カナダ観光局(デスティネーション・カナダ)は2021年5月下旬、旅行業界向けトレードショー「ランデブーカナダ(RVC)」をオンラインで開催した。2020年は新型コロナウイルスの感染拡大によって中止を余儀なくされたが、今年は45年の歴史のなかで初めて「RVC+」としてオンラインで実施。観光局によると、5月6日時点で、日本から41人を含む490人のバイヤーが登録。カナダ国内から550社/団体800人のセラーが参加し、3日間にわたった商談会予約は2万1000件以上にのぼったという。
観光収益が2019年レベルに回復するのは2025年
カナダ観光局では、ポストコロナに向けて5フェーズのマーケティングプランを策定。現在は、第1および第2フェーズとして、旅行に対する自信の醸成と将来の旅行計画を後押しする取り組みを継続し、同時に第3フェーズとして、ツアーオペレーターを支援する目的で今夏の国内旅行推進に向けた活動を展開しているところだ。
その後のインバウンド旅行市場再開に向けての取り組みはまだ未定。カナダ観光局社長兼CEOのマーシャ・ワルデン氏は「まだ先が見えない状況」としながらも、カナダではワクチン接種が進んでいることから、「人口の75%のワクチン接種が完了すれば、規制はさらに弱まるだろう。早ければ今年の秋にも国境が開き始めるのではないか」との見通しを示した。カナダ観光局としては、まずはアメリカ、イギリス、EUとの往来から再開すると見ている。
イベントが実施された5月下旬の段階で、カナダは留学やビジネスなどの特定ビザを有している外国人以外の入国を制限している。各州/準州の州境については、ブリティッシュコロンビア州とユーコン準州、プリンスエドワード島、ノバスコシア、ニューファンドランド・ラブラドールのアトランティック3州などで一時的にトラベルバブルが開始されたものの、感染拡大にともなって再度クローズされている状況だ。
カナダ観光局では、観光業界の収益が2019年レベルに回復するのは2025年と想定。それまでは、カナダ国民の国内旅行で業界を支えていく考えだ。カナダ経済開発・公用語担当のメラニー・ジョリー大臣は、これまでに観光、芸術、文化分野に対する支援として150億カナダドル拠出し、2021年度でも観光業界支援のために、カナダ観光局向けの1億カナダドルを含む10億カナダドルを新たに予算化したことに触れたうえで、「まずは国内旅行者を地域に呼び込むことで、雇用を維持し、地域経済を活性化していく」と強調した。
日本では高価値旅行者の誘致や関係人口の創出に注力
カナダ観光局日本地区代表の半藤将代氏は、日本市場について、アフターコロナでのキーワードとして「共感」を挙げ、「観光素材のストーリーテリングを強化し、ライフタイムを通じて何度も訪問してくれる人に対する訴求を強め、カナダファンを増やしてきたい」考えを示す。
そこで、重視していくのが高価値旅行者の誘致。RVC+のオンラインイベントに登場したJTBツーリズム事業本部海外仕入商品事業部欧米部長の浅見雄介氏は「(JTBの調査から)アフターコロナでは、目的意識を持った高価値旅行者が増えると見ている。カナダはその層にとって最適なデスティネーション」と話す。
カナダ観光局とJTBは2021年4月から3年間のマーケティング連携を進める。アフターコロナでの旅行者の意識の変化に合わせたプロモーションを「New Tourism」として展開。新しいアイデアを紹介するショートムービーを作成し、レジャーだけでなく教育旅行やビジネストラベルでも訴求を強めていく方針だ。
また、浅見氏は高価値旅行者の特徴として、「環境や地域コミュニティーとの関係性などサステナブルツーリズムの関心が高い」と指摘する。半藤氏も「サステナブルの背景にあるストーリーなどを紹介し、上質で意味のある体験をプロダクトに落とし込んでいく」と意気込みを示し、旅行会社との協業に期待を寄せた。
サステナブルな先住民観光もカナダの強み
各州/準州の観光局もサステナブルツーリズムに関心を寄せる。ケベック州観光局ジョイ・プロボスト氏は「今後、サステナブルな宿泊施設やプロダクトの紹介に力を入れていく」と話す。また、オンタリオ州観光局日本事務所アカウントマネージャーの田中恵美氏は「オンタリオ州の強みである食を通じた取り組みをアピールし、地産地消の視点から地元コミュニティーとのつながりをプロダクト化していきたい」と将来を見据える。
一方で、「そもそもカナダはサステナブルなデスティネーション。従来のプロダクトにもその要素は多い」(ノースウエスト準州観光局日本事務所アカウントマネージャー田中映子氏、ユーコン準州観光局アジアパシフィック担当マーケットマネージャー山本安彦氏)とする意見も聞かれる。そのなかで、プリンスエドワード島(PEI)州政府観光局日本代表の高橋由香氏は、同島のアイコンである赤毛のアンを取り上げ、「アンの生き方そのものがサステナブル」として、従来の素材の切り口を変えることで、新しい視点のプロダクト造成に意欲を示した。
サステナブルツーリズムの素材として改めて注目を集めているのが先住民ツーリズム。カナダではここ数年、先住民の歴史や文化を観光素材としたプロダクト開発を進めてきたが、そのライフスタイルは持続可能な先人の知恵として見直されており、観光業界でも「ルネッサンス的拡大を見せている」(半藤氏)という。
カナダ先住民観光協会社長兼CEOのキース・ヘンリー氏も「コロナ前には、アメリカ、ヨーロッパ、日本など海外市場で先住民観光の旅程が増えていたが、コロナ禍では国内旅行でもその関心が高まっている」と明かし、アフターコロナ向けては、デジタル体験を提供するとともに、教育キャンペーンを展開し、将来の訪問につなげていく方針を示した。
また、アルバータ州観光公社市場開発担当ディレクターの小西美砂江氏も「アルバータ州にも先住民文化はもともとあるものだが、今後は環境保全や農業などの視点で、その文化の訴求を強化していきたい」との考えを示す。
半藤氏は「先住民文化はSDGsの原点。これまでは教育旅行にとどまっていたが、今後はレジャー旅行にも広げていきたい」と付け加えた。
見通しが立たない海外市場、旅行機運を高める施策を継続
具体的なマーケティング戦略については、国境開放が見通せないなか、検討段階のところが多い。そのなかでもアルバータ州観光公社では、10年戦略を立案。マーケティング、航空アクセス、プレイシーズ(各地域の観光インフラ整備)の3本柱に取り組んでいくという。海外市場については、カナディアンロッキーなど世界的観光地を抱えるだけに、「現地では海外からの観光客に早く戻ってきてほしいという声が大きい」という。
海外市場の回復以前に、国内の観光産業の立て直しが急務との問題意識も強い。ユーコン準州の山本氏は「この1年間でユーコンを離れたでオペレーターも出ている。国境が開いても、現地の受け入れ状況は以前とは違う。観光業が立ち直るのには時間がかかるのではないか」と危機感を示す。
日本市場では、カナダへの関心を引き止める、あるいは高める活動を継続している。ケベック州観光局やオンタリオ州観光局では、バーチャールツアーをSNSや動画サイトで展開。PEI州観光局は、ロイヤルホストで名産のロブスターメニューを観光情報とともに提供している。ノースウエスト準州観光局では、ナショナルジオグラフィック日本版で特集を組んでいる。
各州/準州の観光局はこれまでカナダ観光局とともにチームカナダを構成し、統一したプロモーション活動を展開してきた。その方向性に今後も変わりはなく、「チームカナダとして、一般消費者のアピール、旅行会社との連携を深めていく」方針だ(半藤氏)。
トラベルジャーナリスト 山田友樹