スマホの付属アプリにホテルのチェックイン機能を搭載、ホテルの業務フローがどう変わるかを考えた【外電】

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アップルは2021年6月、同社のウォレットアプリに、ホテルのキーを格納する新機能を加える計画を明らかにした。モバイルでのチェックイン手続きが簡単になり、宿泊客にとっては大きな前進だ。

この一歩の意義は確かに大きいが、これですべて解決という訳ではないことも指摘しておきたい。デジタルキーの発行は、煩雑な手続きのうちの一つに過ぎず、宿泊客がフロントデスクに立ち寄らなくてはいけない理由が一つ減っただけ。アップルの発表を受けて、ホテルのアプリ不要論に飛びつくのは早計だ。

今秋に予定されているiOS 15のアップデートに伴い、アップル・ウォレットにも同じNFC(Near Field Communication=近距離無線通信)技術が搭載される。この機能を使うことで、決済サービス「アップルペイ」の利用者は、自分のスマートフォンを使ってホテル客室に入れるようになる。またホテル運営側は、デジタル・ルームキー発行の手順をもっと簡単にできるし、デジタルキーの導入を検討しているオーナーには、導入にかかる所要時間やハードウェア経費を縮小できるメリットがある。

NFCは、現在、実用化されているなかで最も安全かつ革新的なデジタル・コミュニケーション・ツールだ。宿泊客にまずアプリをダウンロードしてもらい、それからホテルのキーを渡す、という手間が不要になり、電子メールやショートメールでキーを発行できるようになる。さらにチェックイン当日、客室の前でアプリを起動したり、スマートフォンのロックを解除する必要もない。ロック中だったり、電源が入っていないスマートフォンでも、基本的にはRFID(Radio Frequency Identification=近距離無線通信によるスキャン技術)キーカードが複製できる仕組みになっている。

これまでは、自分の携帯電話をデジタル・ルームキーとして使うことに消極的なユーザーが多かったが、手順がよりスムーズになったことは、普及に向けた大きな前進だ。とはいえ、まだホテルのオペレーションの現場には、様々な課題がある。ウォレットの新機能によって、宿泊ゲストのチェックインと客室へのアクセスは改善されるが、より大きな問題が、本人確認との紐づけをどうするかだ。これには、キーの発行よりも、かなり多くの手順がどうしても発生してしまう。

通信に必要な各種システムから発生するすべての手順まで、全行程を洗い出してみることで、デジタル・チェックインへの完全移行を実現する上でのハードルが、より正確に把握できるはずだ。

万能のワンストップ・ソリューションはない

アップルが2021年6月7日、世界開発者会議(Worldwide Developers Conference)でおこなった今回の発表を受けて、このウォレット新機能の登場により、ホテルのモバイルアプリはもはや不要になるとの見解も一部で聞かれた。宿泊客がホテルのアプリをダウンロードする最大の目的はデジタル・ルームキーであり、アプリなしでもキー機能にアクセスできるなら、わざわざダウンロードする理由は薄れるからだ。

だが、そうはならないだろう。なぜか?

第一に、すでに説明した通り、ルームキー発行は、チェックイン手続きの一部で、最も重要なのは、ゲストのID確認と宿泊料の徴収だ。アップル・ウォレットのおかげで、客室に入るのは簡単になったが、他のデジタルツールがなければ、結局フロントデスクに行って本人確認や支払いの手続きをする必要がある。これに対し、モバイルアプリや、ロビー内に設置されたキオスク端末の中には、3つの手続きをすべて完了できるものもある。ウォレット内にキーを格納できるようになっても、ホテルのチェックイン手続きを完全にデジタル化するためには、引き続き、他のテクノロジーも必要だ。

第二に、ホテルのアプリにはルームキー以外にも、様々な機能や使い方があり、ホテルの収益拡大に貢献するものもある。デジタル版コンシェルジュの役割も担っており、例えば、ゲストが欲している館内やホテル周辺エリアの情報を提供できる。そのほかルームサービスの注文を受けたり、客室係にタオルの追加を頼んだり。客室内の照明調節やエンターテイメントの操作にも役立つ。最近では、客室アップグレードやアーリーチェックイン、レイトチェックアウトなど、ホテルにとって売上拡大につながる機能をアプリに組み込むところも増えている。

アプリよりも、ウェブサイトをベースにしたチェックイン機能の方が望ましいという意見もある。ゲストはチェックインも決済も、同じウェブ上でできる。しかし「カードの提示なし」でのクレジットカード決済に伴うリスクなど、深刻な問題もある。

上記のような理由から、ホテルのアプリは引き続き、ホテルがゲストとコミュニケーションする手段として、支持が大きいと思われる。特に、フリークエント・ビジター対策では効果的だ。

安全と安心が最優先

もう少し分かりやすく、モバイルキーが、デジタル・チェックインの一部に過ぎないことをイメージするには、空港でのデジタル・チェックインと機内に案内されるまでの流れを思い出してほしい。航空各社は、すでにアップル・ウォレットを活用しており、搭乗客のボーディングパスは、各自の携帯電話の中に格納できる。しかし、これとは別に、旅行者はセキュリティ検査を受け、搭乗券と一緒に、運転免許証やパスポートなどを提示して、本人確認を行っている。大抵の場合、こうした書類をチェックしているのは、生身の人間だ。

現在、ホテルでの本人確認も、人間が行うケースがほとんどだ。一方、空港では「CLEAR」など新しいテクノロジー導入に動き出している。顔や瞳をスキャンする機器を活用することで、セキュリティを確保しつつ、手続きを自動化することは可能な時代だ。

便利になったモバイルキーを活用するとしても、結局、ホテルにとって最優先事項は、客室に入る人のID確認であることに変わりはない。問題解決に役立つテクノロジーは、すでにある。さらに、例えば今回のアップルのような新機能がどんどん登場することで、産業全体がさらに進化していくだろう。宿泊ゲストに、安全かつシームレスなユーザー体験を提供することが究極の課題だ。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:HOW APPLE’S NEWEST FEATURES WILL AFFECT HOTEL CHECK-IN

著者:ナダブ・コーンバーグ(Nadav Cornberg)氏 Virdee社 共同創業者

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