千葉千枝子の観光ビジネス解説
写真:各国大臣も臨んだ開会式のテープカット。山口範雄日本観光振興協会会長から開会宣言がなされた(筆者撮影)
世界141の国と地域、国内47都道府県すべてから、1161の企業・団体が出展して開催された「ツーリズムEXPO ジャパン2015」は、会期4日間(2015年9月24~27日)の総来場者数が前年の15.7万人を上回る17.3万人(主催者発表)を数え、大成功のうちに終わった。
主催者の日本旅行業協会・田川博己会長は開幕記者会見の席で、「今年はステップイヤーの年」と語った。なぜなら来年はリオデジャネイロで夏季五輪が開催され、いよいよ東京開催への五輪カウントダウンが始まるからだ。
世界最大へのこだわりも見え隠れする。ちなみに欧州の観光見本市で最高峰といわれるITBベルリンは入場者数約18万人、中国最大規模のBITE北京国際旅遊博覧会は約11万人、日本からも積極的に出展がなされるWTF上海世界観光博覧会は約4.6万人(いずれも2014年実績・JNTO調べ)と、今年17万人超えを果たしたツーリズムEXPOジャパンは、世界のトラベルマートに比肩するほどに成長した。
だがこれからは、「規模はもとより質を上げていく」と語るのは、同じく主催者の日本観光振興協会・山口範雄会長だ。「かつて観光は物見遊山であったが、今は深さや広さが増している。単に風光明媚な場所へ行くだけでなく、文化や、そこに暮らす人々を知ることの面白さが世界の旅行者に共通する(同氏)」と言い、質へのこだわりもみせた。世界の背中は、やっと見えたばかりだ。田川氏は「B to Bでは、世界中のプロが集まるべきで、国際フォーラムも含め大きく流れを考えていく」とも語っており、来年以降が期待される。
以下に、海外旅行、国内旅行・訪日旅行が三位一体となり、それぞれの分野が5つの柱(展示会、国際観光フォーラム、商談会、顕彰事業、JAPAN NIGHT(前夜祭))で執り行われた様子と五つの柱を紹介する。
1.展示会 -完全に体験・交流型へ移行、国内・訪日パワーが炸裂
今年の大きな特徴は、展示ブースが単なるパンフレットの陳列場であることを脱却して、体験・交流の場に大きく移行、訪れる人たちの長い滞留時間を得た。
民族衣装に身を包み記念撮影をする、子供にも安心な手描きタトゥーや民芸品づくりで観光動機を醸成する等々、外国政府観光局からなる海外ブースはパワーアップし続けている。
一方で、今年の国内・訪日ブースでも似たような現象がみられた。琥珀採掘体験や銘酒試飲、伝統工芸品のストリートにはカンナ削りや篆刻(てんこく)体験など、参加型・双方向型の立体的な展示が際立った。また、セミナー本数やステージスケジュールの多さに驚いた人も少なくなかったはずだ。
花を添えたのが、垂涎のファンも多いご当地ゆるキャラだ。その数の多さから着ぐるみ控室が設けられた。来場者との撮影に応じるなど、ツーリズムEXPOには欠かせない存在になった。
地歌舞伎などの国内伝統舞踊がJapanステージを彩り、全国ご当地どんぶりが来場者の腹を満たす。参加16どんぶり、全国ご当地どんぶり選手権も本選出場に、さまざまな業界から応援来場がみられ、投票結果発表でツーリズムEXPOの終盤を盛り上げた。
国内・訪日パワーが炸裂して、見本市優勢の海外ブースにじわり浸食を始めている感を得た。
2.国際観光フォーラム -日本のブランド力強化にUNWTOやシャネルのトップが激論
「旅と文化」を演題に基調講演に臨んだパスカル・ラミー氏は、WTO世界貿易機関の事務局長を歴任し、またUNWTO国連世界観光機関の補助機関である世界観光倫理委員会の議長を務める。貿易と観光という2つのWTOを知る稀有な人物だけに、「観光は、世界経済における最も重要な産業の一つ」とする言葉には重みがある。
旅することで、私たちは多様な文化と出会う。その価値観の調和性、すなわちハーモナイゼーションこそが今の時代には求められている。次なる基調シンポジウムでは、ラミー氏が親友と語る本保芳明氏をモデレーターに、フランスの高級ブランド・シャネル社のリシャール・コラス社長や京都市・門川大作市長、UNWTO理事でアジア太平洋部長のスー・ジン氏が加わって、日本の文化のポテンシャルの高さや旅と文化について、活発なディスカッションが繰り広げられた。詳しくは、あらためてお伝えしたい。
3.商談会 -海外・国内いずれも昨年を上回る数のバイヤーとセラー
バイヤーとセラーのマッチング商談会が会場整備されたのは、ごく近年のことである。それまでは文字通りの「旅の祭典」であり、ドレスコードも問わない業界催事の域にあったと、今でこそ振り返る。
今回の商談会場は、これまで以上に熱気に包まれた。各国で開催される国際的な観光見本市で、もっとも重要とされる商談会。ツーリズムEXPOジャパン2015では、アウトバウンド商談会と国内商談会に分かれて、それぞれに事前アポイントメント・マッチング形式とオープン・セッション形式で行われた。
アウトバウンド商談会におけるセラーは、事前登録だけで290社・430名(2014年実績は268社・403名)、バイヤーは160社・200名(同146社・186名)、国内商談会におけるセラーは、110社・160名(同87社・135名)、バイヤーは55社・85名(同42社・67名。いずれも9月14日時点の登録数)と、軒並み前年を上回った。数でみれば、さほどのボリュームを感じえないだろうが、最終日の閉会時刻まで訪れる人が絶えない会場であった。
4.顕彰制度の創設 -第1回ジャパン・ツーリズム・アワードは見本市と相乗効果で
新たな顕彰制度「ジャパン・ツーリズム・アワード」が創設され、今年の大きな目玉になった。その第1回受賞式が去る9月24日、JR東京駅に隣接、商業施設KITTEが低層階を占めるJPタワー ホール&カンファレンスで行われた。
特筆すべきは、国内・訪日と海外(国際)が、それぞれ部門別にセグメントされた点にある。部門賞・特別賞の数は計12と門戸が開かれているのが特徴で、地域づくりや観光産業にたずさわる人たちの大きな目標であり道標になるに違いない。
注目したのは、地域マネジメント部門で部門優秀賞を受賞した広島県教育委員会の「異文化間協働活動推進事業~高校生海外留学1万人プロジェクト~」だ。県立97校すべてが海外と姉妹校提携を結んでいるというのにも驚かされたが、高校段階で毎年1000人以上の生徒が海外に留学するよう教育環境を整備。こうした取り組みは、他県でも例をみない。
また、審査員特別賞に輝いた「北前船寄港地フォーラム」は、広域連携の先駆的取り組みで、開催したフォーラム件数は16回、8年間もの長きにわたる活動と情熱に脱帽した。
ほか、記念すべき第1回目の受賞者は、こちらを参照されたい。
5.「JAPAN NIGHT 2015」 -皇居から東京駅・行幸通りの夜空に青森ねぶたと跳人が舞う
MICE招致に欠かせない、ユニークベニュー。前身のJATA旅博では、これまでホスト国によるランチョン形式のキックオフが会議棟内で行われてきたが、ユニークベニューを活用したガラディナー形式の前夜祭・JAPAN NIGHTに移行してから、今年は3回目になる。
一昨年の増上寺、昨年の東京国立博物館に次いで選ばれたのは、皇居前の和田倉門から東京駅へと向かう通り・行幸(ぎょうこう)通りである。2015年9月25日の夜に行われたJAPAN NIGHT 2015は、あいにくの雨天だったが、それでも多くの関係者が詰めかけた。
大丸有(※)の中核、JR東京駅(丸の内)の駅舎は美しくライトアップされ、行幸通りの左右、丸ビルと新丸ビルはさながら阿吽(あ・うん)。ちなみに、この周辺に立地する外資系ラグジュアリーホテルが風水で、もっとも気(パワー)があるとする皇居や富士山に向けて、レセプションや客室をしつらえているのをご存じだろうか。その行幸通りで式典のあと、巨大な青森ねぶたが運行を始めると、激しかった雨脚が心なしか弱まった。
「雨降って、地固まる」という諺(ことわざ)がある。
東京の秋の夜空に青森ねぶたが灯り、たくさんの鈴をつけた跳人(はねと)が舞った。隊列の先頭を歩くのは三村申吾青森県知事だ。今回、青森県がプレミアム・デスティネーション・パートナーに、東日本旅客鉄道がプレミアム・デスティネーション・サポーターに、JAPAN NIGHTを特別協賛した。政府が推し進める地方創生の、まさに地固め・足固めといえる組み合わせ。今年度末(2016年3月26日)に、北海道新幹線(新青森~新函館北斗間)が開業する。
※大丸有(だいまるゆう)=大手町、丸の内、有楽町地区の総称で三菱地所が手がけた再開発エリアをさす。
まとめ -飛躍のための確かな足固めができた年
2014年をホップ、今年をステップ、そして来年をジャンプの年となぞられた、ツーリズムEXPOジャパン。いよいよ観光立国から、観光大国への扉が開かれようとしている。会期全般、天候には恵まれなかったため、多少は客足も鈍ったはずだ。
今回から、業界人であっても参加レジストリの事前登録が必要となり、若干混乱もみられたが、観光立国を標榜する以上は避けては通れない。属性や興味のジャンルなど、基本情報の集積が目的だ。ビッグデータなしの基幹産業は、21世紀にあり得ない。観光産業は外縁を広げており、今回のツーリズムEXPOの出展企業・団体の顔ぶれをみても明らかで、製造業、不動産業、流通・小売業、各地の経済連合会や商工会議所等がブースに軒を連ねた。飛翔のための確かな足固めが、今回のツーリズムEXPO 2015だったと筆者は感じた。
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