほど同社が提出した破産手続開始申立書から、てるみくらぶの経営状態をトラベルボイスのコラムニスト公認会計士・税理士の石割由紀人氏に一問一答形式で聞いてみた。 *写真は2017年3月27日に行われた同社の記者会見。
Q1、てるみくらぶは粉飾決算をしていたのでしょうか?その場合、法的な責任は?
粉飾決算をしていたのは、ほぼ間違いないでしょう。破産申立書においても詳細は精査中であるとしつつも粉飾の疑いのある会計処理についての指摘がなされています。
直近2年の決算書をみると、未収収益の内訳に航空会社の名前が並び、その販売におけるキックバックの過大計上(売上過大計上)、前受金の過少計上、ソフトウェア資産の過大計上等といった粉飾の手口が使われた可能性があります。
粉飾を行うと刑事責任と民事責任を負います。刑事責任では、違法配当罪、特別背任罪、銀行等に対する詐欺罪など、民事責任では違法配当額の賠償、第三者責任、銀行等債権者に対する損害賠償請求を負います。
Q2、外部から、経営状況は把握することは難しかったのでしょうか?
てるみくらぶは、上場会社ではありませんので、決算書の公表は義務ではありません。2年前から業績開示をしていないという報道がありましたが、従来、会社独自の判断で任意に業績開示していたものの、業績不振を隠すために非公表にしたのかもしれません。
取引金融機関等は決算書等を通じて経営状況をある程度は把握していたとは思いますが、その決算書が粉飾決算であったということです。
現金一括入金キャンペーン等もあって、何とか事業が回ってしまっていたので、銀行側から融資を止めづらかった状況があるかもしれません。憶測にはなりますが銀行も薄々粉飾決算の可能性を嗅ぎ取っていたのではないでしょうか。銀行にとっても、これ以上被害額を増やさないというのは合理的な判断だったのではないかと思います。
Q3、経営の問題点は、どこにあったのでしょうか?
インターネットの普及で、業績拡大してきた「てるみくらぶ」ですが、インターネットの更なる進化によって、旅行者は旅行業者を利用しないで、自分で宿泊施設や格安航空券を手配することが可能になりました。国内・外資ともにオンライン旅行会社(OTA)との競争激化で粗利率が低下したと思います。
てるみくらぶの経営は、航空会社からのボリュームインセンティブであるキックバック手数料に依存した収益構造であった可能性があります。
破産手続き開始申立書においては、「航空会社との合意が成立しているか必ずしも明らかではなく、その村費及び金額については精査が必要である。」と粉飾の可能性を示唆しています。要するに架空売上げの疑いがあるということです。
旅行業界を取り巻く経営環境は厳しいものがありますが、粉飾決算に手を染めて、金融機関らからの融資を継続させることに注力し、厳しい現実や根本的な経営の課題と向き合っていなかったのではないかと思います。
Q4、破産の理由であげられた広告宣伝費の急増とは、どのような状況でしょうか?
会社作成の決算書では平成27年9月期では9億7600万円だった広告宣伝費が平成28年9月期では一気に20億円に増加しています。新聞への広告出稿を増やしたという報道がありましたが、広告宣伝費の激増が資金繰りを悪化させた原因の一つではないかと思います。
航空会社からのボリュームインセンティブを獲得するために、薄利多売で広告宣伝費を増やさざるを得ない状況に陥ったのだと思います。
Q5、2017年度に新卒50人の採用を決めていたといいます。この規模の会社が50名の採用したことをどう見ますか?
正社員75名(他、契約社員4名、パートアルバイト48名)であるのに、内定者58名は多過ぎだと思います。憶測になりますが、シニア向けに新聞広告を増やしたので、インターネット広告に比べて電話アポインターとして人件費の低い新卒が必要だったのかもしれません。
一方で、事業継続事態に疑義があったであろう状況を考えると、計画倒産を疑われないために、世間に積極採用を印象付けようと考えた可能性もありますが、その点は謎です。
Q6、決算書から山田代表の役員報酬が明らかになりました。その金額は適正ですか?
決算書には、役員報酬が年収3360万円と記載されています。それは、たしかに高額な給与とみていいでしょう。黒字会社ならともかく、赤字会社の役員報酬としてはもっと金額を抑えるべきだったかもしれません。
ちなみに、破産手続開始申立書の添付書類を見ると住まいは年間家賃421万円のマンションでした。社用車にはベンツが記載されていましたが、平成19年登録の簿価28万円のものです。際だって豪華待遇ではないと思います。
しかしながら、役員報酬減額といった自分の身を削れない経営者に抜本的な経営改善は難しかったのかなと思います。
Q7、てるみくらぶのように急激に資金繰りが悪化したとき、経営者はどうするべき?
まずは止血と資金調達を進めるしかないと思います。資金繰り悪化が、安値による現金一括入金キャンペーンに走らせたのだと思います。
今回の破産申立は、メインバンクであるSMBCから緊急融資等を受けつつも、資金繰りに窮し、国際航空運送協会(航空券購入代金を一括受託)への航空券代金支払遅滞と航空券発券システム停止が直接的な引き金となりました。
自転車操業状態でボリュームインセンティブを獲得するために走り続けるしかなかったのではないでしょうか?
Q8、今回の破産は計画的で詐欺といわれています。本当でしょうか?
計画詐欺のようだと思われても仕方ない面はあると思います。
「てるみくらぶ」の給与計算は、10日締め25日払いで、3月25日は土曜日ですので、3月24日に最後の給与を従業員に支払って、翌月曜日27日に破産申立を行ったのだと思いますが、給与支払前の現金一括入金キャンペーン等は悪質だと思います。
回答者:石割 由紀人氏(公認会計士・税理士)
国際会計事務所にて監査・税務業務に従事後、ベンチャーキャピタルを経て、スタートアップベンチャー支援専門の会計事務所を経営。多くのベンチャー企業等の株式上場支援・資本政策立案等を多数支援。上場会社をはじめ多くの社外役員も兼任。
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