旅行は、人の「移動」の組みあわせで成り立つものだ。その経路の選択によって、旅行体験は大きく変わる。かつて、旅行における経路・行程の作成は、旅行会社やバス会社など旅行のプロの経験による業務である部分が大きかった。しかし、現在では、技術の向上によって旅行者や観光事業者がナビゲーションサービス(経路検索サービス)を利用するのが珍しくなくなっている。プロの仕事を代替する経路検索サービスは、どのように提供されているのか。
2022年8月18日に開催した「トラベルボイスLIVE特別版」では、経路検索サービスを提供するナビタイムジャパンの地域連携事業部長・藤澤政志氏が出演。ナビゲーションをはじめとする同社の各種サービス・技術を紹介しながら、その仕組みと開発の裏側を説明した。
経路検索サービスとは?
経路検索サービスとは、出発地点と到着地点の情報をもとに、条件にあった移動経路を出すサービスのこと。藤澤氏によると、ナビタイムでは電車やバスなどの公共交通機関だけではなく、徒歩やシェアサイクル、車、タクシー利用など、様々な交通手段をあわせた複数の結果を提案する。そこには、乗車する列車のホーム番号や乗り換えに便利な乗車位置など、ルートに関連する各種データも付加している。
また、経路検索サービスの提供には、3つの要素が必要だという。それは、地図やスポット、時刻表などの「各種データ」と、経路検索をするための演算処理をする仕組みの「経路アルゴリズム」、経路検索をするための各種条件を指定し、必要なデータを取得する「データ出入力機能」だ。
これら3つの要素の組みあわせで、「ルート検索」や「地図」「住所検索」などの基本機能や、「スポット検索」「リアルタイム情報」などのオプション機能を作成。さらにそれらを組み合わせ、BtoCやBtoB、BtoG(公的機関)向けのサービスを開発している。
例えば、先ごろリリースした旅行業務支援クラウドサービス「行程表クラウド」では、貸切バス(大型車・中型車・小型車)を含む車と公共交通、徒歩、自転車を組みあわせた旅程のルート検索を提供。ツアーなどの行程表の作成を全国のスポット情報から検索・選択し、ルート検索を出すまで、3つのステップで可能にした。
つまり、経路検索サービスは移動を支援する各種機能やサービスの集合体である。ナビタイムでは「どういうサービスがあれば世の中のニーズに叶うのか、ヒアリングなど調査をして、開発するサービスを決めている」(藤澤氏)という。
最新技術を支えるアナログな作業
経路検索サービスで用いるデータには様々なものがある。地図や時刻表、スポットなどの静的な情報だけでなく、電車運行情報、気象、交通規制情報などリアルタイムのデータまで、あらゆる情報が必要だ。
そしてこれらの情報は、正しい内容をどれだけ網羅しているかも重要。しかし、必要なデータがそれぞれ、デジタルでの活用に適した形式で管理されているとは限らない。
例えば、路線バスの時刻表は事業者ごとにデータ管理が異なり、いまも紙ベースで管理する事業者も少なくない。また、バス停は複数路線が乗り入れている場合、停留所の名称が同じであってもポール(バス停の標識)の建つ場所が複数ある場合も多い。スムーズな移動を支援するためには、地図上に各ポールの位置を表示することも重要だ。
ナビタイムではこれらのデータを正しく管理するため、データがない場合は現地のバス停まで行って直接取得。国内すべての路線バス(全国511の路線バス会社)とコミュニティバス(1170自治体)をカバーした。
また、ユーザーには経路選択で様々な要望がある。例えば「道幅が狭い地点や角度が厳しい交差点・カーブ」「スクールゾーン」「事故多発地点」などを事前に知りたいという声だ。要望を実現するため、未整備のものがあれば、1つ1つ調べて取得する。経路検索サービスの事業者は、こうしたデータをそれぞれ収集して作成し、サービスを提供しているという。
主流はローカル検索、MEO(地図検索)へ
藤澤氏は、最近のトレンドとして「〇〇駅近くのコンビニ」など、ローカル検索のニーズが高まっていることを説明。ナビタイムの場合、ローカル検索が以前に比べて350倍くらい増えているといい、「地図が目的地を探すツールから、周辺の何かを探すツールへと代わっている。地図上での検索ニーズに対応する策をとらなければ、(自社の)情報が消費者に届かない時代になっている」と注意喚起した。
トラベルボイス鶴本も、今後、ますますタビナカの重要性が増していくことを指摘した上で、「MEO(Map Engine Optimization:マップエンジンの最適化)」に言及。「タビナカで旅行者が頼りにするのは地図。今後は、地図検索で情報を出すことが重要になる」と話した。
また、藤澤氏は、ナビタイムでは経路検索サービスで把握できるデータを活用していることも紹介。例えば、ユーザーの「位置情報」は、混雑度合を示すデータや需要予測としても活用しており、最近ではプロ野球球団等の依頼で球場最寄駅の混雑状況を示し、帰宅時のラッシュ分散を促すサービス提供も開始した。このように、経路検索サービスの要素や動態データ、データ分析技術などを、事業者や地域の課題解決に向けたソリューション提供やコンサルティングにも活用しているという。
藤澤氏は、経路検索サービスの考え方として「当社は、最短ルートではなく、“最適ルート”を出すサービスと捉えている。最適なルートは人や地域によって異なる。何が最適かを考えることが大切」と言及。昨今は、観光面でもサステナブル、環境配慮が求められる時代になっているが、「地域には観光客に通ってほしい道があると思う。そこを整理し、(経路検索サービスの活用で)推奨することも解決策の1つだと思う」と可能性を示した。