観光産業に、仮想空間「メタバース」がもたらすものは? 次世代に向けた3つのテクノロジー注目株へ処方箋【外電コラム】

タビナカ領域において、次にどんな観光イノベーションが台頭してくるのか、見極めるのはなかなか難しい時代になってきた。フェイスブックは先ごろ、社名をメタに変更し、同社が目指すメタバースの世界を大々的にアピール。次世代に向けて注目のテクノロジーは、これで3つになった。

メタバース

メタバースとは、オンライン上に構築された仮想空間。3Dで現実空間と同レベルの体験を実現する。この分野に力を入れているのはフェイスブック(メタ)に限らないが、現段階で、資金的に最も優位にあるのは同社なのではないか。

以下は、メタ社のカンファレンスイベント「Connect 2021」の発表動画。メタバースが実現する未来の世界と、フェイスブック(メタ)が取り組んでいる様々な技術・クリエーション開発が紹介されている。


メタバースによる変化について、具体例を挙げつつ説明してみよう。

  1. 物理的に存在する環境下で、自分の身体や五感で体験する(ツアーガイドの案内)
  2. 物理的に存在する環境下でのデジタル体験(私の会社、Autouraのサービス)
  3. デジタル環境下でのデジタル体験(フェイスブックのメタバース)

観光産業において、メタバースがもたらすのは、次世代型デジタルマーケティングだというのが私の見方だ。なぜなら、メタバースが提供するのは、デジタル環境下でのデジタル体験になるからだ。これを起点に、関連する別のデジタル体験サービスや、実際に現地に出かけて体験するツアーなどの販促活動を展開する、という流れが想定される。

例えば、メタバース空間でラフティングを楽しんだ人に、次は実際に本物の川でラフティングを体験してみませんか? と誘う。

分散型

「分散型」の事例といえば、ブロックチェーン、NFT(非代替性トークン)、SSI(自己主権型アイデンティティ)、DAO(自立分散型組織)などが挙げられるだろう。

分散型とは何か、今一つ理解できないという人は、電子メールの仕組みを思い浮かべてほしい。誰かにメールを送るとき、双方の間には何も介在しておらず、直接、やりとりしている。送信者と受信者が利用するメール用ソフトウェアが、同じである必要もない。この仕組みは、メールのソフトウェアやサーバー各社が、プロトコル(通信の規格など)について合意し、共通のデータ言語を使用してデータを送受信しているから成り立っている。

この反対が「中央集約型」のプラットフォーム。例えばフェイスブックのメッセージは、送信も受信も、フェイスブック経由で行われている。

タビナカ領域において、より重要な意味を持つようになるのは分散型だろう。なぜなら、そもそもが分散型の産業構造になっているからだ。各都市で現地ツアーを催行しているオペレーターはそれぞれ10~100社にのぼるが、これを網羅している中央集約型のテクノロジーといえばまずOTA、それから一部でSaaS予約システムというのが現状だ。中央集約型プラットフォームは、すでに大手ツアーオペレーターとは提携しているものの、大多数を占める中小事業者はバラバラなまま。現地ツアー・体験マーケットが完全デジタル化へと移行するには、分散型のプロトコルが必要になる。

一方、分散型の普及において阻害要因となるのが、イノベーション導入に不可欠な合意形成の難航だ。殊に大手企業が参画していると、自社の立場へのこだわりが強く、なかなか合意に至らないケースはめずらしくない。分散型の仕組み作りは、ボトムアップで進めるべきで、大手には後から加わってもらうのが理想的だ。スタート時に最も苦労が多くなるのは、こうした要因からだが、規模が一定以上に達すると、そこから先は急速に広がっていく。

タイムラインとインパクト

では、どのようなタイムラインで何を行うべきか検討してみよう。ただし、前述した2つ(メタバースと分散型)の選択肢は、どちらか片方だけでは不十分。これからの時代においては、両方とも重要なカギを握るようになるだろう。

既存のウェブが全盛期を過ぎつつあることは明らかだ。もちろん、これから先も重要ではあるが、その存在価値は今ほどではなくなる。喩えるなら、ツアーパンフレットのようになる。紙に印刷したパンフレットは今でも重宝するが、もはやツアー広告のパンフレットについて議論するカンファレンスを開催するほどではない。それと同じことだ。

ところで「自動運転車両」は?

ただし、と付け加えておきたい。未来の主役になるのは、メタバースと分散型だけではない。

2000年代半ば以降、ウェブ2.0時代の寵児として急成長した大手各社は、次の一手として、自動運転車両や空飛ぶタクシーを展開してくる。こうした既存大手には、充分な資金力があり、引き続き、優位な地位を保つための投資が可能だ。

アマゾンの自律走行車(Zoox)、さらにグーグル(Waymo)、マイクロソフト(Cruise)のロボタクシーなど。いずれも都市での車を使った市内観光や体験ツアーにおいて、影響力を持つ存在となりそうだ。

次にフォーカスするべきことは?

新しい市場環境を迎えるなかで、ビジネスをどう切り開いていくべきか。スタートアップなのか、既存大手なのか、それぞれの立場で解は異なるものの、共通しているのは、マーケットにおけるポジショニングにズレが生じるのは必至であり、その調整が不可欠であることだ。

見直しが必要なのはプロダクトそのもの、という場合は(大半のOTAや車を使った観光ツアーのオペレーターがこれに該当する)、急いだほうがよい。(少なくとも、情報の収集や学習に最大限、力を入れること。例としては改革チームを組織し、すべてに対応できるよう体制を整えるなど)。

マーケティングの見直しが必要であれば(車を使ったツアーには直接関係ないオペレーター。例えば、観光アトラクション施設、ホテル、ツアーガイドなど)、しばらくは状況を静観し、今後の動きを見守るのがよい。巨大企業どうしの競争が激化し、最高のパフォーマンスを最小限の価格で提供します、という申し出をあちこちから受けるようになるからだ。顧客企業の争奪戦が続く間は、急いで動く必要はない。ただし、何が起きているのか、よく把握しておくことは重要だ。特に、対象期間が長期におよぶテクノロジー契約を結ぶのであれば、慎重を期したい。

※編集部注:この記事は、英デジタル観光・旅行分野のニュースメディア「DestinationCTO」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

※オリジナル記事:Metaverse, decentralisation (web3) or autonomous vehicles – what should your focus be?

著者:アレックス・ベインブリッジ(DestinationCTO 創設者)

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