さまざまな交通手段のシームレスな移動を含む、ITを駆使した新たな移動性サービスの概念「MaaS」。このほど開始された東京臨海副都心(お台場エリア)での実証実験を取材した。東京の人気観光地であり、大規模な居住地域と隣接する同エリアでの実証実験は、多くの人々にMaaS実装社会の到来を意識させる体験になりそうだ。
取材したのは、ナビタイムジャパンとドコモ・バイクシェア、Japan Taxi、東京臨海高速鉄道、KDDI、東京臨海副都心まちづくり協議会の6者による「MaaS実証実験アプリ『モビリティパス』」。東京都の「MaaS社会実装モデル構築に向けた実証実験プロジェクト」で採択された企画で、単なる交通連携に留まらず、地域のニーズや課題への対応を盛り込んだのが特徴だ。
ナビタイムジャパンMaaS事業部事業部長の森雄大氏は、今回注目したお台場エリアの課題として「エリア内には素晴らしい場所が多くあるが、それぞれが必ずしも線で繋がれていない」と話し、この実証実験が「回遊性を向上させるのが一番の目的」と説明。そのため、実証実験では、「点と点(各スポット)を繋ぐこと」「行き先や経路を探して乗車するまでのスムーズ性」の2つに注力した。
具体的には、実証実験に参画する東京臨海高速鉄道「りんかい線」とドコモ・バイクシェアのシェアサイクルに加え、Japan Taxiの手配で期間限定の無料の予約制シャトル「東京臨海シャトル」を運行。同シャトルでは、お台場駅や日本科学未来館、ビッグサイトなどお台場エリアを大きくぐるりと回るルートと、晴海や勝どき、豊洲の高層マンションが多く建つ居住エリアから直接、お台場エリアの東京テレポートやテレコムセンターまで入れるルートの2ルートを運行し、既存の移動サービスにない形で隣接地域からの訪問促進とエリア回遊を意識した。
これにより、アプリ上で提供するエリアマップには、りんかい線による近郊地域からお台場中心地を結ぶ直通ルートと、同シャトルのルートの新たな路線図が誕生。森氏は「点と点を繋いで線にした。これを路線図として表現し、回遊して遊べることが分かる地図を作ったことが、一つのアウトプットだと思う」と、その意義を強調した。
さらに、同エリア内に300平方メートル四方に貸出/返却場(ポート)が1つあるというドコモ・バイクシェアのシェアサイクルで、路線上に限らない細かな移動も可能になる。
これら3つの移動手段をアプリで繋ぎ、現在地から行きたい場所を検索すると、その時々で最適な移動を提案。検索結果に対し、無料シャトルはそのまま予約を、シェアサイクルは予約と1日パスの購入もスムーズに行なえるようにした。シェアサイクルは1日パスの購入時に4ケタ数字のアンロックキーが発行されるので、他のサイトに遷移して登録などをすることなく、予約から乗車までシームレスに利用できるのもポイントだ。
また、ルート検索時にはアプリに登録されているスポットからの検索や、行きたい場所やスポットの名称をフリー入力して検索することも可能。登録スポットにはそれぞれ、画像とともに観光情報を掲載するほか、一部では施設や商品の割引などのクーポンも用意しており、エリアの魅力向上と回遊を促す仕掛けも組み込んだ。
実証実験は2020年1月16日~2月14日まで実施。アプリをダウンロードし、実証実験に参加した人には、りんかい線の1日乗車券を無料で提供する。アプリは日本語のほか、英語、中国語、韓国語に対応し、訪日客の回遊利便性を高めている。
なお、東京都の「MaaS社会実装モデル構築に向けた実証実験プロジェクト」では本実証実験のほか、竹芝エリアでの鉄道や船舶など複数の公共交通機関による連携と、立川駅周辺エリアでの電子チケット機能付きMaaSアプリの合計3つの実証実験を実施。東京都では将来的に、都内全エリアを繋ぐMaaSの実現を目指しているといい、こうした実証実験を通して、地域によって大きく異なる特性やニーズ、課題への対応に取り組んでいく方針だ。