米国最大DMO業界団体の資格・認証制度を整理した、レベル別の資格から段階的な人材育成の制度まで【コラム】

こんにちは。DMOコンサルタントの丸山芳子です。米国、欧州を現地調査した経験をもとに、日本のDMO(観光地域づくり法人)を支援しています。

このコラムではこれまで、米国のディスティネーション・インターナショナル(DI)がDMO幹部向けに実施している人材育成制度、サーティファイド・ディスティネーション・マネジメント・エグゼクティブズ(CDME)について、2回にわたりレポートしてきました。といっても、DIの育成制度は幹部向けに限ったものではありません。今回は、若手職員向けのプログラムや、新人CEOも自信をもって業務に携わることのできるDMOの認証制度についてまとめました。

ジョージ・ワシントン大学と産学連携

CDMEが幹部向けであるのに対し、DIは就業から3年目程度など初心者を対象とした資格制度も整備しています。資格の名称は「プロフェッショナル・イン・ディスティネーション・マネジメント(PDM)」で、必要な研修を修了すると、PDM取得者として認められます。

最新のカリキュラムによると、7科目をすべて受講すると修了。このうち、2科目はクラス形式の出席が必須で、残りはオンライン形式でも受講できます。1科目は6時間。オンライン形式の場合も、オンラインディスカッションに参加する必要があり、全科目で修了試験が課せられています。PDM の7科目合計の受講料はDI 会員が4515ドル(約50万円)、非会員は6776ドル(約75万円)。科目単位でも受講可能です。

PDMのプログラムは現在、DIがジョージ・ワシントン大学に外部委託しています。2017年からDIと大学が共同でプログラム開発し、2019年から順次、講座提供が始まりました。研修はジョージ・ワシントン大学が実施し、修了証も大学から提供されることから、受講者にとって著名な教育機関の授業を受けられる機会ともいえます。

大学側にとっても、産業界と協力することでDMOに関する実務面でのノウハウを吸収して専門性を高め、大学のブランド価値向上につながる利点があります。ジョージ・ワシントン大学のオンライン授業のインフラを使うことで、研修の一部をオンラインで代替することも可能になりました。産学で強みを補完し合って新しい価値を生み出す連携のあり方は、日本でも見習いたいものです。

DIの産業人材教育プログラムの体系 出典:DIホームページ

若く優秀な人材を流出させないために

DIは、「30 Under 30」という若手育成プログラムも毎年提供しています。30 Under 30はDI に限らず、米国で一般的に普及している取り組みで、30歳以下の優秀な30人を選抜するプログラム。DMO業界の多くの若い就業者は、より給与が高く、昇進の機会が多い、ホテル業界やサービス業界へ転職することを選ぶ傾向があります。そのため、DIでは30 Under 30プログラムによって教育の機会を提供し、若者がDMO業界にとどまることの価値を理解し、個人的なネットワークを築く支援をしているのです。

候補者は、上長、同僚、またはその他の業界の専門家によって推薦されます。DIの審査を経て選ばれた30人は、FacebookなどSNSのグループを通じて連絡を取り合い、DMOの価値向上などさまざまなテーマを設定して議論を行います。アドバイスを求めたり、質問をしたりしたいときは、DIが支援します。さらに、民間企業のスポンサーや、オーストラリア・コンベンションビューローとの国際的に提携し、内容をブラッシュアップしています。

30 Under 30の選抜メンバーは、DIの年次総会で発表されます。同世代の中でも優秀だと認められたメンバーは、壇上で非常に誇らしげ。活動の成果が発表されることもあります。日本でも若手スタッフの育成は喫緊の課題であり、参考になる点が多いと思います。

2019年の30Under30の選抜メンバー 出典:DIホームページ

新任CEOを助ける地域の認定制度

最後に、DIが提供しているデスティネーションの認定制度、「ディスティネーション・マーケティング・アクレディテーション・プログラム(DMAP)」についても、ご紹介しましょう。

DMAPは、DIが認定機関となり、デスティネーションが一定の水準に達していることを認定するもの。単純な書類審査ではなく、双方向で状況を確認し、不足する場合はDIが基準を満たすために支援します。デスティネーションは観光客の構成、地域の歴史的経緯や地理的な特性などに左右されるため、四角四面の基準では過不足がでるためです。特に、米国は州ごとに法律が異なるうえ、観光資源が多様なため、デスティネーションの状況に合わせて判断する手法が合理的だと考えられます。

DMAPの評価項目は90以上。DMAPはデスティネーション全体の評価制度であり、DMOの組織に限定されているものではないため、地域内で提供されているサービスのあり方などが多面的に審査されます。多くの文書が組織のさまざまな分野から必要とされるため、通常長い時間がかかりますが、申請作業が完了すると、申請に関した書類は業界で認められるベストプラクティスとして通用するレベルに徹しています。

DI年次総会において、2019年に新規DMAP認定されたDMOを発表する看板

審査の一例を挙げると、危機管理におけるBCP(事業継続計画)の策定も必要項目です。私がDIの年次総会に参加して印象的だったのは、米国のDMOは危機管理の対応がとても進んでいること。日本で、危機管理対応といえば、災害発生時に旅行者に避難情報を伝える点がフォーカスされがちですが、DMOは、被災者、被害者の心情に寄り添いながら、一刻も早く観光事業者の活動を再開させ、風評被害から地域を守る活動が求められています。その観点からも、コミュニケーション戦略まで含めたBCPは非常に重要です。

実際に、DMOで新任のCEOになった場合に、いきなりこうした高度な計画を自分の力で作るのは、とても難易度が高いこと。DMAPの認定を目指すことで、DIから支援を得ながら、最終的にお墨付きを得た計画が策定できるといえます。

私がCDMEの研修で同じクラスだった40代の新任CEOは、DMAPの取得をしたばかりでしたが、申請の途中は本当に心強かったといいます。「これでいいのか」と迷うものでも、DIに相談し判断してもらえたことで、自信をもって地域にも説明できるようになったそうです。つまり、DMAPは単なる認証制度ではなく、DMOの幹部を育成する側面も持つ制度であると考えられます。

いかがでしょうか。DIがDMOの業界団体としてさまざまな観点からDMOを支援していることを垣間見ていただけたのではないでしょうか。日本にそのままの形で導入しづらいものもあると思いますが、有効に機能しているエッセンスはぜひ取り入れてもらいたいものです。

丸山芳子(まるやま よしこ)

丸山芳子(まるやま よしこ)

ワールド・ビジネス・アソシエイツ チーフ・コンサルタント、中小企業診断士。UNWTO(国連世界観光機関)や海外のDMOの調査、国内での地域支援など、観光に関して豊富な実績を有する海外DMOに関する専門家。特に米国のDMOの活動等に関し、米国、欧州各地のDMOと幅広いネットワークを持つ。DMO業界団体であるDestination International主催のDMO幹部向け資格「CDME(Certified Destination Management Executive)」の取得者。企業勤務時代は、調査・分析、プロモーションなどの分野でも活躍。

みんなのVOICEこの記事を読んで思った意見や感想を書いてください。

観光産業ニュース「トラベルボイス」編集部から届く

一歩先の未来がみえるメルマガ「今日のヘッドライン」 、もうご登録済みですよね?

もし未だ登録していないなら…