脱クッキー時代に旅行マーケターが知っておきたい変化、データで消費者を知るカギを取材した

ヤフーは昨秋、ライブ配信イベント「Yahoo! JAPAN MARKETING CONFERENCE 2021」を開催した。世界的に高まるデータ・プライバシー保護の潮流により、マーケティング・広告領域で想定される変化について、パネルディスカッション形式で取り上げた。需要回復が本格化する旅行マーケットにおいても、データを活用したマーケティング・ソリューションは心強い味方になるが、その際、マーケターが注意すべき点などを議論した。

ヤフーのデータマーケティング・ソリューション(DMS)の2021年実績は、右肩上がりで推移し、第二四半期のユーザー企業数は、前年同期比700%増の1700社と絶好調だ。その背景について、ヤフーの取締役専務執行役員CSO(Chief Sales Officer)・MS統括本部長の久木田修一氏は、検索数の増加に加え、あらゆる商品でのEC化、さらに一般消費財では定期購入化も加速しているなど「パンデミックによる生活環境の変化で、消費行動が変わったこと」、さらにヤフー側でも「これまでに蓄積したビッグデータを使い、クライアント企業に色々な提案ができるようになった」(同氏)ことを挙げた。

また、専門的なデータサイエンスの知識がなくても、営業担当者が必要なマーケティング支援機能を自由自在に引き出して活用できるユーザー環境も整えてきた。「DS.INSIGHT」は、顧客企業がヤフーの検索、人流などのビッグデータを調査・分析できるツール。これをベースにして作成された、データ分析が可能となる「DS. LIBRARY」は春から提供予定という。

だが一方で、巨大デジタル企業に対しては、プライバシー保護を求める動きも加速している。2023年末には、これまでネット上でのリターゲティングやパフォーマンス計測に利用されてきたサードパーティ・クッキーが使用不可能となるなど、データ管理のあり方も転換期に差し掛かっている。

「Cookieレス時代のその先へ-生き残るためには何が必要なのか?」と題した今回のパネルディスカッションでは、マーケター側の代弁者として、大手外資系メーカーを始め、国内外の企業でマーケティング部門を率いてきた音部大輔クー・マーケティング・カンパニー代表取締役と、ヤフーのデータ戦略を統括する谷口博基CDO(Chief Data Officer)が登壇。サードパーティ・クッキーが使用不可になって変わること、変わらないこと、これからのデータマーケティング・ソリューションの課題、マーケターの役割などについて話した。

「欲しい理由」と「買う理由」

パンデミックに端を発する消費行動の変化や、プラットフォーマーに対するサードパーティ・クッキーの使用制限が広がる現状について、谷口氏は「マーケター受難の時代」と評し、これまでの経験やセオリーが通用しづらくなる上、消費者をトラッキングする技術への風当たりが強くなり、より厳しい方向に進むとの見方を示した。

音部氏は、クッキーが果たしてきた役割について、購買行動における「買う理由」を把握するには有益だが、マーケティングのより本質的な役割は、実際の購買行動より前の「欲しい理由」を作ったり、提供したりすることだと指摘、今後も「マーケティング担当者がやるべきことは、実はそれほど変わらない」との持論を展開。ただし、「(購買に至る)結実のところで、今までとは違うアプローチになってくることはあるかもしれない」と話した。

「買う理由」とは、「例えばビールが欲しいと思っても、すぐ買うわけではない。今日は発泡酒ではなくビールを買っても良い理由、あるいは発泡酒を買う時にも、アルコールを飲んでよい理由を探しているものだ」(音部氏)。

サードパーティ・クッキーが使えなくなる時代に、より重要になってくるのは、「購入ポイントだけに注目するのではなく、全体像をちゃんと見ること」だと音部氏は説く。

今後も使用可能なファーストパーティー・クッキーを活用することも、「どのタイミングで、どう欲しくなったのか?その後、どのぐらい時間を経て、どういうモーメントで購買に至ったのか?」(同氏)という全体の流れを把握するのに役立つとの見方だ。

クー・マーケティング・カンパニー代表取締役 音部大輔氏

さらに、大半のものは、リピート需要があるので、購買後のユーザー動向を追うことも、ブランディングにおいて大切だと音部氏は話す。「購買後にどのように使い、どういう愛着を感じているか?」(同氏)。究極的には、周囲の人に宣伝してもらえるぐらい、気に入ってもらうことが目標で、この全体サイクルを管理できるかどうかが、とても重要になるからだ。

谷口氏はデータ収集の観点から、「(購買に至る)最後の方の動きが見えにくくなるので、それ以外のデータをしっかり分析し、読み取ることが非常に重要になる。またデータが減ることになるので、自分の目で直接、消費者をしっかり観察したり、分からない部分を想像してみたり。そういうマーケターの基礎体力的な部分と、データを合わせて活用することが必要になる」と話した。

データは過去も忘れない

「点ではなく線」、「全体を把握することが必須」という時代に向かうなかで、データとの向き合い方として音部氏が提案したのは「ロイヤルユーザーを、きちんとデータで理解すること」だ。

企業のマーケティング担当者として、また最近ではコンサルタントとして、様々な課題に向き合ってきた音部氏は、「成長に必要なのは新規ユーザー。ロイヤルユーザーの話はもういい」という意見を度々、聞いてきたという。だが「新しいユーザーは、今のロイヤルユーザーにかなり似ている人たちになる可能性が実は高い」と指摘。全く違うタイプを狙っても、結局、満足してもらえないことが少なくないという。「ロイヤルユーザーをよく理解し、彼らによく似た新規ユーザーを探しにいくことは、データの使い方としてあり得る示唆かと思う」(音部氏)。

こうした顧客理解に役立つデータとなるよう、ヤフーでは、集積データを大きく4つのカテゴリーに分類し、ターゲット客層について、より立体的、多面的に捉えられる体制を構築している。まずデモグラフィックなど、ペルソナが分かる基本情報、さらにメディア系サービスや検索動向から分かる興味や関心、地図やカーナビから得る位置情報や行動範囲、そして購買や決済データである。

ヤフーが誇る圧倒的なユーザー規模に加えて、LINEやキャッシュレス決済「PayPay」など、Zホールディングスのグループ総力を駆使して、オンライン・オフラインのあらゆる機会を縦横無尽につなぐデータ・ソリューションを提供できる現体制は、むしろこれからのクッキーレス時代にこそ、その真価を発揮すると自負している。

「もう一つ付け加えると、ヤフーではこうしたデータを過去にさかのぼり、時系列で保有している点も大きな強み」と谷口氏。すなわち、今のロイヤルユーザーが新規ユーザーだった頃のこと、それがどのような変遷を経て、現在に至るのかを読み解くことが可能なデータが揃っている。

データの利点について、音部氏は「人間は忘れるが、データは忘れることがない。時系列をさかのぼって、どうだったか分かるのは、行動ログ・データの重要な側面の一つ」と話す。膨大な予算を投じてアンケート調査を行っても、本人が思い出せないことは答えてもらえないのが決定的な弱点だが、データがこれを補ってくれる。

実際、ヤフーのデータは、例えば特定の商品の購買行動が変わったときに、データをさかのぼって分析し、行動変化の起点をつかむことに役立てることもできるという。

谷口氏は「消費者の行動パターンは、まだ変化の途上にあり、これからも変わり続けるので、しっかり観察し、想像することが不可欠だ」と指摘。ユーザー像が立体的に把握できるデータの活用はこれからの時代、不可欠になるとの考えを示した。

ヤフーCDO 谷口博基氏

目標地点を明確に示す

コロナ禍の影響でより大きく変化しているのは、「買う理由」よりも「欲しい理由」の方だと音部氏は感じている。マーケターの立場としては、変化を後追いするだけではなく、「どうしたら社会や消費者、そして事業者、みんなにとってWINWINの方向へ変わることができるのか、それを見定めた上で、より良い方向への変化を促すために、データを活用できたらよい」と話し、未来からの視点を持つ必要性も訴えた。

最後に、マーケターが必ずやるべきこととして、目標地点を明確に示すことが非常に重要だと音部氏はアドバイス。「例えば、どこかの目的地に向かう時、飛行機を利用するからといって、飛行機の操縦まで勉強する必要はないですよね。ただし、この目的地を目指すなら、電車より飛行機を使ったほうがよさそう、という感覚は持っていた方がよい。データ設計の細部まで把握する必要はないが、どのモーメントで、どういうデータを使うかを指示するのもマーケターの仕事。分からなければ、運転手さん、つまりデータ管理しているヤフーに聞けばよい」。

これに対し、データ管理の立場から谷口氏も「一番難しいのは、何かやりたい、という(曖昧な)リクエスト。ここに行きたい、と言われたら、では最初に飛行機に乗りましょうとか、実は電車の方が早いのですよ、と正確に提示できるのがデータの専門家。マーケターの皆様からは、まずゴールを明示していただけると嬉しい」と同意した。

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