日本国内空港からそのまま離着陸で宇宙旅行、ANAとHISが資本提携した宇宙事業の未来図を聞いてきた

エイチ・アイ・エス(HIS)とANAホールディングス、宇宙機開発ベンチャーのPDエアロスペースは、民間主導による有人宇宙機開発で合意し、宇宙輸送の事業化に向けた資本提携を行なった。国内唯一の有人宇宙機開発を行なうPDエアロスペースに出資するとともに、HISが宇宙旅行と宇宙輸送サービスの販売を担当。ANAが航空会社のノウハウでパイロット訓練や客室仕様、整備など宇宙機運航に係るオペレーションを支援し、2023年12月の商業運航を目指す。

2016年12月1日に3社で開催した記者会見で、ANAホールディングス代表取締役社長の片野坂真哉氏は「宇宙旅行の時代はもうすぐそこに来ている」と話し、HIS代表取締役会長兼社長の澤田秀雄氏は「開発にはまだまだ資本が足りない。多くの人に日本の技術が世界で競争できるよう、協力してもらいたい」と参画を呼びかけた。国内大手航空会社と旅行会社が出資を決めた日本の宇宙旅行、宇宙開発とは?

先行企業より7割安く、将来はヨーロッパ旅行並みに

開発中の宇宙機の定員は乗員2名、乗客6名。宇宙旅行では大気圏と宇宙空間の境目とされる高度100キロに到達し、約5分間の無重力体験をして地球に戻る約90分の旅行だ。機内での内容は先行する海外企業の宇宙旅行と同様だが、PDエアロスペースの宇宙機は、離発着の場所を既存の空港で航空機と併用可能とする点で大きく異なる。

それを実現するのが、同社最大の特徴でもある特許を取得した次世代エンジン。旅客機のジェットエンジンとロケットエンジンの切り替えを可能としたもので、離陸時はジェットエンジンを使用し、上空でロケットエンジンに切り替えて宇宙空間を目指す。

帰還時もジェットエンジンに切り替えるため、航空機と同じような着陸ができる。従来の宇宙機が動力を切り、滑空しながら着陸するところ、同エンジンでは着陸のやり直しや空中待機、ダイバードも可能だ。実現すれば、専用の「宇宙港」の開発は不要となり、アクセスの良い国内空港から宇宙への旅行が可能になる。また、機体も航空機のように繰り返し使える完全再使用型とし、コスト削減を図るのもポイントだ。

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旅行代金は「当面は市場価格から大きく乖離させない」(PDエアロスペース代表取締役社長・緒川修治社長)との意向で、先行企業の7割程度の1400万円程度を想定。しかし、「宇宙利用の促進の最大の課題はコスト」という緒川氏は、「100万円台。欧州旅行の価格くらい」で利用できるようにしたい考え。商業化から3~4年で黒字化、5年後には5機で年間1000人の輸送を目指すという。

なお、実際の宇宙旅行販売の時期について澤田氏は、商業運航の1~2年前から開始する予定。国内のみならず、海外支店で現地の富裕層向けの販売も予定する。「先行他社から5年遅れたら難しい」と、開発スピードに釘をさした。また、緒川氏が将来的に目指すとした100万円台の旅行代金は、商業開始5年後には実現したい考え。HISによる独占販売の考えはないという。

宇宙ホテルや超高速輸送、旅行ビジネスの可能性

今後の開発スケジュールは2018年10月までに無人機で、2020年10月に有人機での高度100キロを達成し、2023年5月にはアメリカ連邦航空局(FAA)と国土交通省の認証を取得。同年12月に商用運航開始を目指す。

しかし、緒川氏は「宇宙旅行だけが我々の目的ではない」と述べ、将来の事業構想を発表。宇宙旅行で高度100キロの宇宙空間へ安全に人を輸送できるようになることで、さらにその先の展開に進めるという。具体的には宇宙空間で衛星や人を搭載したロケット発射を行ない、物資輸送や資源調達、宇宙ホテルなどへの人の輸送などを視野に入れる。また、大気圏内でもエンジンの切り替え技術を使って、2地点間をコンコルドの5倍くらいの超高速移動することもできるようになるという。

事業構想ではANA及びHISの事業に関わる要素も提示されたが、片野坂氏は2地点間の超高速について「いろいろなチャンスに壁を作らない」と述べるに留めた。また、澤田氏は目下、発電やロボットなど事業分野を広げているが、今回の件では「旅行会社として旅行分野に徹する」と語り、現時点で宇宙事業への参入は否定した。ただし、宇宙ホテルについては宇宙輸送が安定的にできるようになれば「やってみたい」と意欲を示した。

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取材・記事:山田紀子

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