MaaS実装に向け、東京都など5自治体の進み具合を聞いてきた、手探り続く地域の実態、観光は利便性・分散化・交流人口拡大に期待

ブロードバンド推進協議会が事務局を務める「MaaSを日本に実装するための研究会」が第2回となる報告会を開催し、東京都、いわき市、鎌倉市、京都市、福岡市、豊田市の各自治体が、直面する課題や今後の実証実験の計画などについて説明した。経済産業省と国土交通省は今年4月からモビリティサービスの社会実装に挑戦する地域を支援するプロジェクト「スマートモビリティチャレンジ」を開始し、地域の課題解決に向けたMaaS (Mobility as a Service)の取り組みを本格化させた。ブロードバンド推進協議会としては、研究会に参加する産官学メンバーとアライアンスを構築し、それぞれのソリューションを組み合わせることで持続可能なMaaS実装を目指していく考えだ。

MaaS実装に向けては、「大都市型」「大都市近郊型」「地方都市型」「地方郊外・過疎型」「観光型」の5つに分類して進められている。地方自治体では、中山間地区における人口減少による公共交通の縮小、バス運転手不足、自動車分担率の高さなどの共通課題を抱え、また京都市、鎌倉市、福岡市ではインバウンド増加による混雑、二次交通の利便性、外国人への情報提供などの課題に直面している。

それぞれの自治体で、課題解決に向けてスマートモビリティの実証を展開しているが、単独交通での取り組みが多く、キャッシュレス化を含めて交通機関全体をネットワーク化するMaaSの実装には手探りが続いている状況。ある自治体は、「行政主導でどこまで民間事業者間の調整が可能なのか、まだ分からない部分がある」と本音を漏らす。また、民間事業者のあいだでも「MaaSが実装されれば、MaaSオペレーターに運賃決定の主導権が移りかねない」との懸念も聞こえるという。

各自治体で単独実証実験、ネットワーク化には遠く

そうしたなか、2019年度から各自治体ともMaaSの社会実装に向けた実証実験を本格化させる。

東京都は、「Society 5.0」に向けた取り組みとして、まずモビリティから着手。2019年12月からは複数の交通サービスにおける検索・予約・決済をスマートフォンアプリに一元化する実証を行う計画だ。その後、2020年度には交通サービスと周辺サービスを組み合わせ、データ連携などを広域に実施。2021年度には、他業種や周辺都市とのリアルタイムデータの共有や自動運転との完全接続などを目指す。

これにより、住民だけでなくインバウンドを含めた観光客の利便性を高めるとともに多摩・島嶼では二次交通の改善につなげていく。実装に向けては広域に多くの関係機関を取り込むことが必要なことから、官民のさまざまなデータソースを集約する東京版「官民連携データプラットフォーム」の構築にも力を入れていく。

慢性的な渋滞に加えてインバウンドの増加によって混雑度合いが増している鎌倉市は、従来から検討されていた「官民鎌倉ロードプライシング(仮称)」の導入を引き続き検討。市内に入る自動車に課金することで、渋滞緩和、環境保全、安心安全な市民生活、公共交通機関への誘導を期待しているところだ。また、長期的な視点では、深沢地域にあるJR大船工場跡地に新駅設置の構想があることから、ここを基点として自動運転など最先端モビリティを組み込んだMaaSの実装を行い、鎌倉駅からの分散化の取り組みを検討する

福岡市は、3つのMaaS関連の実証を実施中。2018年11月からはトヨタ自動車と西日本鉄道が市内の鉄道・バスの経路検索のほか、シェアサイクルの駐車場の空き状況の確認、タクシー手配・決済を可能にする「マルチモーダルモビリティサービス」を開始。2019年4月からは西日本鉄道と三菱商事によるAI活用型オンディマンドバス(のるーと)を始めた。また、都市部への自動車流入抑制と来訪者の回遊性向上を目指して、メルカリと共同でシェアサイクル「メルチャリ」を来年3月末まで実施する。さらに、インバウンド向けには、公共交通1日フリー乗車券の電子化を進めていき、将来のMaaS対応の可能性を探る。

ラグビーワールドカップの開催都市となる豊田市は、インバウンドを含めて来訪者が増えると予想されることから、今年9月から10月の土日祝日限定で、市内バス業者とジョルダンとの協業によるモバイルチケット「ENJOYとよたパス」を実証販売する。経産省の「スマートモビリティチャレンジ」支援対象地域に選定されことから、将来的には基幹バスを基軸とし、地域拠点ではデマンドシステムー導入した地域バスで人、モノ、地域サービスの移動をサポート、ラストワンマイルは自動運転技術も視野に入れた集約した多機能型モビリティサービスを目指す。

観光客の混雑平準化が課題の京都市は、公共交通機関の連携を強化することで、分散化の取り組みを実施。「地下鉄・バス共通券」で観光客のバスから地下鉄への分散を図るともに、観光客の利便性や満足度向上のために市バスと京都バスの車内モニターの案内表示を統一している。さらに、無料検索アプリ「バス・鉄道の達人」を多言語で提供することで、インバウンドのスムーズな流動のサポートを継続していく。

いわき市は、今年3月からタイムズ24、JR東日本、スパリゾート・ハワイアンズを運営する常磐興産と「カーシェアリング官民共創実証事業」を開始。シェアリングエコノミーの普及と促進で、交流人口の拡大と地域活性化を目指す。また、今年度からは環境省の「IoT技術等を活用したグリーンスローモビリティの効果的導入実証事業」として、ソフトバンクと組み、ICTクラウドシステムを活用したeCOM車両を市内3地域で実証運行する。

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