テロの脅威を理由に、米政府が検討していた欧州/北米路線における電子機器の機内持ち込み規制案がひとまず回避されることになった。
AP通信によると、ノートPCやタブレットの機内持ち込み禁止規制の対象を現状の中東だけでなく、欧州路線にも適用することを協議していたが、5月17日に行われたEU(欧州連合)当局との会談では決定が見送りに。米EU当局は「情報共有をよりよいかたちで緊密に」行うことで合意した。次週、再び米ワシントンで会合を開く見通しだ。
欧州/北米線は、世界で最も混雑した航空路線となっており、1日当たりの便数は400便、年間の利用者数は6500万人。大半がビジネス客で、機内でも電子機器を使用している。このため、欧州路線で電子機器の機内持ち込み禁止が実施されれば、大混乱が予想されている。今回は北大西洋路線での大混乱はひとまず回避された格好だが、引き続き視界が不透明な情勢が続きそうだ。
米国土安全保障省や国際航空運送協会(IATA)も協議、規制適用路線では業績悪化の要因に
EU側は、機内への電子機器持ち込み禁止案が、欧州線に対しても検討されることになった背景について、どのような安全への脅威があるのか、米側に詳しい情報の提供を要請。具体的には、トランプ大統領が先にホワイトハウスでロシア外相に伝えた内容をEUにも共有するよう求めていた。
それを受け、トランプ大統領は、ロシア外相や駐米大使に伝えた機密情報について、ISIL(イスラム国)が航空機内でノートPCを使用したテロ行為に及ぶ脅威に関するものだったと説明。こうしたなか、米国土安全保障省の高官がアメリカン航空、デルタ航空、ユナイテッド航空の幹部と会い、同規制を欧州路線に拡大する案について協議。欧州線への規制拡大は一時、「時間の問題」との声も出ていた。
その後5月17日、ブリュッセルで開かれた会合に出席した米国土安全保障省とEUの担当官らは、空の旅の脅威について情報を交換。会合内容を知る関係者によると、ノートPCなどの機内持ち込み禁止については、当面は「議題からはずされる」ことになった。
米EUの会合では、航空セキュリティ基準や探知能力について情報を共有。次回は「航空旅客の安全に必要なソリューションと、欧米が共通して抱えるリスクを算定する。同時に、グローバルな空の旅が、円滑に機能することを保証する」との共同声明を発表した。
国際航空運送協会(IATA)は会合前日の16日、EUと米国の双方書簡を送り、持ち込み禁止の規制導入に反対する立場を伝えていた。IATAは、同規制が経済活動に大打撃を与え、旅客の時間的損失は、金額に換算して11億ドル相当にものぼると指摘していた。
また、電子機器には発火のリスクがあるリチウム電池が多く使われているため、これを貨物エリアに集積して保管することの安全性も危惧。出発前の検査を強化すれば、旅客から電子機器を取り上げる必要はなくなると訴えている。IATAでは、17日の会合結果について、セキュリティ強化と旅行者の不利益を最小限にとどめることで合意したことを歓迎している。
なお、中東地域からの路線などに対する持ち込み禁止規則は、英国でも一部で採用されており、オーストラリア政府も検討中だ。機内持ち込み荷物の検査に使用されている機器の精度が、安全管理の面で不十分であることが理由という。
今年3月から同規制が実施されているのは、主に中東など10都市からの路線。対象は1日50便で、中東系航空会社の業績には打撃となっている。中東最大手のエミレーツ航空がこのほど発表した2016/2017年度の決算は、利益が前年比8割減。同社では、一連の中東路線に対する規制強化が一因としている。