民泊エアビーの「体験」サービスで真の競合相手は誰なのか? その本質と次の一手を考えた【外電コラム】

Asawin klabma (c) stock.foto

業界中から注目を浴び続けるなかで、イノベーションを起こすのは至難の業だ。その上、何百社ものパートナーに対し、新しい事業の方向性を知ってもらいたいというなら、なおさら困難が伴う。

新しい取り組みをオープンにしつつ、真似しようとするライバルたちに負けないようにとひたすら願う。あるいは、将来的に必要な相手(例えばサプライヤーやディストリビューター)に近づき、関係を構築しつつ、究極の狙いについては伏せておくという手法もある。

エアビーアンドビー(Airbnb)にとっては、いわゆるアクティビティなどの「Airbnbエクスペリエンス」事業がこの状況にある。同社が新しい宿泊の選択肢、という新事業をうまく軌道にのせられた背景には、既存のホテル業界から全く注目されない存在だったこと、そしてしばらくの間、誰も対応策を講じなかったことがある。だが状況は一変し、今ではAirbnbエクスペリエンスが大きく注目されるようになった。スタートアップは、創業当初の1~3年の間、誰にも邪魔されない静かな環境の中で、イノベーションにじっくり取り組む余裕があるものだが、今回はそうはいかない。

そこでエクスペリエンス事業については、ある程度のスケールを確保できるまで、競合他社にはプランの全体像が分からないように注意深く振舞う、というのが私の仮説だ。今回はその内容を公開するが、あくまでも仮説に過ぎないことをご承知の上で読んでいただきたい。

エアビー「エクスペリエンス」の位置づけは?

一見すると、Airbnbエクスペリエンス事業の方向性は、エクスペディア、トリップアドバイザー/ビアター、ゲットユアガイド(GetYourGuide)、クルック(Klook)など、他のオンライン旅行各社のリテール・マーケットプレイス戦略と似ている。

しかし私は、どちらかといえば、フランチャイズのサプライヤー事業との共通点が多いと感じる。例えば、世界各地で市内観光ツアーを扱うグローバルな旅行会社のようだ。Airbnbエクスペリエンスの場合、各デスティネーションのホストたちが、(Airbnbという)世界的に有名なブランド名を活用して様々な体験を提供する、という訳だ。

もしそうであれば、今は想像もできない企業が、Airbnbのライバルになる時代が来るかもしれない。一方で、今はAirbnbを大きな脅威と感じている企業が、将来的にはむしろ同社の良きパートナーとして活躍する可能性もある。

サプライヤー側の差別化

「Airbnbエクスペリエンス」で体験やツアーを提供するサプライヤーには、3つの大きな特徴がある。中でも最も大きなカギを握るのが、「エクスクルーシブな(独占的な、他にはない特別な)体験を提供するサービスモデル」である点。これは、同社が長期的に目指している野心的な方向性を知る上でのヒントだ。

※編集部注:「体験サービス」の日本語ガイドラインでは、エクスクルーシブであることを示す表現として、例えば「『体験』は、ガイドブックやインターネット検索では決して得られないものをゲストに提供するものでなければなりません」などの記載がある。

(1)エクスクルーシブ・サプライ -ここでしか手に入らないもの

Airbnb利用客が体験ツアーなどに参加する際、他のAirbnb利用客と一緒になることはあっても、Airbnb以外のオンライン旅行サイト経由でやってきた参加者と一緒になることはない。例えば、Airbnbで販売されていたツアーと同じ日、同じガイド、同じツアーの組み合わせの内容をOTAで予約することは不可能だ。つまり、サプライヤー側は、Airbnb経由で予約が入り次第、他の流通チャネルでの販売をストップする。逆に、Airbnb以外の販売ルートから予約が入れば、すぐにAirbnbでの販売はストップする仕組みになっている。

(2)ホスト vs ガイド

分かりにくいが、ホストとガイドには明らかな違いがある。ホストが「今」のストーリーを語るのに対し、ツアーガイドは「過去」のストーリーを語る。Airbnbではホストを重視するが、他の販売サイトが扱うツアーは、ガイドが案内するものが主流。既存の旅行サプライヤーが提供する商品には、後者が多いからだ。

(3)催行保証 -予約へのコミットメント

Airbnbは、少人数での予約対応にフォーカスしている。いったん予約を受けたら、ホスト側は必ず催行しなくてはならない(たとえ赤字でも)。ホストにとっては辛い部分だが、「エクスクルーシブ・サプライ」であることを謳っているので、他社から同じツアーへの予約を取ることも不可だ。

「エクスクルーシブ・サプライ」というモデルは、Airbnbが取り組む旅行イノベーションにおいて、重要な基準となっている。Airbnbだけでしか体験できないユニークな内容です、と言われると、他社の商品や例えばCtripが導入したパーソナライゼーションサービスなどと比較しても、ずっと魅力的に思える。

※Airbnbエクスペリエンスが目指すクオリティー基準と同社がサプライヤーに求める条件についての詳細は以下のページから参照可能できる。

個人から個人へ、P2Pモデルの3事例

これまでに登場したP2P(person to person=個人から個人へ)事例には、以下の3タイプがある。

(1)個人が単発での特別体験を提供するケース

最もよく見かけるP2Pモデルで、P2Pマーケットプレイスの多くが採用している。参加者が少なくても成立する反面、定番の人気コースには向いていない。似たようなツアーが30本も並ぶ結果となり、一定規模の収容力が必要。ガイドによる違いも出しにくい。

(2)マーケットプレイスが企画するツアー

内容はあらかじめ決められており、ツアーガイド側は、自分が対応できる内容のものに登録する。参加者の数の増減に対応しやすい。都市部であれば、リストに掲載する体験ツアーは50種類ほどでも、ガイドやホストを百人単位で確保できる。同じ内容を、複数のガイドやホストが提供するため、オペレーション体制も安定している。実施例は、Withlocalsなど。

(3)Airbnb型モデル

(1)に似ているが、確実な催行とエクスクルーシブであることを保証しているため、参加者数が一定以下だった場合は赤字になるリスクあり。

Airbnb型モデルに対するホストからのフィードバックを読むと、参加者数が少なかった場合の問題点が分かる。以下は、ウォール・ストリート・ジャーナル紙2018年2月 からの引用だ。

Airbnbはエクスペリエンス事業をスタート後、最初の数か月間は、一部のホストに対して予約が「満席」だった場合と同等の報酬を保証した。マイアミの音楽スタジオでレコーディング体験をホストしているアンソニー・ローレンツィオとクッチ・アマドの場合、その額は一か月当たり2500ドルだった。二人の他にバンド仲間も加わり、Airbnbエクスペリエンスに登録した。しかし現在、一か月の利用客は1~2人ほどで、利益を出すのは厳しい。ホスト側には、予約数が少なくても催行することが求められているからだ。

興味深いのは、Airbnbが、スケールメリットがないと厳しいと分かっているやり方(少なくともサプライヤー側にとって)を選び、挑戦している点だ。参加者が少なくても利益が出しやすいツアーから着手していく、という選択肢もあっただろう。もちろん理由があるはずだ。

では、次の一手は何なのか?

業界関係者の間では、やがてAirbnbもエクスクルーシブ・サプライという方針をあきらめ、 既存のツアー会社の商品を扱うようになるとの予想が多勢を占める。同社では、ホテルの取り扱いも始めており、これと同じ道を辿るだろうという見方だ。その結果、オンライン旅行会社と同じような存在になっていくという。

しかし、私の考えは違う。Airbnbにはもっと明確な将来への戦略があり、その根幹に関わる部分であるからこそ、あえて小規模では利益が出にくい分野に進出したのではないだろうか。また、同社は「差別化」を極めて重視する企業なので、他のOTAと同じ道を歩むというのも考えにくい。

むしろ逆で、エクスクルーシブ・サプライに倍賭けし、このモデルを限界まで推し進めていくのではないかと私は予想している。最終的には、グローバルなサプライヤーのフランチャイズ事業に近い形を目指しているのではないか。例えば以下のような内容はどうだろう?

  • ユニフォーム: エクスペリエスのホストは、Airbnbのユニフォームを着て接客。オンリーワンの体験を提供しているブランドのアピールにもなる。

  • 旅行の価値のアップグレード: Airbnbの体験ツアーに参加している人=Airbnb利用客。この状況を活かし、より思い出深い体験を楽しんでもらうと同時に、Airbnbなら思い出に残る旅行ができるという認識を深めてもらうことができる。

  • OTA各社での流通: Airbnbエクスペリエンスが、OTA各社の取り扱い商品になる。エクスペリエンスの各種体験は、Airbnbのみで提供している(ツアー内容、日程、時間など含めて)との原則通りであれば、エクスペディアやトリップアドバイザー/ビアターなど、流通各社が販売することも可能だろう。他社商品と競合するなどの問題も発生しない。

  • Airbnbが既存のツアー商品を扱う: 旅行業界で流通しているツアーの大部分は(今のところAirbnbには掲載がない)、車を利用するもの(例:アトラクション施設への交通手段、市内観光など)が多いため、エクスクルーシブ・サプライ方式では提供しにくい。だが急ぐ必要はない。あと数年も待てば、自動運転車両での市内観光が可能になり、これにAirbnbブランドを冠することができる。

もしかしたら、こうした私の予想はまったく逆で、むしろAirbnbはエクスクルーシブ・サプライ方式から方向転換し、主要OTA各社と見分けがつかなくなっていくのかもしれない。――あなたはどう思いますか?

※編集部注:この記事は、英デジタル観光・旅行分野のニュースメディア「DestinationCTO」に掲載された英文記事を、同編集部から許諾を得て、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集しました。

※オリジナル記事: Airbnb Experiences – a threat to franchised suppliers, not retailers


著者:アレックス・ベインブリッジ(DestinationCTO 創設者)

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