今年1月1日付けで楽天ライフ&レジャーカンパニーのトラベル事業長に就任した髙野芳行氏。「過去10数年間で旅行素材をインターネット上でダイナミックに予約ができ、安心して旅行ができる仕組みを構築してきた。これからはプラスアルファ」と話す。旅行予約のオンライン化が進むなか、今後どのように楽天トラベルの舵を取っていくのか。その「プラスアルファ」について話を聞いてきた。
カギは楽天グループが持つ膨大なビッグデータ
楽天トラベルは、予約プラットフォームから楽天会員とサプライヤーの双方に最適な選択を実現する「ベストマッチング」プラットフォームへの進化を進めている。そのカギとなるのが、楽天グループが集めるビッグデータ。トラベル事業だけでなくライフ&トラベルカンパニーの他事業、EC事業からフィンテックなどの金融まで楽天グループの会員から得られるデータを活用していく。これは全社的な取り組みだ。
「旅行で得られるデータからは、どういう宿を検索するかしか分からないが、ECなどグループ全体のデータを活用すると、ユーザーのライフスタイルの傾向も把握できるようになる」と髙野氏は説明し、「楽天グループは日本一の会員を持っている。それがほかの旅行会社にはない強み」と強調する。
たとえば、カップル予約していたユーザーが、どこかのタイミンクで子供ができたというライフスタイルの変化は、ECのデータ(物品の購入履歴)に如実に現れる。そうしたデータを活用しながら、ユーザーに最適な宿を、さらには期待を超える宿をリコメンドしていく。髙野氏はその戦略を「友人にプレゼントを送るとき、その友人のバックグラウンドやパーソナリティーが分かれば、その内容が変わってくる」と表現する。
ただ、過度なリコメンデーションは、ユーザーに嫌悪感を抱かせ、敬遠されてしまう恐れも多分にある。子供が生まれた途端にマタニティ旅行の案内が送られてくると、プライバシー漏れに対する警戒心に身構えることも予想されるが、髙野氏は「クリックをしなくなるとか、コンバージョンレートが下がるなどから、そうした傾向もデータに現れるので、ユーザーが嫌がることについても十分に配慮していきたい」と話す。
ユーザー目線でサイトの改善も
同時に、探し始めてから見つけるまでの時間や労力を減らし、より簡単な予約を実現するために、既存のサイトの改善も進めていく考えだ。外資OTAが日本でも伸びている理由のひとつに、UIがシンプルなことが挙げられるが、「競合他社との比較でサイトを改善するのではなく、ユーザーが使いやすいかどうかが重要」と髙野氏。逆に情報が少なすぎると、外資との差別化にはならないとの考えだ。
また、今後活用の幅が広がる期待されているAIやチャットボットについては、「インターフェイスのひとつにすぎない」との考え。AIでは、データの量とアルゴリズムが多くなり、適切なマッチングが可能になるが、「新たな発想というわけではなく、ユーザーの満足度を高められるかどうかはまた別の話だろう」と話す。楽天トラベルとしては、IT環境の変化に応じて着々と進めていく方向性だ。
昨年、楽天グループはカンパニー制に移行。それにともない、別組織だった技術開発部門を、それぞれのカンパニーに技術開発部門を組み入れ、お互いの連携を密にすることで、より近い立場でサービスを創出していく体制に変えた。「ライフ&レジャーはマッチングサービス系が集まっているが、それぞれのケーススタディーを共有しやすくなった」と、その効果を強調する。
宿泊施設のターゲットともベストマッチング
一方、サプライヤーである宿泊施設に対する「ベストマッチング」では、個々の楽天会員にターゲティングできる仕組みを構築していく。「宿泊施設にもそれぞれ戦略がある。ターゲットとする客層に対してプロモーションをかけて、それを取り込めることが可能になるプラットフォームを目指していく」とした。また、髙野氏は昨年開始したキャンセル料の徴収について「宿泊施設が確実にキャンセル料を徴収できる仕組みはできた。一定の評価を受けていると思う」と手応えを示す。本来的に、ユーザーはキャンセルポリシーにしたがってキャンセル料を支払うべきもの。この仕組みによって、ユーザーの消費動向が大きく変わったことはないようだ。
また、豊富な在庫を武器に旅行会社向けB2Bに力を入れるOTAが増えているが、髙野氏は「(この分野での)B2Bの事業化の考えはない」と明言する。基本的には掲載宿泊施設を可能な限り売るためにオープンにプラットフォームをつなげていく戦略。一方で出張などビジネストラベル分野(BTM)での「提携やアライアンス、一般企業との契約は個別対応」で進めていく。
オフラインでのコミュニケーションも積極的に
楽天トラベルは今年も全国の宿泊施設が提供する朝ごはんから日本一を決定する「朝ごはんフェスティバル」を開催した。7回目となる今年は、ファイナリストを決定するセカンドステージで一般公募約600人による実食も実施。髙野氏は「これまではプロの料理人だけの試食で決めていたが、一般の人にも参加してもらうことで、日本一により説得力を持たせた」とその背景を説明する。
日本一に選ばれたのは、山形県鶴岡市の温海温泉・萬国屋の「山形牛の旨味がたっぷり染み出た具だくさん芋煮汁と磯の香・吟醸茶漬け〜山形の恵みを添えて〜」。朝ごはんに力を入れている宿泊施設は多いが、夕食ほど注目されていないことから、「宿のことをもっと知ってもらういい機会になっている」とこのフェスティバルの意義を強調する。
「オンライン上ではユーザーとの接点をもってきたが、今後はオフラインでもコミュニケーションをとっていきたい。また、楽天のプラットフォームとだけではなく、ユーザーと宿泊施設とのコミュニケーションの場ももっと設けられれば」。楽天市場では、マーケットに集まる店舗の魅力が上がることでマーケット自体の価値も上がっていく。「トラベルもそういうものにしていきたい」と髙野氏は先を見据える。
聞き手:トラベルボイス編集部 山岡薫
記事: トラベルジャーナリスト 山田友樹