ジェネリック観光地とは? NTTドコモの開発者が「AI × 観光」で生み出した新たなアイデアを聞いてきた

竹田城址(兵庫県朝来市)

ジェネリック観光地という新しい旅の概念が登場した。新薬(先発医薬品)と同等の有効成分がある後発医薬品のことをジェネリック医薬品と呼ばれるが、この考え方を観光地に当てはめ、画像から観光地の類似性をAIによって数値化するもの。

提唱したのはNTTドコモ・クロステック開発部に所属する勝見久央さんだ。2020年、ユビキタス・コンピューティングの国際的な会議「UbiComp 2020」(オンライン)でポスター論文を発表した。2021年4月で入社3年目という若い世代が発案した「ジェネリック観光地」とはどんなものか?

AIを用いて類似点を数値化

日本国内には、海外の有名観光地になぞらえて「日本の◯◯◯」と呼ばれている観光スポットが数多く存在する。たとえば、兵庫県の竹田城は「日本のマチュピチュ」、大分県の原尻の滝は「日本のナイアガラの滝」という具合に。勝見さんは、この類似性を、ジェネリック医薬品でいう同等の有効成分として、Generic POI(point-of-interest)と定義した。

勝見さんは、「昔から、話題になっている観光スポットはあまり行きたいとは思わず、見た目が似ていれば、同じような体験が得られるのではないかと考えていました。ある時、横須賀の鷹取山に、アフガニスタンのバーミヤン石仏に似ている場所があることを会社の先輩から聞き、こういう視点から観光地を見つけるシステムができるのではと考えました」と発想の原点を明かす。

Generic POIは、ウェブ上から収集した有名観光スポットの画像と類似したスポットをグーグルマップ上からマイニングし、AIを用いて類似点を数値化した。算出するためには、基礎となる検証データが必要になる。

勝見さんは、評価対象として、「竹田城」と「マチュピチュ」、姫路の「太陽公園」とドイツの「ノイシュバンシュタイン城」、伊豆堂ヶ島の「天窓洞」とギリシャの「メリッサーニ洞窟」、佐渡の「弁慶のはさみ岩」とノルウェーの「シェラーグボルテン」、「原尻の滝」と「ナイアガラの滝」を選んだ。

その結果、最も類似性が高かったのは、「太陽公園」と「ノイシュバンシュタイン城」で0.903。次に、「天窓洞」と「メリッサーニ洞窟」で0.896、「弁慶のはさみ岩」と「シェラーグボルテン」で0.865と続いた。勝見さんによると、0.7を超えると、見た目の類似性が高くなるという。

「ジェネリック観光地」提唱者の 勝見久央さん(NTTドコモ・クロステック開発部)

ジェネリック観光地の有効成分で穴場観光地の創出も

では、このAI画像解析の手法で見つけ出す「ジェネリック観光地」の有効成分と何だろう。もちろん、「日本の〇〇」という形容はキャッチーで、旅行者の関心を引きやすいことは言うまでもない。

また、勝見さんは「たとえば、これまで知られていない穴場の観光スポットを発見でき、観光客誘致にも使えるのでは」と、自治体やDMOなど受け入れ側の視点からそのメリットを説明する。まだ、サンプル抽出の段階だが、全国各地に広げれば、さまざまな穴場が見つかる可能性がある。また、全世界に広げれば、国内旅行だけでなく、アウトバウンドやインバウンドでも「ジェネリック観光地」をマーケティングやプロモーションの材料に使うことも可能になるだろう。

さらに、知られざる「ジェネリック観光地」の発掘は、旅行者の分散化にもつながることから、勝見さんは「コロナ禍で、あるいはアフターコロナでも、有効かもしれない」と続けた。

課題は技術的な精度、将来的な事業化は?

一方で、勝見さんは「技術的にまだ精度の問題がある」と課題も指摘する。AI画像分析で俯瞰的な構図の特徴の類似性が示されたとしても、やはり人間の目では感じ方が異なることも多々ある。解決にはAI分析に必要なデータ量がカギになりそうだ。

また、穴場の観光地として発掘しても、それが逆に「穴場」ゆえに観光客が集中してしまう現象も起こりうるし、ポケモンGOで起こったように、旅行者が居住者の生活の場にまで入り込んでしまう恐れもある。「ジェネリック観光地」を活用する側にモラルと規制が求められる事態も出てくるかもしれない。

勝見さんの論文は、まだ着想段階のもので、NTTドコモとしては現時点で事業化は未定だという。NTTドコモは、5G、IoT、AIといったコア技術でさまざまなソリューション・サービスを展開していることから、AI×観光の文脈で「ジェネリック観光地」がサービス化される時が来るかもしれない。「ユーザーを限定しないで開発を進めていきたい」と勝見さん。今後事業化されれば、一般ユーザーへの開放、自治体やDMOなどとの協業などさまざまなアプローチが考えられる。

「タビマエから楽しめるようなサービスを考えていきたいですね。旅先を探しているのが楽しくなるような。将来的には、その人に合った観光スポットなどを提案するパーソナライゼーションも進めていければと思っています」。

新たな観光のアイデアは、AI×観光で実現するか。今後、発展形が世に出ることに期待したい。

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