グーグルやフェイスブックが、旅行関連プロダクトを続々と開発している。至れり尽くせりのサービスが考案され、パートナーである航空会社にとっては、非常に便利だ。あまりにも行き届いているので、このままの状況が進めば、将来、航空会社は、自社のブランディングに自ら投資する必要すらなくなってしまいそうだ。
※著者マット・ウォーカー氏は、ライクウェア(Likewhere)社のチーフ・ストーリーテラー。この記事は、世界的な観光産業ニュースメディア「トヌーズ(tnooz)」に掲載された英文記事を、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集しました。
例えば「グーグル・トリップス(Google Trips)」や「グーグル・フライト(Google Flights)」。分かりやすく迅速に予約できるので、消費者はとても助かっている。
あるいは、「グーグル・アシスタント(Google Assistant)」。イライラすることが減り、買い物がスムーズになる。グーグルが昨年末に発表したバーチャル・リアリティ(VR)対応ヘッドセットは、未来の旅のインスピレーションに欠かせない標準装備になるかもしれない。これもありがたい。
一方、フェイスブックは、旅行業界向けにダイナミック広告を提供。航空会社のチャットボットの大半は、フェイスブックのメッセンジャー・プラットフォームを使用している。ちなみに、フェイスブックのグローバル・トラベル部門トップに就任したニキレシュ・ポンデ氏は、かつてオンライン予約業に従事していた経歴の持ち主だ。
いずれのプロダクトも、消費者が旅の予約をする際、非常に便利だ。消費者にリーチしたい企業側にとっても、便利で役に立つものばかり。
しかし、ちょっと待ってほしい。
さて、これらのサービスは、実はグーグルやフェイスブック自身にとっておおいに役立つものばかりなのではないか?
IAB(Interactive Advertising Bureau)の推計と、ピヴォタル(Pivotal)社のアナリスト、ブライアン・ウィザー氏の見解を紹介しよう。なんと、今年の米国市場のデジタル広告売上の増加分の99%はグーグルとフェイスブックが獲得したという。ウィザー氏は「もしグーグルとフェイスッブックが、このまま主なインターフェースであり続けるなら、消費者との関係構築も、関連データも、すべて同2社のものになる。これは重要なポイントだ」と指摘。「パートナー各社はいずれも同2社に対して、頭が上がらなくなるだろう」と予測する。
グーグルやフェイスブックがあれこれ用意してくれる環境から消費者が離れにくくなるにしたがい、航空会社が顧客と直接的な関係を築きにくくなっている。
たとえるなら、航空会社と顧客のやりとりは、まるで監視下にある牢獄を訪れるようなもので、コンクリートの部屋は、それらしく原色で飾られ、各社のブランドを打ち出してはいるが、軽く変装したザッカーバーグ氏が人々の出入りを見張っていることになる。
それから周知の通り、こちら側からは見えない大きなマジック・ミラーの裏に控えている人といえばジェフ・ベゾス氏! 今のところ『1984(注:監視社会をテーマにしたジョージ・オーウェル作品)』(編集注:個人所有のキンドルに登録された同作品が、アマゾンによって承諾なしに削除され大炎上した)の件を語る人はいないが、航空会社がいくら首を伸ばしても、フェイスブックやグーグルのフィルタリングなしに、顧客について把握することは難しい場合が多くなっている。
航空会社は、どう対応したらよいのだろうか?
航空会社にとってやっかいなことに、ブランド力を左右するのは、顧客と直接やりとりして生まれる「エンゲージメント」だ。実際にサービスを提供するのは、他の誰でもなく航空会社自身だ。
顧客のロイヤリティも、アンシラリー・サービス(航空券以外の付帯サービス)の売上も、航空会社のブランド力が影響するものなので、これは非常に重要な問題だ。グーグルやフェイスブックによる、便利ではあるけれど支配的な動きに対する最強の防御となり得るのは、航空会社のブランド力なのだろうか?
航空会社へのロイヤリティが本当の意味で高い顧客というのは、その企業のブランド価値をよく理解している人で、この客層は、マーケティングによって絞りこまれた「有望な見込み客」などとは比べものにならない。各段に利益貢献度が高い。これがシンプルな事実だ。だからこそ、航空会社は顧客と直接、信頼関係を結び、またやり取りの回数を重ねるほど、ますます付加価値が高まり、企業ブランドに対する信用が強固になるようなやり方を考える必要がある。
Eメールから始めよう
今さら時代遅れな感じで恐縮だが、デジタルの世界でいうなら、航空各社はなぜもっと電子メールでのマーケティング活動に力を入れないのだろう。メールであれば直接やり取りできるし、安心できるチャネルだ。何億人もの人が毎日活用している。
大抵の航空会社では、航空券を予約する際、利用客にメールアドレスを要求する。つまり各社とも、すでに膨大な顧客メールアドレスのデータベースを持っているはずだ。これを顧客とのエンゲージメントに活用すればよい。
最初のメールが登場してから、すでに40年が経つ。ところが、今でもマーケターの89%は、セールスリードに一番、効率的なチャネルはメールだという。さらに54%は、総合的に最も効果がある手法だと評価している。
ところが、だ。みなさんにお聞きしたい。航空会社から、最近、気の利いたメールを受け取ったのは、いつ、どの航空会社だったか? 何も思い出せないのではないか。
誰もがメールは役に立つと思っているが、問題はその中身だ。内容のキュレーション、あるいは提供するタイミングがいい加減では、結果が出ない。あるいはその両方が原因かもしれない。コンテンツがすばらしくても、タイミングが悪ければダメ。その逆でもいけない。もっともコンテンツが乏しいと、他がどんなにすばらしくても、成果は限られる。
また、メールの表現がいつも同じ「航空券がXXX円のセール!」だったら、いくら信頼度が高く、ダイレクトなデジタル・チャネルを活用しても、効果は限定される。単純な算数の問題だ。例えば一年に3回旅行する人なら、ほとんどの時期は、航空券を買う予定がそもそもない。それなら航空券のセール以外の話題を選んだほうがよさそうだ。
さあ動き出そう
グーグルやフェイスブックによる支配軸に、航空会社はどう対処するべきか。どんな手法を選ぶにしても、急がなくてはいけない。フェイスブックのツール、例えばチャットボットを最大限に活用し、顧客が抱くブランド・イメージを強化する手がある。あるいは、メールで相手のニーズをしっかり掴み、グーグル検索など不要な状況を作り出すなどのもよいだろう。色々なやり方がある。いずれの道を進むにしても、顧客と直接、信頼関係を築くという目標は、常に見失ってはいけない。
顧客と直接対話することをやめたら、どうなるか。グーグルやフェイスブックとのパートナーシップにおいて、航空会社はこの2社の方針に従う立場になっていくだろう。
――果たして、こうした関係をパートナーシップと呼べるのだろうか?
※編集部注:この記事は、世界的な観光産業ニュースメディア「トヌーズ(tnooz)」に掲載された英文記事を、同編集部から承諾を得て、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集しました。
※オリジナル記事:Are Google and Facebook helpful to airlines, or just helping themselves?