個人宅宿泊(いわゆる民泊)の旅館業法下の問題点、現状と課題を観光庁に聞いてきた

法的に「グレー」と言われつつも、急速な実態が進むエアビーアンドビー(Airbnb)など個人宅宿泊のネット仲介サービス。政府は「規制改革実施計画」で、この無秩序の状態にある国内の現状に対して2016年までに"結論"を出すことを閣議決定した。訪日外国人市場が急拡大するなか、国の対応は待ったなしだ。

世界の潮流になりつつある"シェアリング・エコノミー"という新しいビジネスモデルは、経済・地域活性化につながると期待されている。そのひとつのカテゴリーといえる個人宅へのネット仲介ビジネスの台頭で「民泊」の秩序が見えなくなっている。これに対して、規制当局はどう対応していくのか――?

現在の旅館業法下での問題点、将来的に考えうる課題、今年から来年にかけての取り組みなども含めて、観光庁観光産業課課長補佐の谷口和寛氏に聞いてみた。

無秩序状態の民泊、実態の把握が第一歩

IMG_9549「民泊のニーズがあるのも、そこで良い体験をしている人がいるということも聞いている。それが地域の観光に資することもあるだろう。しかし、現在はどこで誰を泊めているのかわからない無秩序状態。それは危険ではないか」。谷口氏は、民泊を取り巻く環境について、そう現状認識を示す。

たとえば感染症が起きても、その発生源を追跡できない。不法滞在者が逃げこむ、違法な営業活動の拠点となる。ホストとゲスト間のトラブル、ホストと不動産所有者とのトラブルなど…。こうしたさまざまなリスクは民泊に限ったことではないが、規制のもとで監督されていない現状では、国としても不測の事態への懸念は大きくなっている。

観光庁としては、「ホストの安全面、ゲストの安全面、近隣住民の安全面も含めて、まずは実態を把握していくことが必要になってくる(谷口氏)」との考えだ。

そもそも、旅館業の定義とは?

ここで、旅館業法に基づく旅館業の定義を整理する。

旅館業とは、「施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業」。ここで言う「営業」とは、社会性をもって継続・反復されているものを指す。

これを、仲介サイトに登録している個人宅ホストに当てはめた場合、取引対象が世界中の仲介サイト閲覧者となるため、社会性が認められる。また、一度ゲストを宿泊させた後も、引き続き仲介サイトに登録し続けている場合には、継続・反復の意思があると思われるため、"営業"としてとらえられる可能性が高い。

旅館業法上、営業の種別は、ホテル営業、旅館営業、簡易宿所営業(カプセルホテル、ドミトリー等)、下宿営業の4つあり、その営業種別毎に、許可を受けるための要件が課されている(許可主体は都道府県)。

そして、ホテル営業については部屋数10室以上、旅館営業については部屋数5室以上といった要件が課され、いずれも玄関帳場(フロント)が必要とされる。

そのため、谷口氏は「現在の個人宅が、客室数要件や玄関帳場要件が課される"ホテル営業"または"旅館営業"の許可を取得することは通常困難」と指摘する。下宿営業は、1ヶ月以上の期間を単位として人を宿泊させる営業種別で、そもそも民泊になじまない。「許可を取得するとすれば、"簡易宿所"の営業許可になる。しかし、簡易宿所についても、客室の延床面積が33㎡以上必要であるし、条例で玄関帳場の設置が求められることもあるため、構造上、同許可を取得できない個人宅もあるだろう」と話す。

実態が先行する民泊、これまでの流れ

「実態が先行する(谷口氏)」なか、国としてもここにきて民泊について真剣に議論を始めた。「安全面の懸念」という観点からだけではなく、増加の一途をたどる外国人観光客の受入れ環境の整備という観点も無視できないだろう。

ここで、これまでの流れを整理する。

1. 2014年4月 「国家戦略特別区域法」が施行

法で、旅館業法の適用除外が認められた特別区域での外国人滞在施設経営事業については、自治体による条例制定の壁が厚く、進んでいない。

同時期に、百戦錬磨が「国家戦略特別区域法」の旅館業法適用除外を活用する「とまれる」スタート。エアビーアンドビー(Airbnb)が日本法人を設立するなど、民間企業側でも注目すべき動きがあった。

2. 2015年6月 「アクション・プログラム2015」で実態把握を明記

観光立国推進閣僚会議がまとめた「観光立国実現に向けたアクション・プログラム2015」では、まず、外国人滞在施設経営事業に関し、「早期実施を図るため、宿泊者名簿の設置等を含めた適切な対応を検討し、当該制度に基づく事業の実現を図る。」という文言が組み込まれた。

また、仲介サイトを通じた民泊については、「インターネットを通じ宿泊者を募集する一般住宅等を活用した民泊サービスについては、新たなビジネス形態であることから、まずは、関係省庁において実態の把握等検討を行う」と明記されている。

3. 2015年6月 「規制改革実施計画」が閣議決定

計画のなかでは、「(中略)民泊サービスについては、関係省庁において実態の把握等を行った上で、旅館・ホテルとの競争条件を含め、幅広い観点から検討し、 結論を得る」と一歩踏み込んだ。

民泊は、旅館業を所管する厚生労働省の管轄だが、観光庁でも関係省庁と連携しながら議論を進めていく流れができあがっている。

新しいビジネスモデルゆえに浮かび上がる数々の課題

ケース1. 民泊が旅館業となった場合: 仲介業者は「旅行業」取得の義務

シェアリング・エコノミーへの規制の難しさは、それがC to C(個人から個人での取引き)という全く新しいビジネスモデルというところにある。そのひとつが、仲介事業者の位置づけだ。

仲介事業者自体は、自ら宿泊サービスを提供する訳ではないので、旅館業法の規制対象ではない。しかし、宿泊サービスに関し、代理、媒介、取次ぎを実施して手数料を収受する行為は、旅行業法に基づく「旅行業」に該当する可能性があるため、その場合、同法に基づく登録が必要となる。

ここで問題になってくるのが、民泊が旅行業法上の「宿泊のサービス」に当たるかどうか。観光庁の解釈では、旅行業法上の「宿泊のサービス」とは"事業"として実施されるものを指す。言い換えれば、旅館業法に基づく「旅館業」にあたる宿泊サービスを指すという。

とすると、仲介事業者が仲介する民泊が旅館業法上の「旅館業」と認められれば、仲介事業者は旅行業の登録を受ける必要があるというロジックになる。

ケース2. 個人宅で"営業"が行われる場合: ホストは個人事業主として納税の義務

また、谷口氏は今後考えうる課題も指摘する。課税所得の問題だ。「個人が生業として部屋を貸して、ある程度所得が積み上がってくると、確定申告が必要になってくる。それを税務署がどこまで捕捉できるかという問題もある」。つまり、民泊を実施するホストは、個人事業主になりうるわけだ。

このほか、法律でネックになるとすれば用途地域規制。障壁となるのは限定的だが、別荘の貸出しビジネスは、この規制の範疇となる。この議論は、昨年ネット上で話題になった記事が参考になる。

また、議論が進めば様々な課題も浮かび上がることだろう。そのために、まず実施するのは実態調査だ。

政府はなにをするのか? -安全・安心な宿泊環境を整える法的な交通整理へ

IMG_9543谷口氏は「民泊が、実際にどういう物件で、どのような人をどのように宿泊させているのか、まだまだわかっていない。まずは、関係省庁が連携して、実態を調査することが必要。」と明かす。また、実際の居住の有無、運用目的の物件がそれどれくらいあるのか、というような民泊で活用されている物件の詳細、トラブルの事例なども把握したい考えだ。さらに、同様の動きに対する諸外国の対応状況についても調べていく。

観光庁は、これらのような民泊の実態を踏まえ「民泊について、法的に交通整理を行っていくことが必要(谷口氏)」との立場だ。では、訪日外国人2000万人・3000万人の目標達成や2020年の東京オリンピック・パラリンピックに備えた宿泊キャパシティの観点ではどうなのか?

これについて、谷口氏は「まずは、旅行者にとって安全・安心な宿泊環境を整えることを優先しなければならない」と強調する。秩序を整えるルールが必要になるだろうが、その具体策はこれからの議論になる。

一方、宿泊サービスの交通整理を行うなかで、既存の事業者との関係も問題になってくる。既存の宿泊業者のあいだでは、「基本的に人を泊めることは同じである以上、同じ条件のもとでの競争でなければフェアではない」という意見も根強い。多額の設備投資を行い、規制遵守の労力を惜しまないホテルや旅館にとって、至極当然の考えだろう。

ただ、人を泊めることは同じであっても、ビジネスモデルには大きな違いがあるのも事実だ。

今年から来年にかけて、日本国内における個人宅での宿泊サービスを取り巻く環境は変わっていくと考えられる。現行法の運用で規制をかけるのか、それとも新たな法整備がなされるのか、政府の議論の結果が待たれるところ。政府は、厚労省、観光庁ら関係省庁が連携し、検討を進める方針だ。

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