旅行のオンライン流通が、世界のどこよりも急速に成熟したのが中国だ。旅行販売に占めるオンライン比率は、2015年時点で30%だったが、2020年は61%。オンライン予約高は2019年実績で957億ドル(約10.5兆円)。パンデミックの打撃も、オンライン市場の方が旅行全体に比べて軽く済んだ。
このほどフォーカスライトがまとめた最新レポート「中国旅行マーケット2020-2024年」によると、いま同国のサプライヤーや仲介事業者が重視しているのは「モバイルチャネル」だ。なかでも活況を呈しており、動きも早いソーシャルメディアとモバイルコマースへの関心は高く、各社とも、ライバルに出し抜かれることがないよう、新しいマーケティング・プラットフォーム活用に余念がない。
鉄道が代表的な業種の一つだが、中国マーケットがオフラインからモバイルへと一気に移行した背景において、モバイル予約が果たした非常に役割が大きい。オンライン利用は引き続き浸透していくと思われるが、先行していた他のオンライン成熟市場に追いついたいま、変化のスピードは緩やかになるだろう。
グーグル不在の中国、市場の構図は独特の発展
中国が他国の旅行マーケットと異なるのが、旅行の検索や購買において、グーグルの存在感がほぼないことだ。グーグル検索はブロックされており、現地版クローンのバイドゥ(百度)はあるがグーグルほどの影響力はない。
そのかわりにインターネットのゲートウェイとして君臨しているのが、ソーシャル機能やコマーシャル機能のあるアプリ。なかでもこの両方の機能と、エンターテイメント要素を持ち合わせたアプリが台頭しており、旅行においてもインスピレーション喚起から実際の予約までを担う。
シートリップは、旅行系スーパーアプリを目指しており、エクスペディアやブッキングドットコムなど海外OTAよりも、多岐に渡る旅行商品を取り扱っている。フォーカスライトでは、航空券、ホテル、レンタカー、鉄道などを総じて旅行マーケットとしているが、シートリップが扱う旅行商品の中には、空港でのピックアップ・サービスや観光施設の入場券もある。
さらに同社アプリでは、位置情報が必須となるレストランや買い物のおすすめ情報や、旅情を誘う動画ストリーミング、お買い得情報、現地で役立つコンテンツも扱っている。同社にとって最大のライバルOTA、アリババ傘下のフリギーも、似たようなインターフェースを提供しているが、扱うコンテンツは旅行以外のものも多い。
顧客獲得ではOTAがかなり有利な状況にある中国だが、2020年のオンライン旅行予約に占めるサプライヤー各社(交通機関など)による直販のシェアが44%という数字は特筆すべきだろう。この大半を占めているのは航空会社と鉄道。一方、ホテル販売では、OTAが圧倒的という図式だ。今後、需要回復が進むのに伴い、仲介事業者のシェアが増えることも予想される。サプライヤー各社が需要喚起策に力を入れるからだ。
中国の旅行マーケットを表す5つの数字
中国旅行マーケットは2020年、53%縮小したが、国内旅行については、2021年に2019年レベルまで回復するとフォーカスライトでは予測している。海外も含めた旅行マーケット全体では、最も楽観的なシナリオで2023年に同レベルまで回復するとしている。
中国のオンライン旅行マーケット規模については、2021年は1270億ドル(約14兆円)、そのうち86%がモバイル経由になると予測。またOTAがオンライン市場に占める比率は、2024年までに全体の59%に達するとしている。
※ドル円換算はトラベルボイス編集部が1ドル110円で算出
※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営する「フォーカスライト(Phocuswright)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
オリジナル記事:Unique online dynamics in China's travel market
フォーカスライトの最新レポート:China Travel Market Report 2020-2024