ブッキング会長が語った、ダイバーシティ推進には「データが重要」、その理由と課題とは? ーフォーカスライト欧州版2020

ブッキング・ドットコム(Booking.com)のギリアン・タンズ会長が、米・旅行調査会社フォーカスライトが主催する「フォーカスライト・ヨーロッパ・オンライン2020」に登壇した。同イベントは、世界の旅行テック系の大型イベント。今年はコロナ禍のため、オンライン版として開催されており、タン氏は「ダイバーシティ(多様性)」をテーマにしたセッションで女性として同社を世界最大級のOTAに成長させてきた経験から、旅行業界におけるダイバーシティの意義について語った。

同氏は、2016年にブッキング・ドットコムのCEOに就任。同社を世界最大級のOTAに成長させるとともに、男性中心のテクノロジー業界で女性のリーダーを育成する取り組みにも力を入れてきた。2019年6月に会長に就任した後も、タンズ氏の発言は業界に大きな影響力を与えている。

フォーカスライトの調査で、「リーダーになる機会はすべての従業員に平等に与えられているか」との問いに対して、男性は「そう思う」が50%を超えたのに対して、女性は約35%。逆に女性の「そうは思わない」は50%近くにのぼった。また、リーダー昇格への障害について、「人材育成の欠如」という回答は男女ほぼ同等だったのに対して、「スキル不足」では女性よりも男性が多く、「経営陣のバイアス」では男性よりも女性が多い結果となった。

「(女性のリーダーシップを含めた)ダイバーシティの議論は、すべての業界に必要なことだが、特に旅行業界には重要」。タンズ氏はそう話す。「旅行はパワフルで、いろいろな視点を与えてくれ、世界を広げてくれる」が、それは、旅が多様性を含んでいるからだ。そのうえで、タンズ氏「旅行業界の顧客は多様な文化を旅する。顧客を理解するためにも社内のダイバーシティは必要になってくる。異なる文化的、社会的背景を取り込むことで、会社もオープンで、クリエイティブになり、イノベーションを起こすことができるようになる」と強調した。

オンラインでインタビューに応えるタンズ氏社内改革で必要なのはデータと風通しのいい環境

タンズ氏は2002年に、ホテル業界から当時スタートアップだったブッキング・ドットコムに転身した。同社のダイバーシティは設立当初から自然とそうなったという。「オランダは小さな国。初めからいろいろな文化的背景を持つ人たちを雇い入れた。それが、今でも大きな力になっている」と話す。しかし、女性のリーダーシップについては別の話。やはり、当初は地元オランダ人の男性を中心にマネージメントが行われていたという。

タンズ氏は当時を振り返る。「昔、ある女性に『あなたがいてよかった。女性としてのロールモデルがあるから』と言われたことがある。そこで気づいた。女性のリーダーを育てるためにはボトムアップする必要があると」。現在のブッキング・ドットコムの女性管理職は全体の約30%だという。徐々に増えているが、「一夜にして急増するものではない」と現実的だ。

現在でもダイバーシティの受け入れには課題があるという。トレーニング、昇格プロセス、男女の機会均等など。その解決のために必要なこととして、タンズ氏は「データの重要性」を挙げた。「社内のどこで行き詰まっているのか。業務プロセスの中のどこに問題があるかを把握するデータは大切」とテクノロジー会社らしい視点に言及した。もうひとつは、「風通しのいい職場にすること」。日々の業務のなかで、障害を取り除いていくためには、社内の「accessible (近づきやすい)」環境が大切だという。

タンズ氏は、CEO時代に、女性リーダーシップを育成するさまざまな取り組みを立ち上げた。2018年にはコンピューターサイエンス、エンジニアリング、テクノロジーなどを学ぶ女子学生を支援するため、アメリカとインドの大学で奨学金制度を設けた。また、ロールモデルの重要性から「メンターシップ・プログラム」も進めている。

「一般的に、いまだにダイバーシティへの投資が少ないのは驚きだ」とタンズ氏。そのうえで、企業内でダイバーシティを進めていくうえで求められるのは、「怖がらずにリスクを取ること」と強調した。

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