ホテル比較「メタサーチ」の成長はどこまで続くか? 広告投資額の推移を分析してみた【外電】

トリバゴやトリップアドバイザーの広告を目にするようになり、ホテル料金を簡単に比較できるようになったのは2013年ころのこと。だが当時、こうした手法が数年後、ここまでの大成功を収めると予想していた人はいないだろう。

なかでも驚いたのは、グーグルまでもがこの分野に飛びつき、サービスをスタートしたことだ。現在では、旅行者の4分の3がメタサーチで情報を検索していると考えられている。

ひと昔前まで、オンラインマーケティング予算の大部分は、グーグルまたはアドワーズ(現グーグル・アド)に流れ込んでいた。ホテル各社は、検索しているユーザーに自社ホテルをアピールしようと、主にブランド名を全面に出した広告を展開していた。

当時、メタサーチエンジンはまだ登場したばかりで、広告マーケティングにおける市場シェアも小さかった。

それから6年が経過した今、勢力図はすっかり変わっている。メタサーチエンジンは2017年以降、広告投資額では最大を占めるようになり、その後も年々勢いを増している。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

データをみてみよう

下の図は、当社ミライが手掛けたマーケティング投資額を対象に、2014年から現在までのタイプ別内訳(広告またはメタサーチエンジン)の推移をまとめたものだ。

より詳細が分かるように、広告のタイプ別(グーグルとBing)およびメタサーチエンジン別(トリバゴ、トリップアドバイザー、グーグル・ホテル・アド、カヤック、スカイスキャナー)の金額内訳も作成した。

なお、対象としたのはホテルブランド名で展開された広告およびメタサーチエンジンへの投資分であり、包括的なキャンペーンは除外している。

オンライン広告とメタサーチに対する年間投資額

圧倒的多数を占めるメタサーチエンジンの勢いはさらに拡大

グラフからお分かりいただけるように、昔ながらの広告からメタサーチエンジンへの移行が進んでいる、というだけの話ではない。大きな流れとしてはその通りだが、すべてのホテルで同じことが起きているわけではない。

オンラインマーケティング投資におけるシェアが大きく変わっている背景には、メタサーチエンジンの成長が、きわめて急速に進んでいることがある。オンライン広告も同様に拡大しているのが、その勢いはメタサーチに比べると緩やかだ。

オンライン広告に対するメタサーチの投資割合の推移

成長の勢いの差がシェアの変化を生み出すことになり、今やメタサーチエンジンへの投資額は、従来型の広告への投資額を大きく上回っている。

シェアの推移

メタサーチエンジンのトップに君臨するグーグル・ホテル・アド

メタサーチエンジン間のシェア争奪戦において、この分野に最後に参入した後発企業が最大シェアを獲得しているという点が、なかなか興味深い。2019年におけるメタサーチへの投資額では、なんと全体の67%を獲得している。

もちろんグーグルの話だ。

メタサーチの種類別シェア

国や地域によってユーザーの嗜好は異なるので、マーケットごとによく利用されているメタサーチエンジンには違いがある。

しかしデータをすべて集計すると、明白なトレンドが浮かび上がる。グーグル・ホテル・アドが最も力強い成長を示している。これは偶然ではなく、以下のような理由が考えられる。

  • グーグルは課題をしっかりこなし、継続的なプロダクトの改善を怠らない。
  • そもそも何十億人ものユーザーがグーグルを使って検索している。だから、ここに価格比較ツールを表示すればエンドユーザーの目にとまる。検索結果の中にさりげなくホテル・アドを並べておくと、ユーザーは自分でも特に意識することないまま、いつの間にかホテル・アドを使い始めている。他のメタサーチエンジンの場合、そう簡単にはいかない。
  • ホテル側の都合に100%配慮したビジネスモデルを採用したのは、グーグルのホテル・アド・コミッション・プログラム(GHACP)だけで、これが画期的だった(正確には、トリップアドバイザーのインスタントブッキングが最初だが、同社はその後、この方式をやめてしまった)。同プログラムでは、コミッション対象となるのは、キャンセル分を差し引いたネット予約額のみ、請求は宿泊客がチェックアウトし、支払いを済ませた後。少なくとも当社の顧客ホテルの間では、こうしたコミッション方式が大好評だった。オンラインマーケティング予算というものは、ホテル側にとって昔は不要だったもので、予算配分は常に厳しい。しかしこうしたコミッション支払い方法であれば、限界知らずとなる。
  • 予約アシスタント「ブック・オン・グーグル」の活用も増えている。客室予約モジュール(Room Booking Module)などの新しい機能が登場し、検索結果にホテル客室の画像も表示されるようになった。グーグルアシスタントの音声機能を活用した予約サービスも期待されている。

グーグル以外のメタサーチエンジン各社も、プロダクトの改良にかなりの投資をおこなっている。「巨人」トリップアドバイザーですら、ここ数年は投資金額を増やしている。

それでもシェアが低下している理由は、グーグル・ホテル・アドの成長が他社をしのぐ勢いだからだ。2018年までは順調に業績を伸ばしていたトリバゴも、2019年にはビジター数に陰りが出ている。

とはいえ同社の利用者層は質が高く、収益率も大きくなっている。そのほか、カヤックやスカイスキャナーなどのメタサーチエンジン各社でもビジネスは順調に拡大しているが、トップ3社に比べると、その差はまだかなりある。

投資額ナンバーワンはやはりグーグル

広告からメタサーチエンジンへ、投資先がシフトしているのに対し、登場する企業名には、ほとんど変化が見られない。

2014年、グーグル・アドワーズへの投資が、オンラインマーケティングへの投資全体の80%を占めていた。

だが2016年になると、この数字は67%に縮小。ホテルの間で、トリバゴとトリップアドバイザーの人気が高くなる。

そして2019年、グーグルはシェアを奪回し、75%を獲得しているが、この数字はグーグル・アド(32%)とグーグル・ホテル・アド(43%)を足した合計値だ。

そこでグーグルでは両方のコンセプトとブランドを最終的にはまとめる方向に動き出しており、最近、プロダクト名称を「グーグル・アド」に統一したところだ。

グーグルとグーグル以外の企業に対する投資割合

結論

成長著しいオンラインマーケティングだが、この分野には、2つの側面がある。まず、これから新しい業種として確立していく途上にあり、やがてはOTAの独壇場だったビジネス領域も脅かすことになる。

もう一つは、クライアントであるホテルの間に不安が広がっていることだ。これまでの成長ペースを、今後も長く維持しようというのは非現実的だ。

戦略の転換が必要になっている。仲介業者を抑え込むために、マーケティング費をどんどん増やすという手法は、そろそろ潮時なのかもしれない。

方向転換することで、広告枠への入札価格は下落し、ホテルが負担する投資予算も圧縮できる。ただし、このありがたいシナリオは短期間では実現できないうえ、恩恵を受けるのは巨大ホテルチェーンだけになる。

パフォーマンスが良好である限り、あと数年間はオンラインマーケティング費の拡大が続きそうだ。

こうした投資がどこに向かうのかは、数字を見れば明らかであり、メタサーチエンジン各社のさらなる成長は間違いない。この大変革をリードし、先頭を進むのはグーグル・ホテル・アドだが、その他の各社の勢いも止まらない。

メタサーチエンジンは、ホテルがOTAと競争するのに絶好の場であり、直販ルートの強化にも大いに役立つ。

データを見ると、ホテル側もこうしたチャンスを活かそうと力を入れていることが分かる。そしてリターン額の数字から、取り組みが成果をあげていることは間違いない。

どのチャネルに投資するべきか、ホテルにとっては大きな悩みだが、メタサーチエンジン各社の市場シェアをぜひ参照してほしい。ただし、あらゆる可能性に備え、バランスの良い投資を行うことは常に重要だ。大切な卵を全部、一つの企業のバスケットに入れてしまうことは避け、万一の際のリスクにも備えよう。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:How metasearch became the most important marketing channel in travel


著者:パブロ・デルガード氏(Pablo Delgado)ミライCEO

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