通販大手のジャパネットホールディングスが長崎市で整備した大型複合施設「長崎スタジアムシティ」が2024年10月14日に開業する。敷地面積は約7.5ヘクタール、中核施設となるサッカースタジアムの周りにアリーナやホテル、商業施設、オフィス棟などを配置し、スポーツ観戦やイベント、買い物、宿泊などさまざまな楽しみ方ができるようにした。開業を前におこなわれたメディア向けの内覧会で、その内部を取材した。
敷地は東京ドーム約1.5個分、JR長崎駅から徒歩10分の好立地
長崎スタジアムシティは長崎市中心部、JR長崎駅から歩いて約10分の川沿いに建つ。もともとは三菱重工業の長崎造船所幸町工場が建っていた場所で、ジャパネットHDが2018年、跡地活用事業に応募して土地の優先交渉権を得て、プロジェクトをスタートさせた。
東京ドーム約1.5個分の敷地の中心には、プロサッカーチーム、V・ファーレン長崎の本拠地としてのサッカー専用スタジアム「ピーススタジアム」(約2万席)を建設。その周りに、プロバスケットボールチーム、長崎ヴェルカの本拠地となった多機能可変型アリーナ「ハピネスアリーナ」(約6000席)、ロビーやレストラン、客室などからスタジアムが望める14階建ての「スタジアムシティホテル長崎」(全243室)、小売・飲食店や温浴施設などが入る商業棟、長崎大学大学院などが入居予定のオフィス棟を整備した。
総事業費は約1000億円。ジャパネットHDのグループ会社で施設を運営するリージョナルクリエーション長崎の執行役員、折目裕氏は「サッカースタジアムやアリーナに商業棟やオフィス棟、ホテルを併設している複合施設は、日本はもちろん、世界的に見てもかなりユニーク。街の中心部にあり繁華街も近いので、イベントを通して街ににぎわいが広がっていくことを意識した」と話す。
「日本で一番ピッチが近いサッカースタジアム」
中核施設となるピーススタジアムは、選手らがプレーするピッチと観客席との距離が全方向で最短約5メートルと近いのが特徴だ。「日本で一番ピッチが近いサッカースタジアム。選手の声やボールを蹴る音は臨場感があり、迫力がある」(折目氏)。
V・ファーレン長崎取締役兼C.R.Oの高木琢也氏は「観客席が非常に近く、プレイヤーとしても緊張感があり、集中力が研ぎ澄まされる。その中でスーパープレーも生まれてくるのではないか」と期待する。試合のない日は自由に観客席に入れるようにするほか、スタジアムツアーも実施する。
スタジアムには、レストラン「ザスタジアムブリューナガサキ」を併設。10台のタンクで、長崎産の「ゆうこう」を使ったフルーティーな味わいの「ヴィ・ビール」など年間約9万リットルのオリジナルクラフトビールを醸造し、常時7、8種類を提供する。ビールに合うおつまみや食事も提供する予定。3階のレストランはコンコースを挟んでスタジアムと直結しているため、サッカーの試合がある日は、ビールを片手に観戦できる。
ハピネスアリーナは、どの席からも試合が見やすいすり鉢状の設計。長崎ヴェルカ社長兼GMの伊藤拓摩氏は「ファンの皆さんの声援も届きやすい。ヴェルカの選手たちにとっては後押しになるし、対戦相手にとってはプレッシャーになる」と話す。スタジアムシティホテル長崎と直結のVIPルームでは、食事やお酒を楽しみながらの観戦も可能だ。
アリーナは可変式の設計のため、コンサートやイベント会場としても活用できる。折目氏によると、これまで長崎では約2000席のホールが最大規模だったため、それ以上の規模のイベントとなると、県外まで足を運ぶ必要があった。「これまで長崎で見られなかったコンテンツを見られるようにして、街の豊かさ、住まいの豊かさを提供したい」と話す。
客室の約7割からスタジアムが見下ろせるホテル
スタジアムシティホテル長崎は、ロビーやレストラン、プール、大浴場などホテル内のさまざまな場所からスタジアムを見下ろせる。客室全体の約7割の部屋からもスタジアムが望めるため、サッカー観戦と宿泊が楽しめるのが大きな特徴だ。それ以外の部屋からは、斜面に連なる家々が織りなす夜景を堪能できる。
特徴的な部屋が、VfBシュトゥットガルト(ドイツ)、シント=トロイデンVV(ベルギー)、サンフレッチェ広島、V・ファーレン長崎という国内外の4サッカーチームが平和への思い、「PR(L)AY FOR PEACE」をテーマにコラボレーションしたコンセプトルームだ。V・ファーレン長崎やヴェルカ長崎のクラブマスコットをモチーフにしたキャラクタールームもある。料金は1泊朝食付きで、最も安い「スタンダードシティビューツイン」(広さ30平方メートル以上)が2人利用で1人当たり1万6400円から、最も高い「スタジアムビュースイート」(同60平方メートル以上)が同7万7200円からとなる(いずれも税・サービス料込)。
サッカーの試合がない時はスタジアムでレーザーショーを行うなど、サービスの内容も工夫した。最上階には、東京以外では初出店となる実業家の堀江貴文氏らが設立した会員制和牛レストラン「WAGYUMAFIA」や音楽と食事を楽しめるライブレストランを展開。フレンチ、和食、イタリアンのレストランやクラブラウンジなどもそろえた。リージョナルクリエーション長崎社長の岩下英樹氏は「ホテル単体としても戦っていける」と胸を張る。
スタジアムシティ長崎全体で、九州や長崎で初となる店舗を含む約80店舗が出店予定。目玉となるのが、オフィス棟と商業棟の屋上の間に張られたワイヤーロープを滑降するジップラインだ。スタジアムを見下ろしながら長さ258メートルの距離を滑降するジップラインは日本初という。
商業棟にある温浴施設「YUKULU(ゆくる)」もお勧めだ。地下1500メートルからくみ上げた温泉や3種類のサウナがあり、休憩スペースにはキッズスペースや電源を備えた。屋上には無料の足湯も設置。稲佐山や長崎港などを眺めながらゆっくりできる。
民設民営の地域創生モデルの波及に期待
通販事業を営むジャパネットグループならではの取り組みも随所に見られた。ホテルの客室で採用されている「エアウィーブ」のベッドマットレスや枕、55型以上の大画面テレビ、ダイソンのドライヤーなどの寝具や家電、アメニティは購入可能だ。オフィス棟には、ジャパネットたかたのテレビショッピングで人気の商品を試せる体験型店舗「ジャパレクラボ(Japanet Recreation Labo)」を展開する。
ところで、なぜ、ジャパネットグループがこのような民設民営のまちづくりに取り組むことになったのか。V・ファーレン長崎のスポンサーをしていた同グループは2017年、経営不振に陥ったチームを「スポーツをする楽しさや感動を長崎から消したくない」という思いでグループ会社化。三菱重工業の長崎造船所幸町工場の売却について知り、「スポーツを核にした街ができることで、長崎を元気にできるのではないか」と再開発事業に乗り出した。2019年にリージョナルクリエーション長崎を、2020年には長崎ヴェルカを設立。長崎スタジアムシティのスタッフには、正規と非正規で合計1000人以上を地域採用した。
全国的にも珍しい大型複合施設の開業に地元の期待も高まる。内覧会では、長崎県の大石賢吾知事が「スポーツ観戦以外でも、産学連携や県外からの観光客を含めた交流人口の拡大や若者の流出抑制につながると期待している」、長崎市の鈴木史朗市長が「長崎市全体の経済効果にも波及し、新たなビジネスチャンスも創出されると考えている」とコメントを寄せた。
長崎スタジアムシティには、全国各地のスポーツクラブやデベロッパーなどが視察に訪れている。「民設民営で行ったスポーツを中心としたまちづくりという地域創生のモデルが全国に広がっていくことを心から望んでいる」と岩下氏。「箱はできたものの、最終的に事業として成立しないと次に続かない。しっかり収益が上がるモデルを作っていく」と意気込む。
サッカーやバスケットボールのファンだけでなく、地域住民や観光客の交流や集客も考え、整備された長崎スタジアムシティ。新たな地域創生のモデルとなることを期待したい。
取材・記事 ライター 南文枝