次世代の旅行業界に発展するための4つの提言、変革と新技術がもたらす新しい旅のカタチ【外電コラム】

旅行業界は今、これまでに経験のない、苦しい変革の真っただ中にある。テクノロジーによる変革だ。モビリティ・サービス、ビッグデータ、IoTを活用し、様々なサービスの自動化を実現することが目下の潮流。一方で、プロセス・マネジメントやクラウドをベースにしたアプリケーションにより、旅行業界の姿は、劇的に変わりつつある。

新しいライバル企業が出現し、その多くが顧客中心主義のデジタル・ビジネスモデルを打ち出すなか、既存の大手企業は、新しい流れに追いつくのに必死だ。

※執筆者:ティム・シャーウッド氏(Tim Sherwood/モビリティIoTソリューションズ担当副社長、タタ・コミュニケーションズ)。

誰もが認める通り、テクノロジーは旅行業界に大変革をもたらした。今や消費者は、アルゴリズムによってキュレーションされたウェブサイトやアプリを使いこなし、旅行に関する諸々の意志決定をしている。フライトのチェックインをオンラインで済ませ、電子化された必要書類を扱うのにもすっかり慣れた。

加えて、今度はIoTの普及により、旅行マーケットにさらなる大変革が起こるかもしれない。デジタル化によるビジネス変革に取り組む企業には、戦略的なアプローチが求められている。すなわち、何がビジネス・チャンスであり、それをどう利益へつなげるか、リスクから事業をどう守るのか、を理解する必要がある。

それでは、次世代に向けた発展の鍵となる4つのポイントについて、考えてみよう。

ポイント1、国境を超えた成長

もちろん旅行業というのは、グローバルなビジネスだ。これを支えるインフラも、グローバルでなくてはならない。デジタル化による変革を正しく理解し、成功させるためには、最高レベルのグローバルなインフラと情報ツールが必要になる。

特に重要になってくるのが、快適なコネクティビティ・サービスの利用環境を整えることだ。例えばIoTと航空会社について考えた場合、最大のメリットは、これまで見えなかった部分が明瞭になることだ。

とはいえ、航空会社がこの恩恵を最大化するためには、確実に信頼できるネットワーク・インフラが必要。これを基盤にして、あらゆる領域をカバーしたIoTセンサーやデバイスを形成することで、航空機から旅客の荷物タグまで、関係するものをすべて、つなげることが可能になる。

また、旅行関連ビジネスで地理的に新しいエリアの開拓を狙うなら、新しいテクノロジーや競争力ある新サービス、的確なビジネスモデルにフォーカスし、収益の継続的な拡大を目指すべきだ。ここでもやはり、国内に限らず、海外市場にも対応できるコネクティビティ・サービスの存在が大前提となる。

だが実現するには、何百社ものモバイル通信サービス・プロバダーとの交渉が必要かもしれない。IoTサービスへのアクセスに必要な体制は、国ごとに異なるからだ。

ほとんどの企業にとって、あまりに非現実的な話だ。そこで、より現実的な選択肢となるのが、各地でのアクセス交渉や、エンド・トゥ・エンドのモバイルやクラウド接続サービス、データ管理サービスを肩代わりしてくれるプロバイダー一社と契約を結ぶことだ。これなら頭を抱え込むことなく、国境を越えたコネクティビティが実現できる。

ポイント2、生産性・効率性向上とストレスのない旅

デジタル時代を迎えているにも関わらず、フライト・クルーの多くが、相変わらず、乗客名簿や日々の業務に関する書類を持ち歩いているのは驚きだ。非効率的だし、人間であるがゆえのミス発生は避けられない。

例えば簡単なタブレットを航空会社や空港の中枢ITシステムに接続するだけで、紙の書類であふれそうなバインダーは不要になるし、最新の規約や手続き、アラート情報をクルーに提供することもできる。旅客にとって快適な空の旅の実現にもつながる。

しかし、これは始まりの一歩に過ぎない。旅行会社では、すでにビッグデータを使い、旅行者のあらゆる嗜好、社会的な行動傾向、購買パターンなどのデータを分析し、超がつくレベルまでパーソナライズした対応の実現に取り組んでいる。

ホテルであれば、IoTを使った“スマート”ルームが提供可能だ。宿泊客は、自分の好みに合わせて室温や照明を調節したり、客室エンターテイメントを選んだりできる。しかも、こうした操作をチェクイン前に済ませられる。

日々の業務にテクノロジーを取り入れている旅行会社では、顧客にとって旅行のエクスペリエンスが、よりシンプルかつ充実したものになり、本当の意味でパーソナライズされた提案が可能になっている。

ビジネスや収益の拡大にも有効だ。ある中規模ホスピタリティ企業の最近の事例では、ビッグデータの活用により、リピーター客が50%増、直接予約が15%増となった。従業員、パートナー、顧客をつなぐシームレスかつマルチ・プラットフォーム対応の体制を構築する企業は、世界各地で増えており、その成果も出ている。

航空会社にとって、大きなコスト負担となっているのが、フライトの遅延や突発的に発生するメンテナンス業務だ。滑走路上で機体に急なメンテナンス対応が必要となった場合、2時間の作業でコストは推定15万ドル。収益を大きく圧迫する上、遅延は乗客の満足度にもマイナス影響を及ぼす。

であれば、テクノロジーを活用してメンテナンス業務の発生を予測、対応を強化し、故障やテクニカル・ディレイを未然に防ぐことは理にかなっている。

ポイント3、世界レベルの顧客体験

IoTは、旅行会社が顧客にシームレスなサービスを提供するのに役立つだけではない。サプライチェーンにおける全てのパートナーにも影響を及ぼす。

様々なパーツで構成されるパッケージツアー商品を例に考えてみよう。航空会社、地上での交通手段、ホテル、保険会社など、いくつもの業種が関わり、最終的には、顧客へひとつの体験を届けている。ここにIoTを活用すれば、人間の手が介在する業務が減り、今までよりずっと効率的に、同じ体験を提供できる。

あるいは、混雑する空港で、旅客のバゲージ取扱いを担当するチームを想像してほしい。もし彼らが、リアルタイムで荷物の紛失などの情報にアクセスできるようになれば、より効率良く業務をこなすことができるし、デリバリーチェーンの透明性を確保することもできる。重要なパートナーの支援につながる上、顧客から好反応を引き出し、ロイヤリティを高める効果も期待できる。

サプライチェーンの統合を成功させるために、企業側に必要なのは、流通チャネルやプラットフォームが違っても、常に同じ使い勝手を提供できること、情報のサイロ化、つまり孤立化が起きない通信システム、需要の変動に応じてソリューションを調整できる対応力。そして、これらすべての実現に欠かせないのが、新しいサービスや機能を支えるITインフラへの投資だ。

ポイント4、リスクの回避

デジタル分野に投資すれば、悪意あるハッキングやサイバー犯罪にさらされるリスクがどうしても高くなるので、セキュリティの潜在的な弱点への対応は、きわめて重大だ。デジタル化によるビジネス変革プログラムが、自社の業務やサプライチェーンのパートナーにセキュリティ被害を与える結果にならないよう、万全の体制が必要になる。

リスクを最小限に抑えるためには、データやアプリケーションを外部の脅威から守るだけでは不十分。万一の場合も、サービスが継続できて、混乱はほぼゼロに近いレベルにとどめ、顧客の旅行への影響が出ないよう、徹底することが不可欠なのだ。

リスクが高すぎると感じるだろうか?

しかし、デジタル化によるビジネス変革を諦めた結果、時代から取り残されてしまうリスクの方が大きい。デバイスやクラウドのコネクティビティについては、安全でプライバシーが確保されたネットワーク経由でIoTデータにアクセスする必要があるし、企業の資産や規約の効率的な管理も重要だ。

盤石なセキュリティサービスがあれば、さまざまなサイバー上の脅威から、ビジネスを守ることができる。モバイル接続環境の安全性を徹底するには、データセキュリティ階層構造を来よりもさらに深くする必要がある。これが旅行者を守り、自社のイメージを守るためにも有効な手段となる。

未知の世界に向かって踏みだそう

新しいマーケットへの参入や、国境を越えてさらにその先を目指すなら、グローバルな視界を確保する必要がある。世界中にコネクトできるグローバルなネットワーク・インフラが、デジタル変革プログラムには必須の統合基盤になる。

適切なツールを装備し、テクノロジー分野を支えてくれるパートナーも得たならば、ビジネスを拡大し、グローバル市場におけるシェアを獲得するチャンスは非常に大きい。

同時に発生するビジネス・リスクへの対処を怠らなければ、目覚ましい成果が期待できる。グローバル規模でのデジタル戦略においてIoTを採用することが、生産性を最適化し、効率性を最大化し、カスタマーエクスペリエンスの充実につながる。

さぁ、価値ある未来へ、歩き出そう!

※編集部注:この記事は、世界的な観光産業ニュースメディア「トヌーズ(tnooz)」に掲載された英文記事を、同編集部から承諾を得て、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集しました。

※オリジナル記事:A journey to somewhere new: how the Internet of Things is transforming travel

※執筆者:ティム・シャーウッド(Tim Sherwood、モビリティIoTソリューションズ担当副社長、タタ・コミュニケーションズ)

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