世界の旅行者に支持される観光局サイト10選、米観光産業ニュースサイトが選定したベスト・デザイン【外電】

時代遅れなウェブサイトだと思われないように、世界の観光地は日々、ベストを尽くしている。パンデミックを経て迎えたデジタル時代、旅行者が当たり前だと思う期待値が、ますます高くなっているからだ。

昨今の旅行者のほとんどは、オンラインで見た情報を参考に、旅行に関するあれこれを決めている。テーマのある旅から格安グルメツアーまで、旅の候補地に関する事前情報を求め、ネットサーフィンしながら、新しいこと、面白いところを探している。

あまりにも急激な旅行需要の回復ペースに加え、待つのが苦手で、思いついたらすぐ行動したいポストパンデミック期の旅行者たち。こうしたなかで、観光ウェブサイトのデザインは、いっそう重要になっている。ライバルとの競争を制するべく、デザイン面でも野心的な試みが目立つ一方、旅行のインスピレーションを掻き立てる手段として、デジタル・プラットフォームを重視する傾向は、ますます強くなっている。

Z世代では、関心事が移り変わるサイクルが著しく短期化しているのも特徴的で、買い物と同じく、バケーションを計画するときも、何かを選ぶのに費やす時間は、目に入ってから数秒程度が勝負だ。

つまり、観光局も徐々に、以前のやり方ではもう通用しないことを理解するようになっている。例えば、スクリーン上にぎっしり並ぶ文字情報、あちこちのページを探す羽目になる動線、時間も手間もかかるナビゲーション、ぱっとしない色彩、宣伝中心で、旅行者が本当に知りたいことに答えてくれない内容など。気候変動などの問題に関心が高い旅行者であれば、なおさらだ。

一方、デジタル分野が急速に発展したこの2年間を経て、退屈なワンパターンから抜け出した秀逸なサイトもある。このほど、米国の観光産業ニュース「スキフト(Skift)」は、観光ウェブサイトの2022年度ベスト・デザインを選出した。ビジュアルもナビゲーション機能も、かゆいところに手がとどく仕上がりで、今の旅行者が求めるもの、その思考回路、そして最も重要な行動様式をよく理解しているサイト10選を紹介する。

1. アイスランド観光局(Visit Iceland)

アイスランド観光局(Visit Iceland)ウェブサイトより

ミニマリスティックですっきりした北欧風のグラフィックデザインは、ビジュアルの訴求力が高く、発信しているメッセージは簡潔で明確、ユーモアもある。あっと言う間に、見た人の心を捉えてしまうほか、ネットならではの効果的な表現もある。ベスト10に選ばれたリストの最上位、アイスランド観光局のサイトは、トップページ上の美しいアニメーション表現や、テキスト内容とともに変わる背景イメージなど、静止画像よりもライブ感があり、見る人の興味をそそる仕掛けになっている。

画面の下へと進むと、ドロップダウン・メニューがあり、縦に並んだ各項目のリストは、上下にスクロールできる。背景はクリーンな白一色、そこに黒いボールド体(太字)の大文字を使っているので、情報を探しやすく、選択肢の数に圧倒されることもない。ブログ記事で取り上げている様々なモデルコースや、アイスランド旅行のアドバイスは、Youtubeに似たフォーマットで紹介。モバイルフォンでも視聴しやすいカルーセル・スライダー形式でまとめられている。

グリーンな旅行に関する情報提供も、高評価の理由の一つだ。同サイトでは、丸々1ページを使って、アイスランドが推進する自然保護活動への支持を旅行者に呼び掛けており、環境関連の認証を取得している事業者リスト、排出ガス総量の計算機能、サステナブルな旅行をするためのアドバイスなどを掲載している。

2. カリフォルニア州観光局(Visit California)

カリフォルニア州観光局(Visit California)ウェブサイトより

一見、よくあるトップページだと思うかもしれないが、「カリフォルニアを体験する(Experience California)」のレイアウトは、これまでに見てきた観光局サイトの中でも、最高レベルの見事なデザインだ。ランディングページにアクセスしたら、すぐに左へスワイプしてみよう。すると、カリフォルニアの見どころを3次元空間で紹介するページが現れる。意外にも単純明快で、サイト内をナビゲートしやすく、ユーザーを飽きさせない工夫が感じられる。

ミレニアル世代やZ世代にとって、デザインや美的センスは、デスティネーション情報や旅行ガイドと同じぐらい重要なポイントになる。インタラクティブなビジュアルや、大胆な色使いは、バケーション先としてのカリフォルニアの魅力、例えば、世界中の文化が集まっていて、デザインやテクノロジー分野で最先端の産業都市であることを、雄弁に語りかける。こうして、カリフォルニアへの旅を検討中の人が持つイメージが、さらに膨らんでいく。

ロサンゼルスを抱える州であり、インフルエンサーも数多く暮らすデスティネーションらしく、カリフォルニア州観光局では、プロモーションツールにユーザーから発信されたコンテンツも多用。こちらも見やすく、分かりやすいフォーマットで掲載している。

3. チューリッヒ観光局(Zürich Tourism)

チューリッヒ観光局(Zürich Tourism)ウェブサイトより

北欧風のグラフィックデザインやユーザー提供のコンテンツといえば、チューリッヒ市の公式観光サイトも模範事例の一つ。ここでも真っ白な背景スペースをうまく活かしている。使用している書体はサンセリフ体(日本語のゴシック体のように、文字の線の端や飾りが"ない"書体)、色は2~3種類に抑えたクールな色調とし、極めてシンプルかつクリーンなレイアウトは、見る人をほっとさせる。サイト内にある様々なアクティビティ情報を見て回る合間に、一息つくところにもなっている。

掲載されているアクティビティやレストラン、バーの下には、各施設が現在、営業しているか、その店の特徴などを掲載。急な日帰り旅行や、間際に場所を探している人には、非常に便利だろう。

ユーザー提供コンテンツのページは、明快なデザインで案内している。同セクションへ飛ぶには、ページの最上部に表示されたハッシュタグをクリックするだけ。そこには、あらゆるソーシャルメディアのフィードが全てまとめて掲載されており、フェイスブック、ツイッター、インスタグラムなどの画像が集まっている。

4. ブラジル観光局(Visit Brazil) 

ブラジル観光局(Visit Brazil)ウェブサイトより

トップページには、全ての情報やリンクが集まっており、ここから計4つのセクション、体験、デスティネーション、各地域、旅行情報へと移動する流れになっている。

見た目に印象的なのは、鮮やかな黄色い枠。ここでは様々なアクティビティの動画や画像を掲載しているほか、インスタグラムのコンテンツだけを集めたセクションもある。作り手側は、ブラジルにやってくる旅行者をよく理解しており、例えばアドベンチャー体験を探している人向けには、挑発的な動画コンテンツで訴えかけている。

トップページ全体を使って表示される動画も迫力があり、アクセスしてきた人を、一目で釘付けにする。全体的に、アドベンチャー系のアクティビティのPRに力を入れているが、「楽しい」だけでなく、「必須事項」についても触れてバランスある仕上がり。ブラジル旅行を計画している人に、必ず知っておいてほしい安全情報も、すぐに分かるところに表示している。

5. ニューヨーク市観光局(NYC & Company)

ニューヨーク市観光局(NYC & Company)ウェブサイトより

ニューヨーク市といえば、周知の通り、州になってもおかしくない規模がある。旅行者が体験できることも盛りだくさんで、一つの国ぐらいあるかもしれない。

そんなニューヨーク市観光の公式サイトは、まるで予約サイトのようなデザインで、最大の特徴は、昨今の旅行者なら誰でも使い慣れているユーザーエクスペリエンス(UX)フレームワークだ。短期レンタル物件や航空券予約サイトによく似たホテル・宿泊施設の検索エンジン、投稿や記事に「いいね」を付けて、後で参照できるように保存する機能、自分の条件に合った場所やアクティビティを絞り込む検索フィルターなどがある。

サイト全体では、ポップなグラフィティー風の太字書体を使用。同じ書体を使い、サイト全体を簡潔な印象でまとめているのは、文字量が多いことへの配慮でもある。一方で、市内のあちこちで目にするビルボードをさりげなく連想させる効果もあり、美的センス抜群だ。掲載されている情報量はかなり膨大だが、その配置やプレゼンテーション方法がうまいので、見た目はすっきり落ち着いている。

6. フィンランド政府観光局(Visit Finland)

フィンランド政府観光局(Visit Finland)ウェブサイトより

ロゴ、デザイン全般、書体のチョイスなどあらゆる面で、あの超人気民泊予約サイトによく似ているのがフィンランドの公式サイトだ。ユーザーに馴染みがあり、ビジュアル面でアピール力が高いサイトを作るのであれば、人気サイトのデザイン要素を参考にすることは、むしろプラスに働く。

サイトの使い勝手は、スムーズで透明性があり、もちろん、使い慣れているユーザーもいるだろう。ナビゲーションがシンプルになるように細部まで工夫されている。今回、選ばれた北欧の他サイト同様、こちらも余白スペースを活かしたミニマルなデザイン。画面いっぱいに写真や画像を表示し、見る人を圧倒する迫力は、このサイトの特筆すべき部分だ。スクロール操作が快適で、サイト内をあちこち見て回る時にストレスがない点も優れている。

フィンランドで体験できる様々なアクティビティや地域が掲載されていて、気に入ったものはハートのマークをクリックして保存できる。こうした機能は、オンライン・ショッピングやピントレストでお馴染みで分かりやすい。特に、いつもソーシャルメディアで投稿や誰かのアイデアを「保存」しているZ世代にとって使い勝手がよさそうだ。

7. オーストラリア政府観光局(Tourism Australia)

オーストラリア政府観光局(Tourism Australia)ウェブサイトより

これまで見てきたサイト同様、オーストラリアのウェブサイトでも、タイル式のフォーマットを用いている。使いすぎると不格好になるが、四角い枠がセクション別にまとめられて並んでいるので統一感があり、旅行プランニング中のユーザーには使いやすい。ホームページには、カルーセル方式で左から右へとスライドする画像が並ぶ。モバイルフォンで表示しやすい縦長の長方形なので、若い世代には違和感がないだろう。

ドロップダウン・メニューも、デザイン的に秀逸だ。大量の文字情報で埋め尽くすのではなく、タイル枠を使ってメニューのオプションをきれいに仕分けしており、ユーザーを混乱させない。また、美しい画像が随所にちりばめ、見る人を飽きさせない工夫は、デスティネーション・マーケティングの真骨頂であり、観光組織としての究極の存在意義にも叶っている。

オーストラリア政府観光局のウェブサイトには、旅程のモデルコース、文化体験の内容や地域別のアクティビティ、旅費に関すること、宿泊施設のお得情報など、何でも揃っている。旅行者にとって、予算は重大な関心事なので、こうした情報が観光局サイト内で入手できるのは大きなプラス材料になる。ユーザーが、「もっともお得な価格」を探して、他のサイトやプラットフォームに移動してしまうのを防ぐこともできる。

だが、同サイトの中で、一番のハイライトは「8Dで体験するオーストラリア(Explore Australia in 8D)」のセクションではないか。オーストラリアの地図の上を移動しながら、各地域を探検できるインタラクティブな8Dオーディオ動画体験で、周辺の島もいくつかも含まれている。現地の様子や、そこで楽しめること、観光の見どころ、宿泊やグルメ情報まで網羅している。

8. ペルー観光局(Peru)

ペルー観光局(Peru)ウェブサイトより

ここ数年、旅行先として注目が高くなっているペルーでは、コロナ禍での安全対策や観光規制について伝えることにも力を入れている。最初に表示されるランディングページでは、ペルー旅行で準備することをまとめたページへのリンクが、すぐ目に入るところに表示されるほか、最新のコロナ関連ルールを確認するよう、何度も促される。これほど周知徹底しているのは、当局が安全対策に真剣に取り組んでいる証であると同時に、海外からの旅行者に対して「検査やワクチン接種義務」をクリアすれば、ペルーを訪れてよいというメッセージにもなる。こうした規制は、今も旅行者にとって不安材料になっている。

また、これまでにペルーを取り上げた数々の記事や、優れた観光デスティネーションに贈られるアワードの受賞歴なども、サイト上で大々的にアピールしている。

同ウェブサイトの最大の注目ポイントは、「ペルー360°」と名付けたVRページだろう。バーチャルリアリティ空間の中にあるペルーの様々な観光名所を”訪問する”ことができる。パンデミックを経て、こうしたテクノロジーを活用する企業は増えているが、観光局の公式ウェブサイトは、まだ画像や動画が中心で、インタラクティブなバーチャル体験を効果的に取り入れているところは少ない。

9. ビジット・イタリア(Visit Italy)

ビジット・イタリア(Visit Italy)ウェブサイトより

イタリアといえば、いつの時代も観光客に大人気のデスティネーションだ。もちろんイタリア側もよく承知しており、ウェブサイトではトップページから、有名観光地を検索したり、予算を考えたり、お得な価格で観光アトラクションを予約できる仕様になっている。わざわざページの下までスクロールする必要はほとんどなく、サイトにアクセスすると、まず名所旧跡の入場券や各種チケットが並ぶカルーセルが表示され、実際の販売価格もチェックできる。

デザイン的に、先鋭的な試みはないものの、ユーザーの使いやすさを最優先したフォーマットになっており、旅行計画で必要な情報へのリンクボタンやタイル型カルーセルなど、全体を通じて、情報量が膨大であるにも関わらず、ナビゲートが分かりやすい。

このウェブサイトの作り手側は、ユーザーが求めているものをよく理解している。例えば、長い行列を回避する方法やお買い得価格、世界的に有名なイタリアの都市で、最高の時間を過ごすためのヒントなどだ。美しい画像からインスピレーションを得ることより、具体的なプラン作りや予約に役立つ情報を探している旅行者にとっては、まさに理想的なサイトだ。検索エンジン機能もあり、探している内容次第では、躊躇なく、他の予約サイトへ誘導してくれる。

10. グリーンランド観光局(Visit Greenland)

グリーンランド観光局(Visit Greenland)ウェブサイトより

グリーンランド観光局のウェブサイトも、誰もが知っている検索エンジンによく似ている(今回選ばれたサイトの多くに共通する傾向だ)。ただし、同サイトの場合、旅行のインスピレーションと、現地のローカル情報紹介が主な狙いとなっている。レイアウトはシンプルで、余白スペースをたっぷりとることで、ユニークなグラフィックデザインを際立たせている。

3Dのイラストは見ていて美しいだけでなく、それぞれの情報ページへ飛ぶリンクの役割も担っている。

地域別、カルチャー別に分類した内容構成に加えて、各種パッケージツアーも掲載。ここからは外部サイトにもリンクしており、旅行を検討している人が、さらに詳しく、具体的なプランニング段階へと進めるようにしている。グリーンランドといえば、大自然が魅力のデスティネーションなので、ウェブサイトでも、アウトドア体験の紹介には力を入れている。興味関心や地理的なロケーション別に、現地でできるアクティビティが検索できるようにし、旅行者が選択肢の多さに混乱することがないよう配慮している。


デジタル空間では日々、新しいイノベーティブな手法が登場している。ウェブサイトのデザインもこれを追いかけながら、できる限り、時代に即した仕様を取り入れて、引き続き、旅行プランニングの領域で必要とされる存在を目指している。

今回、リスト入りしたウェブサイト以外にも、ユニークな試みに挑戦している観光組織は複数あり、旅を渇望しているポストパンデミック期の観光客の関心をひこうとがんばっている。例えば、ケープタウンの「バーチャルゲーム・観光キャンペーン」は、インタラクティブなゲームを取り入れた施策の一例で、若年層にアピールし、潜在的な旅行者向けに、現地をバーチャル体験してもらおうという趣旨だ。

「マチュピチュ360°」のウェブサイトでは、VR空間を楽しんでもらおうと、聴覚刺激装置まで用意。前述のペルー360°より、さらに一歩進んだ取り組みだ。視覚と聴覚、両方に働きかけるものなので、コロナ禍で旅行できない時間の穴埋めとしても一役買っていた。

観光系ウェブサイト間の競争激化に加え、ウェブサイトよりもモバイルアプリが脚光を浴びる時代の到来もあり、観光当局やプラットフォームのデザイナーにとっては、進化著しいデジタル空間から目が離せない日々がもうしばらく続きそうだ。

※編集部注:この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:The 10 Best Designed Tourism Websites in the World 2022

著者:メアリー・アン・ハ(Mary Ann Ha)氏

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