一般社団法人 地域人財基盤が開催した「地方で旅するように暮らし、仕事をするシンポジウム」に、イタリアで「アルベルゴ・ディフーゾ(分散型ホテル)」を提唱するアルベルゴ・ディフーゾ・インターナショナル協会のジャンカルロ・ダッラーラ会長が登壇し、分散型ホテルの潜在力について語った。
分散型ホテルとは、集落内の空き家をホテルとして再生し、レセプション機能を持つ拠点を中心にネットワーク化するもの。イタリアでは、コロナ禍以前から地域再生と新しい旅のスタイルとして注目されていたが、ダッラーラ氏は「コロナで旅行の趣向が変化するなか、イタリアの本質を求めるニーズとアルベルゴ・ディフーゾのスタイルが合致している」と話し、今後さら需要が高まると期待をかける。
イタリアでも、少子高齢化によって、集落での空き家が問題になっているという。その空き家を宿泊施設として利活用し、伝統的な集落の暮らしを、集落以外の人に楽しんでもらう。「大切なのは、旅行者に村人になったように滞在してもらい、その土地に溶け込めるような体験をしてもらうこと」とダッラーラ氏は話す。
特定の集落への共感は、旅人と住民とのコミュニケーションを生むだけでなく、集落内の共有スペースでは旅人同士の交流も生まれる。その「その程よい距離感がアルベルゴ・ディフーゾの人気の理由のひとつになっている」という。加えて、宿泊施設のキャパシティは限定されているため、「オーバーツーリズムにもならないし、密回避にもなる」として、アフターコロナで求められるニーズにも応えられるとした。
必要なのは統一した理念と運営、大きい自治体の役割
ダッラーラ氏は、アルベルゴ・ディフーゾを展開するうえで、必要なこととして、「統一した理念を持って、一人あるいは一企業が運営を行うべき」との考えを示した。宿泊施設が分散していても、レセプションあるいはコンシェルジュ機能を持つ拠点が中心となって、集落全体で個性を打ち出すことで、訴求力が高まるとする。
イタリアでは、それぞれの集落の伝統的な暮らしと自然環境をベースとした個性的なアルベルゴ・ディフーゾが展開されている。たとえば、サイクルツーリズム、ワイナリーなどのカリナリーツーリズム(食を軸とした観光)など。最近では、太陽光などを整備した環境配慮型のアルベルゴ・ディフーゾが登場し、ワーケーションなどでの利用も増加。滞在日数も伸びているという。
さらに、ダッラーラ氏は「住民コミュニティーの存在も大切」と強調。住民が積極的に集落に旅行者を迎え入れることで、「旅行者にも自覚と責任が芽生え、持続可能な観光につながる」と話し、アルベルゴ・ディフーゾをレスポンシブルツーリズム(責任ある観光)へのひとつの回答と位置づけた。
そのうえで、自治体の役割として、アルベルゴ・ディフーゾが掲げるコンセプトの周知とともに、住民のモチベーションを上げる取り組みとして「この村が好きだから、旅行者に来てもらいたい」という環境づくりも重要との認識を示した。また、デジタル化も不可欠と付け加える。「田舎の集落でも、現代の生活ではWi-Fiは必須。特に滞在期間を伸ばすためには必要なツール」と話した。
このほか、ダッラーラ氏は、今後の展開として、アルベルゴ・ディフーゾの発展型として「オスピタリタ・ディフーザ」を進めていく考えも示した。「オスピタリタ」とはホスピタリティの意味。アルベルゴ・ディフーゾが1つの事業者による運営を理想とするのに対して、オスピタリタ・ディフーザは、それぞれの施設は別の経営としながらも、ひとつの組織として連携し、地域全体で「オスピタリタ」を提供し、集落再生を目指すものだ。
日本でも広がるアルベルゴ・ディフーゾ
イタリアで長年街づくりコンサルタントとして地方再生に尽力してきたダッラーラ氏が「アルベルゴ・ディフーゾ」の発想に着眼したのは、1976年に北イタリアのフリウリ地方で発生した大地震によって廃村の危機に直面した集落の復興を探る中でのこと。2006年にアルベルゴ・ディフーゾ・インターナショナル協会を設立し、これまでにイタリアで100ヶ所以上、EUで約150ヶ所をアルベルゴ・ディフーゾとして認定している。
2018年には、日本でも岡山県小田郡矢掛町の「矢掛屋」がアジア初のアルベルゴ・ディフーゾとして認定。2019年には、イタリア以外で初めての協会支部となる「アルベルゴ・ディフーゾ・ジャパン(ADJ)」が発足した。
協会の取り組み以外でも、日本では、分散型古民家再生プロジェクトを手掛けるノオト(NOTE)が丹波篠山などで分散型旅館「NIPPONIA」を展開するなど、「街全体をホテル」と考え、空き家対策、地域活性化、街づくりという課題を観光を基軸として解決していく動きが広がっている。