NECソリューションイノベータとインバウンド旅行会社True Ja-pan Tour社が2020年9月下旬、東京を舞台に外国人向けバーチャルツアーを実施した。コロナ禍で壊滅的な打撃を受ける通訳ガイドを支援し、ガイドの雇用創出とガイド組織の生産性向上、さらにはバーチャルツアーを通じて海外の旅行者に対して将来の訪日に向けた動機づけを目指すものだ。
コロナ禍の中、日本人向け海外旅行のオンラインツアーは多く販売されているが、外国人向けの360度動画を用いたオンラインツアーは、まだ少ない。その挑戦と、ポストコロナ時代にも通用する観光事業の新たなカタチを模索するモニターツアーに参加して取り組みを取材した。
動画配信サービス360度映像とZoomでのコミュニケーション
今回取材したバーチャルツアーは、事前に収録した360度ツアー映像を動画配信サービスで配信、同時にオンライン会議システムZoomを通じて通訳ガイドと参加者がリアルタイムでコミュニケーションができるよう2つのツールを組み合わせて実施された。動画配信サービスで配信する360度映像は、スマホやタブレットなどのモバイル端末を使えば、自由に動かしながら自分の見たい目線・角度から映像を楽しむことができる。Zoomによる通訳ガイドのリアルタイムの案内とともに質の高い映像で、実際に街歩きをしているような感覚を仕掛けている。
また、インバウンド向けツアーの実績を数多く持つTrue Japan Tour社が企画を練り上げ、トップ通訳ガイドが質の高いツアーを運営することが大きな強みだ。
今回の参加者は、海外および国内在住の外国人。東京観光の定番スポットとして、約2時間で築地場外市場、東京駅、皇居周辺、浅草寺、原宿竹下通り、明治神宮、渋谷交差点などを巡った。
築地場外市場では、史上最高額でマグロを競り落とした寿司チェーンを紹介。通訳ガイドが、その落札額を伝えると、参加者から驚きの声が上がり、参加者同士がリアルな感情を共有した。また、「夜もオープンしているのか」「クレジットカードは使えるか」など、リアルな訪問に即した質問も数多く出るなど、将来の訪日への関心度の高さも伺えた。
浅草では、外国人に人気の浅草寺を訪れた。雷門の正面から本堂まで、仲見世の土産店をのぞきながら歩く。参加者からは、土産物店で売っている菓子や人形などの商品や看板に書いてある日本語、さらには仲見世の「店舗の建物オーナーはだれか?」など各種の質問がなされ、様々な関心がわいたようだ。
渋谷では、世界的に有名になったスクランブル交差点を渡る体験も。「信号はいくつあるのか?」「何人くらいの人が渡るのか?」など体験したことがない外国人の素朴な質問と感嘆の声があがった。
参加者の声は? 見えてきた改善点
東京の見どころをめぐるバーチャルツアーと専門ガイドの案内で、Zoom上からは参加者の満足げな表情がみてとれた。一方で、モニターツアーであることから、ガイドが参加者に感想や意見を求めると、参加者はいくつか課題も指摘。たとえば、浅草での人形焼や竹下通りでのクレープなど名物を紹介する際には、「実物が見たかった」「実際に購入して、どういった形で、どんな味がするのか、教えてほしかった」など、バーチャルであっても、街歩きだけでなく「体験」の要素を求める声もあがった。
また、移動の実感がわかない参加者からは「どれくらいの距離感があるのか分からない」「行程がわかるマップが欲しい」という意見も。今回のバーチャルツアーは約2時間だが、リアルにこのコースを巡ると、半日以上はかかる。時間的には効率的だが、仮想と現実とのギャップを補い、臨場感を演出するアイデアも求められた。
NECソリューションイノベータでは、過去4回のモニターツアー参加者からのフィードバックをまとめている。それによると、テクニカルな面では、「一部途切れることはあったが、概ね問題はない」が大部分を占め、コンテンツの面では「Good」と「Excellent」がほとんどで満足度も高かったことが伺える。また、360度映像も好評だったことからも、このツアーを友人や家族に「とてもすすめたい」「すすめたい」と答えた人がほとんどだった。このほか、今後バーチャルで訪れてみたいところでは、四国、京都、奈良、広島、新潟など具体的なデスティネーションのほか、観光客が通常行かない地方との声もあり、地方のバーチャルツアーの潜在性を伺わせるフィードバックが多く寄せられた。
さらに、参加したツアーで訪れた場所に実際に訪れたいかという質問にも「とてもそう思う」という答えが半分以上を占めるなど、来訪意向を高めることも期待できそうという。
将来の訪日に向けた動機づけと通訳ガイド支援
今回のツアーは、NECソリューションイノベータがシステムの運用を担当し、インバウンド旅行会社True Japan Tour社がツアーを造成。同社の通訳ガイドがオンラインで東京の定番スポットを案内した。NECソリューションイノベータは、「ガイド予約支援」や「ツアーガイドマッチング支援」など、観光事業者を支援するソリューションを長年提供している。今回のバーチャルツアーの取り組みは、それらガイド事業の一環だ。
両社は、モニターツアーの結果から改善点を抽出し、年内中に本格的に訪日バーチャルツアーとして販売を開始する計画。集客はトリップアドバイザー(傘下のタビナカ予約・ヴィアター)やTrue Japan Tour社の自社ホームページなどからを想定している。また、「NECツアーガイドマッチング支援」を活用することで、バーチャルツアー販売でのサプライチェーンのデジタル化を進め、生産性の高いプロダクトに磨き上げていく考えだ。
デジタルの力で地域の課題解決も
インバウンド需要が2019年レベルに回復するには、いくつものハードルがあり、それ相当の時間がかかると見られている。そうした現状のなか、同社イノベーション推進本部の川村武人氏は「外国人旅行者が日本を訪れることができないなか、オンラインで先に日本を体験してもらい、将来のリアルな訪問につなげていきたい。オンラインツアーは観光客、観光事業者双方にとって、マーケティング活動にもなりうる」と話す。
さらに、ツアー運営全体の業務フローは、継続的な事業運営を可能にしている。事前に収録する360度映像を磨き上げ、活用していくことと、ツアー販売からガイドアサインまでをデジタル化することで次回以降のツアー運営の労力が軽減される。ツアーの質を担保しながら一定のマニュアルに添って運用ができる点について、川村氏は「観光事業者や通訳ガイドにとっては有益だ」と自信を示す。
世界的に旅行が制限されている現在、唯一の解決策がオンライン。川村氏は、「首都圏でのバーチャルツアーに加え、地域の組織やガイドとも連携して、活用の場を広げていきたい」と話し、各地の観光地域づくり法人(DMO)によるバーチャルツアーの活用も視野に入れる。NECソリューションイノベータとしては、コロナ後も見据え、デジタルの力で地域の観光課題の解決にも取り組んでいく考えだ。
問合せ先:event-support@nes.jp.nec.com
記事:トラベルボイス企画部