注目すべきVR・ARの先行事例4選、世界の最新トレンドから今後の活用を考えた【外電コラム】

動画を使ったマーケティングのことを「イノベーション」と呼ぶ人はもういない。しかし今、上昇基調にあってユーザーが最も消費しているコンテンツといえば、やはり動画だ。あらゆるデジタルチャネルにおいて、コンテンツに対するユーザーからの反応を押し上げてくれる、非常に人気の高い手法といえる。

ハブスポット(HubSpot)が発表した2017年インバウンドの現状レポートによると、マーケティング担当者に破壊的な革新をもたらす手法といえば主に動画。ただし、今後12カ月間に戦略的な利用を考えている動画供給の場は、ユーチューブとフェイスブックの2大サイトに集中している。

しかし、消費者を飽きさせないように人気のトレンドに新しく革新的な手法を加え、さらに発展させることが重要だ。

最近増えているものを一つ挙げるなら、インタラクティブな動画コンテンツ、つまり360度ぐるりと表示できる動画や拡張現実(AR)、仮想現実(VR)だ。消費者に双方向でのやりとりを楽しんでもらえる次世代型への一歩といえよう。観光でも注目の技術である。

アップルがiPhone Xにアニモジ(Animoji、動く絵文字)機能を加えたことで、自分の顔をアニメ化し、コンテンツとして他の人とシェアできるようになったことも、小さいながら未来への前進だ。インタラクティブ性と創造性にあふれた一歩ではないか。

すでに旅行業界では、360度の全方位映像や動画を使って機内の様子や異国情緒たっぷりの休暇の風景を紹介し、ユーザーを説得するのに活用している。しかし今後は、小売販売店や不動産業、ソーシャル分野でも、同じような取り組みが大流行の兆しだ。

様々なチャネルを総合的に活用し、売上アップや好意的なブランド認知へとつなげられる、時代に即したマーケティング戦略の策定が重要だ。では2018年度のマーケティング戦略では、インタラクティブ動画をどのように効果的に組み込むのがよいのだろう。さらにVRやARを取り入れ、想定する顧客層向けに自社ブランドをアピールする場合、どのような可能性があるのだろうか?

2018年の戦略でVRとARをどう活用するべきか

モバイルデバイスでの拡張現実(AR)活用は、マーケターがターゲット顧客層へとリーチするのに、ニッチかつ魅力的な手法となる。瞬時に、簡単に、とてもインタラクティブな関係性が構築できるからだ。仮想現実(VR)を活用したマーケティングの未来は、まだ混沌としている。なにしろ頭に装着する装置(HMD、ヘッドマウントディスプレイ)が必要なので、ターゲットとする相手がこうした機材を持っていなければ、そもそも何も伝えることができない。

VR業界にはまだこれから変動する要素が多く、マーケターにとっては不確実な存在だ。さらにHMDなどが必要となるため、コストが高くなる。こうした機材は、ゲーム業界やエンターテイメント産業向けの製造が主流で、マーケティングやB2B戦略での使い勝手は今ひとつというのが現状だ。VRやARの技術は、今もどんどん開発が進んでいるので、企業の立場からすると、本格的な活用は安定した完成形の登場を待ちたいところだろう。

ロンドンで開催された国際カンファレンス「ソーシャル・メディア・ウィーク2017」では、有名な制作会社「UNIT9」のエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターであるヘンリー・カウリング氏が、VRの将来性について以下のように話した。

第一段階は、VRが自社のマーケティング戦略にぴったりフィットするかの判断。次に、ターゲット層に対して、ヘッドセットを被るだけの価値が十分あると説得できるかどうかだ。

いずれもVR活用を検討する際にマーケターが直面する難しい問題だ。

「グーグル・カードボード」は、ボール紙製の組み立て式VRヘッドセットで、スマートフォンを装着して使う。目下、一番売れているのはこれだ。このヘッドセットで体験できるのは、完全なヴァーチャル・リアリティというより、臨場感たっぷりの360度動画に近い。

最終的には、モバイル型ARが現在のAR機器の開発市場を席捲するのだろうか?

消費者が使うプラットフォームの主流はスマートフォンとなり、そこにAR機能が多く搭載されるようになるだろう。顔面に装着する大きなメガネ式の機器よりはましだろう。 ――マーク・ザッカバーグ氏、テクノロジー・メディア「テック・クランチ(TechCrunch)」より。

これまでにもさまざまなブランドが、デスクトップやモバイルで360度動画などのインタラクティブビデオを試してきた。さらに先を行くイケアでは、ARアプリやソーシャルプラットフォームARレンズの提供を開始して顧客層の関心を惹こうとしている。ただし、VRの今後はまだ混沌としている。

最新のインタラクティブビデオとARのトレンドには、どのような革新的な取り組みがあるのか、先行事例を見ながら、2018年に向けた注目ポイントを探ってみよう。

事例1:IKEA(イケア)のAR家具アプリ

大きな家具を購入したものの、気に入らなくて返品することになったとき、3人ものスタッフに事情を説明し、2種類の返品用紙に記入しなければならなかった――。こんな経験はないだろうか。イケアから新しく登場したiOS用アプリ「プレイス(Place)」を使うと、家具を購入する前でも、自宅に置いた状態をプレビューできる! 消費者は、お目当てのイケアの家具が自分の家の中でどう見えるのか、買う前に試すことができる。一方、イケアにとっては、成約率のアップが課題だった。これは、ARをeコマースに組み込んだ創意工夫の事例だ。

ここではARが、消費者のエンゲージメントを高めるのに重要な役割を果たしている。ユーザーは自宅の中を歩きまわりながら、家具を置きたい場所を選び、イケアの商品をあれこれ置いてみながら、購入を検討できる。こうした広告は、家具購入を検討する消費者を説得するのに画期的な新手法だ。もしもその家具が自宅に合わなかったら? 気に入ったものが見つかるまで、他の商品を次々と試すことができるわけだ。

このアプリでは、アップルが手掛けた新しい拡張現実開発プラットフォーム「ARkit」(10月に同社が実施したiOS11へのソフトウェアアップデートの一環)を部分的に使用しており、現実に存在する場所の画像と、デジタル拡張画像を合成することができる(ちなみに、グーグルの拡張現実プラットフォーム「Tango」は、すべてのアンドロイド機器には自動対応していないため、イケアがアンドロイドユーザー向けにも同様のアプリを提供するかどうかは不明だ)。

こんなアプリが出てくると、イケアの店舗に出かける楽しみ(と、イケアレストランでミートボールを食べる楽しみ)がなくなってしまうだろうか? あるいは実用的かつインタラクティブ、説得力のある新技術は、ただ見て楽しむだけだった客層を購買へと動かすのだろうかーー? とにかく、面倒な返品手続きから解放されることは間違いないだろう。

事例2:百貨店「ジョン・ルイス」による360度対応動画広告

動画広告におけるイノベーションや斬新な取り組みは、多くの人々が、広告に期待しているものの一つと言える。動画戦略における新しい話題は何か?

ARでもVRでもないのだが、注目に値するものとして、イケアと同じようなアプローチを行っている英国のリテーラー「ジョン・ルイス(John Lewis)」を紹介しよう。同社がこの秋、フェイスブックの広告で試験的に始めた360度ショッピング動画は、新しく、革新的なアイディアにあふれ、イケアのアプリ「プレイス」との共通点もある。成功すれば、「SNS内で商品購入まで対応可能な360度インタラクティブ動画」という手法の確立につながるかもしれない。

https://www.facebook.com/JohnLewisRetail/videos/10213856485463247/

この動画広告は、顧客やソーシャル・メディアのユーザーに、インタラクティブな買い物をもっと楽しんでもらおうというアプローチ。ショッピングをする際、(店の展示スペースではなく)実在する住居の中に商品を置いた状態を見て、購入を検討してもらう趣向だ。店舗はもちろんeコマース分野でも、これまでにはなかったレベルで、インタラクティブな商品検討体験を提供できる。

ジョン・ルイスのソーシャル・メディア担当シニア・マネジャーは「マーケティング・ウィーク」の取材に対し、次のように述べた。

今回の取り組みはまったく新しい手法なので、ROI(投資利益率)やベンチマークを計測するのは難しい。重視しているのは、クリックやサイト閲覧体験をいかに実売につなげるかです。

新しく革新的な動画広告の投入で、状況は改善したのだろうか? ジョン・ルイスは、フェイスブックの企業ページに100万人以上のフォロワーがいるが、今回の新しいコンテンツの閲覧数は1万1000ビュー。具体的な反応は100件以下にとどまっている。

ショップで展示されたものやeコマース・サイトのよくある写真を見るよりも、住居の中に置かれた商品を見る方が、断然おもしろい。ただし、イケアの「プレイス」ほど、個人的な親近感はもちにくいかもしれない。

事例3:スナップチャットの3D「World Lenses」

ソーシャル動画といえば、もともと「スナップチャット(SnapChat)」が始めた分野だが、今では競合するプラットフォームが増え、インスタグラムやフェイスブックなどが徐々にその牙城を崩し始めている。ソーシャルプラットフォームでは、ユーザーの関心を惹き付け、飽きさせないよう工夫をこらした「フィルター」の開発がどんどん増えている。

スナップチャットも負けじと、「レンズ(Lenses)」と言われる画期的な特殊加工用フィルターを発表した。企業ブランドを象徴するような三次元のキャラクターや物体、ロゴなどを投稿動画に加える機能で、その名を「スポンサード・レンズ」という。

大人気を博した同社の「ダンシング・ホットドッグ」(ブレイクダンスを踊るホットドッグのバーチャルな画像を、実在の光景に組み込む機能)は、この布石でもあったようだ。

ARと現実の動画を組み合わせるフィルター機能のおかげで、企業のソーシャル戦略や消費者との関係構築の場にクリエイティブな面白さが加わった。自社ブランドを冠した3D画像を使い、色々な楽しみ方ができる。

スナップチャットが最初にリリースしたスポンサード機能は、ブランド名やロゴを表示できるフィルター付きのもの。続いて二次元(2D)レンズを使ったタイプが登場し、インタラクティブで楽しい要素が加わった。

最新の試みでは、三次元(3D)レンズを採用することで、ユーザーをもっと楽しませつつ、ブランド各社への関心を高める効果を狙っている。3Dレンズの販売は、スナップショットの営業チームを通じておこなわれる。競合他社とは異なる取り組みは、自社ブランドへの興味関心を高めるのに役立つだけでなく、ソーシャルプラットフォームを盛り上げるのにも一役買うのではと期待されている。

事例4:「ジラーフ360(Giraffe360)」を使った不動産販売でのVR活用

英国ロンドンを拠点とする比較的新しいスタートアップ、ジラーフ360テクノロジーでは「不動産業界向けに、仮想現実での物件チェック機能を提供している」(「スタートアップ・ガイド」より)。

創業者のマイカス&マダーズ・オペルツ兄弟は、2010年にバーチャルツアーの提供を開始し、その後2015年の取引高は50万ユーロに達した。

彼らが開発したVRソフトウェアは高解像度のHDR映像を使用しており、世界中どこでも不動産物件の紹介に活用できる。物件を見るために、遠方からはるばるやって来る顧客が多いならば、VRの活用は非常に役に立つ。それだけではない。まだ工事中の物件でも、完成後のバーチャルイメージを閲覧できる。

英国リーズの不動産会社シトゥ(Citu)も、「完全没入型のVR」を開発。顧客が新規開発中の住居を体験できる体制を整えている。この手法なら、まだ更地の段階にある物件も、時期を問わずに「バーチャルセールス」ができる。

AR/VRの予測

企業各社は、間違いなくこの分野についての調査を始めており、インタラクティブ動画のフォーマットやそこで提供できる体験を色々と試すようになっている。そして2020年の予測では、ARの売上がVRを1200億ドル上回るとの見方だ。

ARとVRの売上予測は、年々拡大しているものの、業種によっては.あまり馴染まない技術かもしれない。旅行業界、不動産業界、リテール販売業、ゲーム・エンターテイメント業界にとっては、大きなポテンシャルがあるものの、その手法などはまだはっきりしない。また、金融、販売代理業、B2Bの業種については、インタラクティブ動画のコンテンツが果たして広まるのかどうかも不透明だ。

※編集部注:この記事は、デジタルマーケティング事業をおこなう英「スマート・インサイト(Smart Insights)」に掲載された英文記事を、同編集部から承諾を得て、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集しました。

※オリジナル記事:Is Marketing ready for VR / AR in 2018? Posts by Carolanne Mangles

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