エクスペディア新CEOが語った、BtoB強化と、AI活用の「超・最適化」、新体制での今後の打ち手を取材した

エクスペディア・グループは2024年5月中旬、米ラスベガスで毎年恒例のパートナーイベント「EXPLORE 24」を開催した。今年は、新CEOに就任して間もないアリアン・ゴリン氏が同グループの方針を説明。また、新たにプライベート・レーベル・ソリューションとトラベル・パートナー&メディアの事業部門が設立され、それぞれアルフォンソ・パレデス氏とグレッグ・シュルツ氏が担当プレジデントに就任するなど体制強化を印象付けるイベントとなった。

2日間のイベントで見えてきた同グループの力点は、AIをはじめとするテクノロジーへの継続投資とBtoB強化。様々なソリューションがパートナーに紹介されたイベントを現地で取材した。

新CEOが語るAIへの考え方

エクスペディアは、EXPLORE24で旅行代理店、コンシェルジュ、パーソナルアシスタントの役割を兼ね備えた新しいAIアシスタント「Romie(ロミー)」を発表した。

ゴリン氏はCEO就任にあたって実施した記者会見で「エクスペディアは、どのように旅行者に驚きの体験を提供できるかを考えている。そのために、テクノロジー開発へ投資を継続していく」と強調した。

また、イベントの基調講演では「20年以上テクノロジー業界にいるが、これほど急速に何かが動いているのを見たことがない。 私たちのチームは、毎日何か新しいことを発見し、旅行者とパートナーにとって価値を生み出す新しい方法を見つけている。かつて電気が輸送や製造などを変革してきたように、AIは世界に計り知れない影響を与えるだろう」と話し、エクスペディアのAIに対しての考え方を説明した。

エクスペディアがAIで目指す世界は「ハイパーパーソナライゼーション」(超・最適化)だ。検索時間の短縮や最適なリコメンドなど旅行者の体験における摩擦をできるだけ取り除くことだけでなく、パートナーに対しても、マーケットプレイスで在庫をより効果的にアピールできるようにサポートしていく。キーワードは「スピードと機敏性」(ゴリン氏)。

Romieは、旅行代理店に相談するように、旅先や現地での過ごし方などについてリコメンド。自分に理想のホテルをより早く見つけられるように検索フィルターをカスタマイズすることも可能にする。さらに、宿泊するホテル付近のレストランやアクティビティを提案するほか、旅行中の天候の変化や計画の変更が必要な状況も監視し、その都度最適な代替案を提案するコンシェルジュ機能も備える。

一方で、ゴリン氏は「AI自体が魔法を生み出すわけではない。それをどこでどのように使用するかを判断するには、人間の知性が必要だ」とも話し、AIというツールを使いこなすのは、その人次第だという考えを示した。

EXPLORE24の開幕直前にCEOに就任したゴリン氏。

クリエイターのおすすめをアプリで保存できる新機能

また、今回のイベントでは、新たに「Travel Shops(トラベルショップス)」という機能も発表された。これは、インスタグラマーやユーチューバーなどのクリエイターが独自の「Travel Shops」を開設し、一元的におすすめの旅行を共有・保存できるもの。これによって、旅行者は、SNSを横断することなく、エクスペディアのアプリ内で新たな旅の着想を得ることが可能になる。

さらに、クリエイターはTravel Shopsを通じてコミッションを得ることも可能。広告パートナーは、インフルエンサーのチャンネルのスポンサーになり、販売を強化することもできる。

この機能は、特に若者層の旅行予約の入口がSNSになっている傾向に着目して加えられた。ゴリン氏は「インフルエンサー自身にとっても魅力的であり、旅行者にとっても付加価値になるもの」と自信を示す。

会場では、クリエイター自身がTRavel Shopsを説明。BtoB強化の方針が鮮明に

エクスペディアは、パートナーとの関係強化も継続している。ゴリン氏は記者会見で「エクスペディアはOTAであり、テクノロジープロバイダーでもある。旅行者に予約ブランドを提供する一方で、プライベート・レーベルを通じて、パートナーにテクノロジーを提供し、その予約機能をパワーアップする」とその意義を説明した。

「エクスペディアのブランドがそれほど存在感や強みを持たない地域では、地元のOTAで予約する人もいるだろう。そのため、自社ブランドが届かない場所や大きな市場での旅行需要に応えるというこのアイデアは、当社にとってチャンス」との考えだ。

現在のところ、エクスペディア・グループは、OTA、ホテル、航空会社、クルーズなど幅広いパートナーネットワークを持っており、その数は世界で約6万社。今年第1四半期のプライベート・レーベル・ソリューションの取扱額は前年同期比25%増と好調に推移しているという。

プライベート・レーベル・ソリューション担当プレジデントのパレデス氏は会見で、「パートナーは、プロダクトの差別化の機会を探している。適切なプロダクトを適切なタイミングで出す必要がある。エクスペディアの強みは、そのパートナーのサービスやプロダクトを改善するためのデータインサイトを持っているところ」と話す。

イベントでフォーカスワイヤのインタビューを受けるパレデス氏(左)。

BtoB向けのソリューションも相次いでリリースしている。例えば、「Rapid API」では、エクスペディア・グループのすべての宿泊施設へのアクセスを提供することで、どの旅行会社でもエンドツーエンドの予約体験を構築。日本のOTA「一休」も導入し、海外ホテル販売を強化している。

また、エクスペディア・グループのホテル在庫や、その他の旅行商品をパートナーのウェブサイトやアプリに統合し、ワンストップ・ショップを構築する「ホワイト・レーベル・テンプレート」は、アラスカ航空、ユナイテッド航空なの航空会社のほか、マスターカードも導入している。直近では、キャセイパシフィック航空も活用を決めた。

さらに、今回のイベントで、エクスペディアは新たにパートナー向けの広告プラットフォームとして「トラベル・メディア・ネットワーク」を立ち上げた。

広告主は、エクスペディア・グループの内クリエイティブ チーム、広告ツール、オフサイト機能を利用できるほか、Netflix や Disney+ との提携、同社の広範なB2Bネットワークを通じて、エクスペディアのメディア チームと連携してキャンペーンを作成することができる。

エクスペディアによると、旅行者は旅行予約前の45日間で140ページ以上のコンテンツを閲覧するという。メディアソリューション担当シニアバイスプレジデントのロブ・トーレス氏は、「広告主にとって、旅行者がどこにいても、コンテンツを表示することで、認知度を向上させ、最終的に予約まで導くことが、これまで以上に重要になっている」と話し、このソリューションの意義を説明した。

広告主は、写真から台本、ビデオ、音声に至るまで、エクスペディアのクリエイティブプラットフォームを利用することができる。最も重要な点は「エクスペディアのファーストパーティデータを活用すること」(トーレス氏)だ。このデータを分析したうえで、広告機会を特定し、キャンペーン戦略を構築。エクスペディアの専門チームがサポートする。

Travel Media Networkを説明するトーレス氏。

BtoBビジネスを強化する一方で、最近ではサプライヤーが直販を重視する傾向も世界的に強まっている。その点について、トラベル・パートナー&メディア担当プレジデントのシュルツ氏は、トラベルボイスとのインタビューで「複数の流通チャネル戦略をとっているホテルは多い。その戦略に沿うように、テクノロジーを提供して、直販だけが唯一のチャネルではないことを伝えていく」と話した。

また、広告戦略についても触れ、「エクスペディアでの広告展開は、パートナーの認知度向上にもつながっている。そこから、直販につながることもあるが、同時に、エクスペディアのチャネルの強さを証明するものにもなっている」との見解を示した。

シンガポール駐在が長いシュルツ氏はアジア市場を熟知。高まる日本の存在感

今回のEXPLOREでは、訪日市場の存在感が高まっていることもうかがえた。2023年の訪日米国人の約50%がエクスペディアで予約。今夏の検索ランキングでも、東京、大阪、京都がトップ5に入っているという。

一方で、日本発のアウトバウンド需要はまだ弱い。そのなかで、エクスペディアは「いつものそとへ」をタイトルとするTVコマーシャルを制作・放映。イベントでも、エクスペディアのマーケティング戦略としてその動画が紹介された。

本場のカントリーダンスに憧れる女性がエクスペディアで見つけて、向かったのは米国ナッシュビル。日本では馴染みのない都市が選ばれた理由について、シュルツ氏は「日本人旅行者はいつも新しいものユニークなデスティネーションを探している。ナッシュビルは日本ではあまり知られていないが、とても伝統的なアメリカ。いつも新しいものを探すこと。それが旅行というものだろう」と説明した。

また、ブランドマーケティング担当副社長のチャンドレイ・デイビス氏は、「ブランドは過度に意図的であってはならない。ストーリーが重要になる」と話す。

シュルツ氏によると、このコマーシャルの反応はいいという。エクスペディアは、アウトバウンド復活に向けて、日本人旅行者向けのカスタマーサービスも拡充した。

ゴリン氏は会見で、この動画広告に触れたうえで、「日本市場は今後も、インバウンド、アウトバウンド双方で成長の機会があると思う」と期待を寄せた。

トラベルジャーナリスト 山田友樹

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