JTBコミュニケーションデザイン(JCD)が提供するデジタルマーケティング分析「AIアナリストforツーリズム(AIT)」は、ログ解析ツール「Googleアナリティクス」と連携したツーリズム産業向けのウェブサイト解析ツールだ。観光プロモーションの実績豊富な同社のノウハウを存分に組み込み、サイト改善や効果的なプロモーションを支援する。2020年10月から提供を開始し、観光事業者や地域で実績を生み出してきた。JCD担当者に、ツーリズム産業におけるウェブ解析の重要性とAITの実力を聞いてみた。
制作から分析・検証まで一気通貫サービスを提供するJCD
JCDは、ツーリズム領域を中心とした総合プロモーション企業。クリエイティブの制作から、戦略プランニング、デジタル広告運用まで、情報分析とコンサルティングも含めて、ワンストップで提供している。オフライン・オンライン双方で事業を展開しているが、同社コーポレートソリューション部コミュニケーションプランニング局の有吉正大氏は「最近では、ネットを通じたプロモーション案件にすっかり軸足が移った」と話す。
2022年の全国旅行支援では、JCDとして地域のデジタルプロモーションや成果分析を担当。オンライン広告の展開に加えて、広告接触者と実際に現地に足を運んだ訪問者の検証、性別や年齢などの属性や訪問先などの可視化をサポートした。
また、インバウンド市場分析も得意分野の一つ。日本政府観光局(JNTO)の案件として、2018年から2022年までに広告プロモーションや新クリエイティブ制作およびサイトリニューアルを請け負った。2022年には世界38市場でサイト分析・計測も実施し、サイト訪問者の行動変容やクリエイティブによる効果の違いなどを検証したという(同社コーポレートソリューション部コミュニケーションプランニング局エグゼクティブ・プロデューサー大久保氏)。
有吉氏は、同社の強みとして、「クリエイティブ制作からサイト構築、その後の分析・検証まで、一気通貫でサービスを提供できるところ」と自信を示す。
ツーリズム産業特化型AIT開発の背景とは
デジタルソリューションで数々の実績をもつJCDが、サイト解析ツール「AIT」を開発した背景には観光産業が抱える課題がある。オンラインでの情報収集やチケット購入、宿泊予約が主流となった現在、企業や自治体の規模に関わらず、デジタルマーケティングの強化は不可欠となっている。しかし、専任のデジタルマーケターが在籍していない、あるいは複数の業務を抱えながらサイト運営を兼任しているケースも多いのが実情だ。
そのなかで、AITは、ツーリズム産業に携わる誰もが使いやすい業界特化型のサイト解析ツールとして開発された。「Googleアナリティクス」は無料で利用できるが、そこにパートナーであるWACUL社が持つ約3万8000サイトの情報をビッグデータとしてAI化した「AIアナリスト」を活用。さらに、操作に高度な知識と慣れが必要となるGoogleアナリティクスの最新版「GA4」にも対応し、利用者をサポートする。
ウェブサイトは、消費者との重要なタッチポイントであり、「数ある情報のなかから選んでもらうためには、効果的なプロモーションによる自社サイトへの流入とともに、サイト自体がしっかりとコンバージョン(オンライン上の予約や申し込みなど)に結びつくものでなければならない」(有吉氏)。自社サイトに集まるデータを分析・検証して、PDCAを回し、新たな打ち手を実行していくことが求められている。
AITで可視化されることとは?
では、具体的にAITでは何が分かるのか。
基本的なところでは、サイトへの訪問者数、コンバージョンレート(成約率:CVR)、ユーザー数、流入元など、アクセス解析を行う上で特に重要な数値をグラフ化してレポートする「サイトレポート」。週次や月次ごとに自動的に更新され、専門知識がなくても直感的にサイトの状況を理解することが可能になっているため、例えば「先週から始めた広告施策の影響」なども一目瞭然となる。
また、検索からの流入を増やすSEO(検索エンジン最適化)対策にも有効な機能を有する。観光地名など狙ったキーワードで検索上位に掲載されるための対策が、現状で十分に取られているかをスコアリングで評価する「SEO提案」、またGoogle検索においてクリック数が多いキーワードの主要指標やコンバージョンなどを確認できる「SEOレポート」などがある。
ツーリズムでは発地の観点から、アクセス元の把握も重要だ。AITでは、これもグラフ化。商圏の分析が可能になることで、広告プロモーションでのターゲティングの確度も上がる。日本国内に加え、海外からのアクセス元の把握も可能なことから、インバウンド施策でも利用価値は高い。
「ユーザーファネル分析」というAITの独自機能では、サイト訪問者の流入元やコンテンツの認知から、関心・興味の度合いを可視化する。それにより、最終的に目標とするコンバージョンへの到達数や率を追うことができる。
さらに、GA4対応版より「サイト提案」という新機能も加わった。これは、ウェブサイトを類型化し、各サイトの目的に沿って必要な要素が作られているかをスコア診断する機能。つまり、コンバージョン向上に向けたUI/UXの改善をサポートするものだ。例えば、ファーストビューに設置すべき要素やサイト内回遊導線の設置など、どこにどんな課題があるかを即座に見つけることができ、改善ポイントを特定することができる。今秋には、ツーリズムサイトに特化したフォーマットもリリース予定だ。
AITの特長は、機能性に加えて、グラフ化による視認性にもある。各レポートをダッシュボード化することで、「社内で分析結果や課題を共有しやすく、例えば現場担当者が上長に説明しやすい」(有吉氏)といったメリットもある。
AIT導入にあたっては、「まずサイトの目的がどこにあるのか、それを達成するためには何が必要なのかをヒアリングする」と有吉氏。AITを導入した後は、運用に慣れるまでJCDが伴走し自走に向けてサポートするオプションも用意。専門コンサルタントによる改善提案などの相談にも対応する。
AIT導入の2つの実例、「ガーラ湯沢」と「あまがさき観光局」のケース
AITをより理解するために、コンバージョンが異なる2つの事例を見てみる。
まず、コンバージョンポイントがはっきりとしているスキーリゾートの「ガーラ湯沢」。課題は、自社サイトの運用・分析ができる人材が社内にいないなかで、リフト券の事前販売の促進に取り組むこと。その課題解決に向けて、2021年にAITを導入した。
有吉氏によると、AITでのアクセス解析により、サイト内でのリフト券事前購入ページまでの導線に課題があったことが分かった。顧客の目につきやすい適切な場所に適切なリンクボタンを配置したところ、遷移率が向上。リフト券の事前購入者が増加した。
次に、サイトの活用方法が不明確という課題感を持っていた「あまがさき観光局」。一般企業とは異なり、目的は地域の魅力発信による誘客であるため、旅行者に合わせた適切なコンバージョンポイントの設計が難しい。
そこでJCDでは、AITの分析レポートでSNSからの流入情報の分析、SEO対策のアドバイスなどをおこないながら、サイト運用サポートを開始。レビューミーティングを定期的に重ねることで、観光局内でサイトの質向上に向けた議論が進み、PDCAのサイクルを回せるようになったという。AITの導入に合わせた伴奏型コンサルティングが成果を上げた例だ。
ツーリズム領域でのDXをよりわかりやすくサポート
観光DXの必要性がうたわれ続けている。大久保氏は、「AITはそのDXの取っ掛かりのひとつ」と位置付け、「Googleアナリティクスと紐付けることで成果が見えるところは一つの大きなポイント」と強調する。
そのうえで、AITの導入にあたって大切なことは「コンバージョンポイントを整理すること」と付け加えた。例えば、集客したいのか、誘客に向けた仕掛け作りをしたいのか、その目的によってコンバージョンの位置づけは変わってくる。
「目標は、AITの利用者にデジタル化によるメリットを享受してもらうこと」と有吉氏。JCDとしては、JTBグループの知見も取り入れながら、ツーリズム領域でのDXをよりわかりやすくサポートしていく考えだ。
対象サービス:AIアナリストfor ツーリズム
記事:トラベルボイス企画部