アジア拠点のカジュアルクルーズ客船・スタークルーズは2017年7月~11月にかけて日本発着クルーズを実施することを発表した。2017年に運航する外国客船の日本発着クルーズ(複数回実施)は、すでに販売を開始しているプリンセス・クルーズ、コスタ・クルーズ、セレブリティクルーズとあわせ、4社に拡大する。
同社は旗艦船のスーパースターヴァーゴ(約7.5万トン、乗客定員約2000人)を投入し、大阪/横浜/清水(静岡)/鹿児島/上海を寄港地とする7泊8日のクルーズを計21本運航。大阪、横浜、上海で乗下船を可能とするインターポーティング制を導入し、日本と中国を中心に、豪州など20か所のグローバル拠点からも集客を図る。
これにあわせ、親会社であるゲンティン香港の経営陣が来日し、新航路発表会を開催。スタークルーズ社長兼ゲンティン香港営業取締役副社長及び中国代表のアン・ムー・リム氏は、「旗艦船ヴァーゴの配船は日本に対するコミットメントの表れ」と、日本をソースマーケットとして重視する姿勢を強調。「日本人の旅行に新しいオプションを提供し、日本のクルーズ産業のさらなる成長に寄与する」と、4か月後にスタートする日本発着クルーズへの自信を示した。
2大都市圏の集客見込める1週間クルーズ、目標は2万人
今年、外国客船の日本発着クルーズ(複数回実施)を実施する4社のなかで、今回発表されたスタークルーズの特徴のひとつはコースにある。横浜と大阪の日本2大都市圏に母港を設定し、同一コースを継続的に運航する。これはスタークルーズのみだ。東日本を含む5つの寄港地を1週間の旅程に収めることができたのも、「足が(スピードが)速いヴァーゴでしかできない航路」(スタークルーズ日本オフィス代表・山本有助氏)とアピールする。さらに出発日も大阪は土曜日、東京は日曜日と週末出発とし、5日間の有給休暇で参加しやすくした。
また、船内プログラムやサービスでは、日本人向けの企画も用意。寄港地由来の食事や名産品販売、客室内に浴衣やお茶などを用意するほか、今回は「飛鳥」や「クイーンエリザベス」で日本人アテンダントを務め、クルーズファンの支持の高い吉田あやこ氏をアンバサダーとして起用。現在、実施しているヴァーゴの船内改装に、吉田氏のアドバイスも反映する。このほか、船内での日本人サポートを目的に、日本人のスタッフを40名乗船させる予定だ。
山本氏によると、日本では1運航あたり乗客定員の約半数にあたる1000名、期間中に計2万人の送客を目指す。メインはシニアや家族旅行と予想するが、特に「20年で18万~23万人の推移となっている日本のクルーズ市場の閉塞感を打ち破る」ためにも、クルーズや海外旅行をしたことがない新たな客層の取り込みを図る。そのため、MICEにも力を入れるほか、新しい切り口でのアプローチに取り組む考え。
料金は、出発日によって「NORMAL」「MID」「SUPER PEAK」の3段階で設定。日本人はオーシャンビューとバルコニーを中心に販売し、オーシャンビューは15万8000円~、バルコニーは19万8000円~。
今後、テレビや新聞、屋外広告、SNSなどを含めたプロモーションを展開。セールスでは、「説明商品であるクルーズは、オンラインでは対応しきれない」との考えで、従来型の大手旅行会社を中心に、地域の顧客を抱える2種、3種の旅行会社などでの販売も増やす方針。早期割引の設定などを含め、旅行会社と販売施策を講じ、送客拡大に努める。また、日本オフィスの販売スタッフも増強する。日本発着クルーズは来年以降の実施も予定している。
日本発着クルーズは再参入、その決断の理由
実はスタークルーズは、クルーズ元年といわれた2000年に大阪から釜山への日本発着クルーズを実施している。
再参入について、ゲンティン香港創業社長で現在は顧問のコーリン・アウ氏は、以前と比較し、大阪と横浜の2つの日本の中心から集客できることに加え、「環境が大きく変わり、中国が年間200万人のクルーズ市場に成長し、クルーズで日本を訪れるようになった。これは日本にとっても黄金のチャンス」と、成功への自信を示した。
「クルーズは日本人がしたことのない数少ないもののひとつ。日本を訪れるクルーズは日本人にも魅力がある」とも話す。
現在、ゲンティン香港ではスタークルーズと、2016年11月に就航した新ブランド「ドリームクルーズ」とあわせ、アジアを中心に10か国、12の母港で、35の寄港地に運航。中国のクルーズ市場を基盤に、規模を拡大している。
コーリン・アウ氏は、MSCクルーズやコスタ・クルーズなど、クルーズで先進する欧州の客船会社では、欧州各国の人々が1つの船に乗船する「マルチナショナルクルーズライン」として成功していることに言及。「我々も同じことを目指している」と述べ、「(日本人だけなど)単一文化の船もいいが、アジアの人々が集うマルチカルチャーの方が、面白い体験ができる。そういう交流の場になればうれしい」と、これからの時代を見据え、アジアでクルーズを展開する同社の思いを語った。
なお、今回の発表会では、ドリームクルーズについて、4月から第一船の「ゲンティンドリーム」を香港/広州を母港にした沖縄クルーズを運航することも発表。来年以降については、ドリームクルーズでの日本発着クルーズの実施も視野に検討していくという。
取材:山田紀子(旅行ジャーナリスト)