2016年11月、新しいプレミアムクルーズ客船「ゲンティンドリーム」が誕生した。アジアを基盤に展開するレジャー・エンターテイメント企業「ゲンティン香港」が就航した、総トン数15万トンの大型客船だ。
このゲンティンドリームが2017年4月から10月まで、香港を母港に5日間の沖縄クルーズと3日間のウィークエンドクルーズを実施している。日本の観光関係者にとって、この船は、一度に3000人規模の旅行者を連れてくる訪日クルーズの客船であり、日本発の香港旅行の商材。2つの側面で関わりを持つ船となる。
そんな新クルーズで、先ごろ、ゲンティン香港がグローバル拠点の旅行会社やメディアを対象に招待クルーズを実施した。そこで体験した船内の様子とプレゼンテーションから、アジア初のプレミアムクルーズライン「ドリームクルーズ」が欧米資本の大手客船と何が違うのか、そして何に注目すべきか、ポイントをまとめた。
豊かになるアジア市場に対応
クルーズを主軸に、アジアでIR(統合型リゾート)などのレジャー・エンターテイメント事業を展開するゲンティン香港。日本ではその名を聞く機会は少ないが、実はアジアのクルーズ旅行商品で販売されている「スタークルーズ」や、2015年に日本郵船から譲受したラグジュアリークラスの「クリスタルクルーズ」など、日本で親しまれているクルーズラインを傘下に置く。スタークルーズに関しては2017年7月~11月まで、横浜と大阪を母港に日本市場をターゲットとする日本発着クルーズの就航を発表。吉本興業とのコラボ企画で、芸人が毎クルーズに乗船することでも話題になっている。
ドリームクルーズは、このラインナップに2016年秋、新たに追加したクルーズライン。既存の客船のリブランドではなく、アジアで23年間運航してきた自らの経験をもとに開発した、アジアゆかりのプレミアム客船だ。
同船を就航させた理由についてゲンティン香港は、急成長するアジアの富裕層マーケットの需要に対応したと説明する。
今回のクルーズ上で実施したプレゼンテーションでも、アジアのマーケット変化を強調。ドリームクルーズ&スタークルーズ営業上級副社長のマイケル・ゴー氏は、アジアのクルーズ人口が2012年の130万人から年平均14.3%増で推移し、2020年には380万人に達するとの調査結果を紹介。年率2ケタ増のスピードで成長するが、それでもアジアの全人口に占める割合は「わずか0.5%」と指摘する。
その上で、アジアの中間層が2009年の5億2500万人(世界シェア28%)から2020年には17億4000万人(54%)、2030年には32億2800万人(66%)になるとの推計を示し、クルーズ産業のチャンスをアピール。「お客様が求めるものを常に提供していく」と、ゴー氏。アジアを知るアジアのクルーズ会社が、豊かになるアジアへの取り組みを加速化している。
クルーズラインナップも拡充
マーケット変化への対応は、ドリームクルーズの就航に留まらない。ゲンティン香港は2017年、スタークルーズで横浜、大阪のほか、バンコクとマニラを母港とする新しいクルーズコースも発表。アジアでの定期クルーズは2ブランド体制で母港を計12港に拡大し、10か国35寄港地へとコース設定を拡充する。
注目はマニラの母港設定。近年は、欧米の大手クルーズ会社がアジア攻勢を強めているが、フィリピンを母港とするのはスタークルーズが初めて。
マニラのほか、香港、高雄(台湾)の計3港を母港に、3月17日~5月31日の期間中に旗艦船「スーパースターヴァーゴ」で運航する5泊6日のクルーズで、いずれの母港でも各拠点からの集客を狙う。つまり、フィリピンも日本と同様に、現地発着クルーズを楽しむ客層のボリュームがあるマーケットとして展開していくのだ。
これは、ゲンティン香港が展開するIR「リゾートワールドマニラ」の利用状況をはじめ、フィリピンのマーケット状況を踏まえて決定したもの。今後、ソースマーケットとして育てる自信を持って設定したという。
オンリーワンの存在を追求
巨大な伸びしろのあるアジアには、欧米の列強が進出を強めている。競争環境が激化しているなか、ゲンティン香港はどう競合していくつもりだろうか。
この点をゴー氏に聞いたところ、「他社と競合する必要はない」と断言。「我々は他社とは違う独自の存在でありたい。それを追求することが差別化になる」と独自性を強調した。
「アジア発祥のクルーズとして、アジアのアットホームなホスピタリティと国際的なレベルを兼ね備えたサービスが我々の特徴」といい、これを実体験してもらうために今回の招待クルーズを実施したという。
こうしたブランドやサービスの考え方は船のハードからサービスにまで反映。15万トンの大型客船ながらキャビン数を1674室におさえ、レストランやバー、アトラクションなど、多様性に富んだ船内施設を揃える。ドリームクルーズで重視するのは、「体験のラグジュアリー」とゴー氏。「単なる豪華なサービス体験ではなく、心身ともに多様な豊かさを感じられる体験を提供すること」と話す。
ゲンティンドリームに関しては日本においても、旅行会社が香港ウィークエンドクルーズと航空券、または香港泊のホテルと組み合わせた日本発フライ&クルーズを商品化。また、沖縄クルーズ後の12月~2018年3月に予定されるシンガポール発着の東南アジアクルーズでも、商品化の引き合いが多いという。
ドリームクルーズは2017年11月、第2船として同型の「ワールドワールド」を就航し、2船体制とする。今夏のスタークルーズによる日本発着クルーズの状況によっては、来年度には「ゲンティンドリーム」での日本発着クルーズも検討する考えだ。今後、日本市場でも存在感を高めていくアジア発祥のプレミアム船「ゲンティンドリーム」を、画像で紹介する。
【ゲンティンドリーム 船内】
▼総トン数15万1300トン。全長335メートル、全幅40メートル、デッキ数18層の大型客船。7割がバルコニー付きというキャビン(全1674室)のほか、6つのウォータースライダーなどの各種アクティビティ、ショーなどのエンターテイメント施設を備える。特に力を入れているレストラン&バーは、計35か所に及ぶ。
▼ロビーエリア。フロントは向かって前方と左側にブースを設置。右側には寄港地ツアーの申込みデスクがある。基本的に英語と中国語対応が必須のため、クルーは東洋系が多い。船内通貨は香港ドル。
▼メインダイニング「ドリームダイニングルーム」。2階建てで、西洋料理とアジア料理を提供。ディナーでは中央スペースを空け、メインシアターのショーに出演するダンサーによるパフォーマンスもある。朝食は下の階で洋食、上の階で中華を提供
▼料理は「ゲンティンドリーム」で最も期待したい楽しみの一つ。スペシャリティレストランのなかでも、「ビストロbyマーク・ベスト」は洋食のシグニチャーレストラン。豪州のセレブリティシェフ、マーク・ベスト氏によるもので、船上での展開は同船が初めて。
▼もう一つのシグニチャーレストランは、オリジナルの中華料理を提供する「シルクロード&キャバレー」。このほか、カジュアルな東南アジア料理を出すホーカースタイルのレストランや、鉄板焼きや寿司を出す日本料理までさまざま。テーマごとに、各レストランの内装にも注目したい。
▼バー&ラウンジは22か所。3層吹き抜けで、360度どの席からも中央ステージのエンターテイメントが楽しめる「バー360°」のほか、お酒好きにうれしいのが、ウィスキーやワインを専門に扱うバーが集まるエリア「バーシティ」。写真はジョニーウォーカーにこだわった「ジョニーウォーカーハウス」。
▼船前方の最上部、16デッキから18デッキまでは、専用チェックインやバトラーサービスなどを提供するスイート「ドリームパレス」カテゴリーの専用フロア。落ち着いた空間が広がる。写真は専用プールデッキでガゼボもある。その他、ラウンジやレストラン、シガーバー、スパも専用施設を用意。
▼キャビンカテゴリーは8つ。写真は日本人に人気のバルコニーステートルーム。広さは20~31平方メートル。落ち着いた雰囲気で、クッションなどファブリックも質の良さを感じる。厚みのあるマットを使用するベッドはゲンティン香港が厳選したもので、乗客の評判もいいという。ちなみに、船内はカジノを除き禁煙。屋外では客室バルコニーや指定場所での喫煙は可能。
▼エンターテイメント施設はメインのショーを上演するシアターをはじめ、7か所用意。デッキ17の後方にある「ズークビーチクラブ」は、ゲンティン香港が買収したシンガポールの人気ナイトクラブ「ズーク」によるもの。ゲンティン香港のその他のレジャー事業のノウハウも盛り込む。浅いプールのダンスフロアとLEDスクリーンがあり、MICEでのパーティにも利用できる。定員は155名。
▼ビューティー&ウェルネス関連の施設は、サロンや男性用床屋、フィットネスを含め7か所。このうちスパは西洋スタイルのマッサージトリートメントと、アジアスタイルのスパ、マシーンを用いた本格的なエステがあり、選択の幅が広い。アジアスタイルのスパは、足つぼマッサージ60分138香港ドル(約1980円)~など、気軽に利用できる。
取材協力:スタークルーズ日本オフィス
取材:山田紀子(旅行ジャーナリスト)