観光立国へ向けひた走る日本。その旅行市場の可能性について、世界を知るエクスペディアはどう見ているのか。また市場活性化を下支えするBtoB戦略で、7年にわたりパートナーシップを組んできたエフネスとともに目指す未来とは? 両社トップが対談し、旅行市場の成長と旅行業界発展にかける期待と思いを語った。
右上写真:エクスペディアホールディングス代表取締役マイケル・ダイクス氏(左)、エフネス代表取締役社長・岡田直樹氏
ポスト五輪も日本市場に悲観なし
岡田直樹氏 日本は国を挙げて観光立国を進めており、とくに東京オリンピック&パラリンピックのある2020年には訪日旅行者4000万人の目標を掲げて様々な取り組みを行っているところです。日本の旅行市場は今後どのように変化していくと考えますか。
マイケル・ダイクス氏 2020年の五輪開催後の反動がやや気になるので、手放しで楽観はしませんが、まったく悲観はしていません。日本市場の成長性にはさまざまな肯定的な要素があります。
日本を取り巻くアジア地域では人口増加で若者が増え、生活水準も上昇しミドルクラスが拡大しています。日本を旅行する夢を実現できる時代となりました。訪日旅行はすでに中国本土で人気が高く、次いでタイでも訪日旅行ブームが起きています。その後にはインドネシアが続き、その先にはインドからも波が押し寄せるでしょう。訪日旅行市場が長期にわたって成長が期待できる理由です。
一方で日本国内の宿泊供給力は全体として頭打ちです。したがって宿泊需要が集中する東京、大阪、京都などゴールデンルートとは異なる地域への分散化を進める必要があり、リピーターの重要性が増しています。リピーターが増え日本への理解が進めば、「次は旅館にも泊まってみたい」「地方にも足を延ばしたい」といった需要も増えるはずだし、そうしたニーズに応える宿泊を全国的に確保していければ、4000万人の次の目標である6000万人も達成可能でしょう。われわれにとっても日本における宿泊施設の新規開拓は今後のビジネスを左右する重要なポイントになると考えています。
岡田氏 私はポスト2020年の方がむしろ楽しみです。東京オリンピック&パラリンピックは日本の魅力を知ってもらうまたとないチャンス。五輪開催を機に、日本を初めて訪れたり日本に関心を持ったりする外国人がかなり増えると考えられます。上手くアプローチができれば、大きな成果を見込めるはずです。
エフネスは国際航空券、ホテル、ファイナンス、メディア事業、LGBT関連事業など幅広い分野で事業を展開していますが、主にBtoBに特化しています。したがって、これまではアウトバウンド・ビジネスに関連する日本国内の取引先が中心でしたが、インバウンドの拡大に伴い海外の取引先が増えており、そんなところからも訪日旅行市場の成長を実感しています。
業務提携7年間で育んだ両社の信頼関係
岡田氏 エフネスにとってエクスペディアはホテル流通のベストパートナーです。エクスペディア・グループでアフィリエイトによるホテル客室販売事業を担っているエクスペディア・アフィリエイト・ネットワーク(EAN)と、エフネスの子会社で国内外のランドオペレーティングを行うリキシャが2011年に業務提携し、旅行会社専用のホテル予約サイト「Rikisha Easy REZ」を開設。世界3万都市・13万軒(当時。現在は45万軒)のホテルのほぼすべてを、旅行会社に提供する体制を整えました。APIを使ってホテルの在庫供給を受け、リキシャ独自のシステム経由で旅行会社に販売する形です。
「Rikisha Easy REZ」は今年で8年目に入り、ホテル流通以外の事業も含めて、両社グループ間の取引額は年々増えております。信頼のおけるパートナーとして、信頼関係を築いて来ることができたのではないかと思っています。
ダイクス氏 エクスペディアにとってもエフネスは極めて重要なBtoBパートナーであり、アジア全体を見渡しても大変重要なパートナーといえます。とくに日本市場では海外旅行、訪日旅行、国内旅行のいずれに関してもBtoBでお互いに支え合っています。
旅行業界を外から見ると、競合と協業が同居しコンペティションしながらつながっていて、少し不思議な業界ですが、そこでわれわれと旅行業界のBtoBをうまく取り持ってくれるエフネスのような存在が重要になるのは当然です。
エクスペディア・グループはかつて「旅行革命」をミッションとして掲げていましたが、リブランディングを経て現在は「旅行業全体を支えるプラットフォーム」を理念としています。オンライン旅行会社(OTA)からオンライン旅行プラットフォーム(OTP)に立ち位置を変え、業界全体を支える存在を目指しているわけです。その意味でもBtoBは重要さを増しています。
岡田氏 BtoBに専門特化して旅行業界にかかわってきた者としては、いまのOTPの考え方には大いに共鳴します。われわれは常々「旅行業界で働く方々のお役にたちたい」と考えてきました。今後、世界に通用する旅行業界のBPOカンパニーを目指すにあたり、その時々に必要となる最適なソリューションを先行して用意し、提供する。それができれば理想的です。
ダイクス氏 旅行ビジネスは最終的にはBtoCとなりますが、エクスペディア単独ではすべての消費者にリーチすることはできません。旅行全体に占めるオンライン販売が30%あるとして、エクスペディアがそのうちの20~30%のシェアを得たとしても、リーチできていない市場の方がはるかに大きいわけです。エクスペディアは今後も旅行会社との協力関係を深化させ、BtoBにも力を入れていこうと考えています。
旅行業界、宿泊業界の現状に危機感も
岡田氏 日本の旅行市場が成長を続ける一方で、旅行業界や宿泊業界の在り方が問われてもいます。
ダイクス氏 先ほども説明したように日本の旅行市場には大いに期待していますし、すでに期待に足る実績も上げています。グローバルな視点から見て日本ほど成熟市場が大きな規模で存在し、なおかつこれだけ伸びている国は他にありません。実際のところ、エクスペディアにとって世界で最も伸びている市場が日本です。厳密にいうとヨーロッパのある小国が伸び率1位ですが規模がまったく違う。実質的には日本が成長率ナンバーワンでしょう。しかも2020年に訪日旅行者4000万人を実現できれば、世界の旅行先のトップ10に入り、フランス、アメリカ、スペイン、中国などと共に観光先進国となります。
一方で、日本の旅行業界はガラパゴス化の危機に直面することになるでしょう。一つ例を挙げれば、宿泊施設の在庫提供は365日分が世界の常識です。つまり旅行者は1年前から予約ができる。ところが日本はよくて半年前からしか予約ができません。それより先の在庫が供給されないからです。するとどうなるか。日本へ行きたいと思い立った旅行者が1年前に宿泊予約を試みても、在庫切れの表示を見て諦め、ほかの国へ行ってしまう。それが現実です。
岡田氏 逆に、そういった日本の宿泊業界にあって1年前から在庫供給する宿泊施設があれば、需要を独り占めできる可能性もあるわけですね。もちろん、さまざまな事情、障害はあるのでしょうが。
宿泊業界だけでなく、旅行業界もグローバルな視点から見れば危機に瀕しているのかもしれません。現時点では「旅行会社」とは認識されていないITビッグ5のような企業が本腰を入れれば、人々の生活の隅々まで浸透しているサービス流通網や圧倒的な技術力を用いることによって、旅行領域においても強い存在感を発揮するのがいかに簡単か、想像に難くありません。将来的には従来型の旅行会社が半減してもおかしくないのではと考えています。
ダイクス氏 旅行会社や旅行業界に求められるものも変化しています。たとえば最近よく日本の自治体から観光振興に関するアドバイスを求められます。われわれは世界規模のOTPとして旅行者に関する膨大なデータを持っており、データに基づく客観的な分析ができるからです。こうしたデータ分析に基づく知見の提供は、純粋なビジネスとしてみればかなりの労力を要するので急な拡大は無理ですが、しっかりと結果を残しながら、観光誘致に積極的な自治体に協力していきたいと思います。
岡田氏 エクスペディアが「われわれは旅行会社ではなく、旅行が専門の技術の会社だ」と説明されていたことの意味がよくわかります。テクノロジーやデジタルマーケティングの強みを生かした、パワフルな企業が、旅行ビジネスの新たな扉を開くことになるはずですし、エクスペディアもその一つだと思います。そのようなパートナーと共に日本の旅行市場の成長を後押しし、また、エフネスグループとしても今後幾度となく訪れるであろう旅行ビジネスのあり方が変わる局面において、旅行会社の方々に選ばれるBtoBサービスを生み続けていきたいと考えています。
広告:エフネス(http://www.f-ness.com)
サービス:Rikisha Easy REZ問い合わせ先:info@f-ness.com
記事:トラベルボイス企画部、REGION